リュシェルが財政の問題を見つけ出したことがきっかけで、彼女に対する王宮内の評価は大きく変わり始めた。侍女としての役割を超えて、知性や冷静な判断力を持つ彼女は、王宮の中でも特別な存在として少しずつ認められつつあった。しかし、その急速な変化は新たな課題も生み出していた。
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評価と警戒
アレンが主催する定例の会議で、リュシェルが提出した財務報告が議題に上がった。貴族や官僚たちが集う中、アレンは自信満々に彼女の功績を話題にした。
「この財務報告をまとめたのは、侍女として働いているリュシェルだ。彼女が見つけた不正をもとに、我々は迅速に対応することができた。」
その発言に、出席者たちの間でざわめきが起こる。侍女がここまで重要な役割を果たすことは異例であり、一部の者たちは不快感を示していた。
「侍女にしては確かに優秀だが、こうした特例が続けば他の侍女たちに示しがつかなくなるのでは?」
「王太子様、慎重になられた方がよいかと存じます。」
冷ややかな声も上がる中、アレンは毅然とした態度でこう言い放った。
「能力を正当に評価しないのは、王宮としての損失だ。リュシェルの行動は正しかったし、今後も彼女にはその才能を活かしてもらう。」
その堂々とした言葉に、反論の声は次第に収まっていった。
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妬みと不安
一方、王宮の侍女たちの間では再びリュシェルへの嫉妬が広がっていた。特に、長年侍女として仕えてきた者たちの中には、自分たちが評価されず、急に現れたリュシェルばかりが注目される状況に不満を抱く者もいた。
「私たちがどれだけ苦労して働いてきたと思っているの?」
「結局、美貌と元貴族という肩書があるから優遇されているだけじゃない。」
そんな声が彼女の耳に届くたびに、リュシェルの胸は苦しくなった。自分の努力が認められた喜びと、それによって生じる周囲の敵意。その狭間で、彼女は孤独を感じていた。
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アレンとの対話
ある夜、リュシェルが仕事を終えて自室に戻ろうとすると、廊下でアレンと鉢合わせた。彼はいつもと違い、少し疲れた表情をしていたが、リュシェルを見ると微笑みを浮かべた。
「リュシェル、少し時間はあるか?」
彼の問いにリュシェルは頷き、二人は庭園へと足を運んだ。月明かりが照らす静かな庭で、アレンは少しの間言葉を発さなかった。
「君が孤独を感じていることはわかる。」
突然の言葉に、リュシェルは驚きつつも黙って聞き入った。
「君の才能が評価される一方で、周囲がそれをどう受け止めるかは簡単なことではない。だが、僕は君の努力を無駄にしないつもりだ。」
アレンの真剣な言葉に、リュシェルは涙が込み上げるのを感じた。自分が認められ、支えられていることがどれだけ心強いか。だが同時に、彼女は一つの覚悟を決めた。
「私は、この場所で自分の力を証明したい。誰かに頼られるだけではなく、自分の手で未来を切り開きたいのです。」
リュシェルの決意に、アレンは満足そうに頷いた。
「君がそう思ってくれるなら、僕も全力で君を支えるよ。」
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覚悟の証
その翌日、リュシェルは自ら進んで新しい仕事を申し出た。それは、複雑な財務の監査と、王宮内の物資管理の改善だった。彼女の提案は一部の高官たちを驚かせたが、アレンの後押しもあり、彼女にその任務が任された。
新しい責任を引き受けたリュシェルは、仕事に没頭しながらも、周囲との関係も少しずつ改善していった。噂をしていた侍女たちとも直接向き合い、誤解を解こうと努力した。
「私はあなたたちと同じ立場でここにいます。ただ、与えられた仕事を一生懸命にこなしているだけです。」
その言葉に、侍女たちの中には少しずつリュシェルを理解し始める者も現れた。
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新たな未来へ
リュシェルはこの1か月で大きく成長した。追放され、何もかも失ったと感じていた彼女は、今では新しい居場所と役割を見つけつつあった。そして、これからも努力を続ける覚悟を固めた。
「私は、もう誰にも屈しない。」
静かに呟いたその言葉は、彼女自身の未来への決意そのものだった。