リュシェルの隠された才能が認められたことで、彼女は王宮内で次第に重要な役割を担うようになった。アレンの信頼を得た彼女には、新たな責任が与えられることになった。それは、隣国との外交取引に関する資料整理と、商業関係の改善案を提出するという、侍女としては異例とも言える大役だった。
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突然の任務
「リュシェル、少し時間をもらえるかな?」
アレンが彼女を呼び出したのは、ある朝のことだった。執務室の窓から差し込む陽光がアレンの背中を照らし、その表情は真剣そのものだった。
「何でしょうか、アレン様?」
リュシェルが静かに問いかけると、アレンは机の上に広げられた地図と書類を指差した。
「君には、ここにある商業取引の資料を整理し、改善案を考えてほしい。この案件は、セリナ王国と隣国の経済関係に大きな影響を与える重要なものだ。」
その言葉に、リュシェルは一瞬目を見開いた。これまでの仕事よりも遥かに重い責任を感じたが、アレンの信頼に応えたいという思いが彼女を奮い立たせた。
「承知しました。私にできる限りのことをいたします。」
彼女は深く頭を下げ、資料を受け取った。
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資料整理の日々
リュシェルが任された資料は膨大な量で、内容も複雑だった。数十年分の取引記録や契約書、各地の経済状況の報告書などが山のように積まれていた。彼女はそれを一つひとつ丁寧に読み解き、重要な点を抜き出して整理していった。
「この支出は、隣国からの輸入品に対する関税が原因ね……でも、この地域では地元産業を守るために関税を維持する必要があるわ。」
彼女は時折呟きながら、記録を丹念に調べていった。
一日の仕事を終える頃には、机の上には詳細なメモと要約が並べられていた。疲れた表情を浮かべながらも、リュシェルは達成感を感じていた。
「これでアレン様の期待に少しは応えられるかもしれない……」
彼女は静かにそう呟いた。
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会議での試練
数日後、アレンはリュシェルを貴族たちが集う会議に同席させた。彼女の提案を貴族たちの前で発表し、彼らの意見を仰ぐためだった。
「リュシェル、この会議では君の提案が中心となる。遠慮せずに自分の意見を述べてほしい。」
アレンの言葉に、リュシェルは緊張しながらも頷いた。
会議が始まると、貴族たちの厳しい視線が彼女に注がれた。彼らの多くは侍女であるリュシェルがここにいること自体を疑問視しているようだった。
「この者が提案した改善案とは何だ?侍女が経済を語るとは珍しいな。」
冷たい声が飛び交う中、リュシェルは書類を手に取り、堂々と説明を始めた。
「セリナ王国と隣国との貿易において、現行の関税政策が両国にとってどのような影響を及ぼしているかを分析しました。その結果、特定の品目において関税を引き下げることで、双方向の利益を増やす可能性が高いと考えています。」
彼女の説明は的確で簡潔だった。最初は冷ややかだった貴族たちも、次第に彼女の言葉に耳を傾けるようになった。
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信頼の証
会議が終わる頃には、多くの貴族たちがリュシェルの提案を評価するようになっていた。
「侍女とは思えないほどの見識だな。」
「この提案はぜひ実現すべきだ。」
アレンは満足げに微笑みながらリュシェルを見つめていた。彼は会議が終わるとすぐに彼女の元に近づき、静かに言った。
「君は本当に素晴らしい。今日の君の働きで、セリナ王国と隣国の関係が大きく変わるかもしれない。」
リュシェルはアレンの言葉に、ほっと胸を撫で下ろした。そして、心の中で強く思った。
「私はここで生きていく。この国で役立つ存在になるんだ。」
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自分の居場所を見つける
その日の夜、リュシェルは自室で机に向かい、日記を開いていた。追放されてからこれまでの出来事を思い返しながら、彼女は静かに文字を綴った。
「私は今、この国で新しい自分を見つけようとしている。家族や婚約者から見放されても、こうして信じてくれる人がいる限り、私は諦めない。」
彼女の決意は、これまで以上に固いものになっていた。アレンの支えを受けながら、リュシェルは新しい未来に向かって歩き出そうとしていた。
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