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第10話 二人の絆

リュシェルが隣国との商業関係に関する提案を成功させた数日後、彼女は王宮内での仕事にさらに没頭していた。王宮の使用人たちも、少しずつ彼女を特別な存在として認識するようになり、侍女以上の役割を果たしていることを理解し始めていた。しかし、そんな中、アレンとリュシェルの間には新たな変化が芽生え始めていた。



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アレンからの誘い


「リュシェル、少し外の空気を吸いに行こうか。」

ある夕暮れ、リュシェルが執務室で書類の整理をしていると、アレンが声をかけた。彼の提案に戸惑いつつも、彼女は頷いた。


「どちらに向かわれるのですか?」

リュシェルが尋ねると、アレンは微笑みながら答えた。

「城の中ばかりでは息が詰まるだろう。近くの庭園を散歩しよう。」


アレンに促され、リュシェルは彼とともに静かな庭園へと向かった。日が沈みかけた空が赤く染まり、心地よい風が二人の間を通り抜ける。庭園には季節の花々が咲き誇り、その香りが疲れた心を癒してくれた。



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静かな語らい


二人は庭園の小道をゆっくりと歩きながら、他愛のない話を交わした。アレンは子どもの頃の思い出や、隣国との外交で感じた苦労話を語り、リュシェルもまた、自分が追放される前の生活について少しだけ話した。


「私が幼い頃、父に教えられたのは『公爵家の名を守ること』ばかりでした。それが私のすべてだったのです。」

リュシェルの言葉に、アレンは少し眉をひそめた。


「君はその教えの中で、自分自身の幸せを考える余裕があったのか?」


その問いに、リュシェルは一瞬言葉を失った。彼女はこれまで、自分の幸せについて考えたことがほとんどなかったのだ。


「……いいえ、そんな余裕はありませんでした。でも、今は違います。この国で、新しい自分を見つけようと思っています。」

リュシェルの声には決意が込められていた。


アレンはそんな彼女をじっと見つめ、ふと微笑んだ。

「君は強いな、リュシェル。君がここに来てから、僕もたくさんのことを学んでいるよ。」



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アレンの本音


しばらく歩いた後、二人は庭園の奥にある小さな噴水の前で足を止めた。夕陽が水面に反射して、美しい光景を作り出していた。


「リュシェル……」

アレンが静かに口を開いた。彼の声には、これまでのような軽やかさではなく、少しの緊張感が含まれていた。


「君がこの国に来てくれたことを、僕は本当に感謝している。最初はただ助けたいという気持ちだけだったけど、今では君がいてくれることが当たり前のように感じている。」


リュシェルは彼の言葉に驚きつつも、じっと耳を傾けた。アレンの言葉は真剣で、どこか不器用さも感じられたが、それが彼の本心であることは明らかだった。


「君がいることで、僕は王太子としての責任や、この国をどう導くべきかを改めて考えさせられた。君には感謝してもしきれないよ。」


リュシェルは胸が熱くなるのを感じた。自分がここで役立っていること、そしてアレンにとって特別な存在になりつつあることを初めて実感したのだ。



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リュシェルの思い


「アレン様……私は、あなたに助けてもらったことで生きる意味を見つけました。この国で働くことができるのは、あなたが私を救ってくれたおかげです。」

リュシェルは静かに答えた。その声には、彼への感謝と信頼が込められていた。


アレンはそんなリュシェルを見つめ、ふと優しい笑みを浮かべた。

「これからも、僕のそばにいてくれるか?」


その言葉に、リュシェルの頬が赤く染まった。だが、彼女は動揺を隠しつつも、静かに頷いた。

「私にできることなら、何でもいたします。」



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新たな絆


その夜、リュシェルは自室に戻り、今日の出来事を思い返していた。アレンとの会話、彼の真摯な言葉、そして彼女自身の新しい決意――それらが胸の中で一つの大きな絆となっていくのを感じた。


「私はここにいてもいいのだろうか……」

そう呟きながらも、リュシェルは静かに目を閉じた。彼女の心には、新たな希望と覚悟が芽生えつつあった。




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