リュシェルがアレンとの絆を深め始めた頃、王宮内では彼女を快く思わない者たちが密かに動き始めていた。王太子に近づき、急速に信頼を得た彼女の存在は、一部の貴族や侍女たちにとって脅威となりつつあった。リュシェル自身は、そんな陰謀の影が近づいていることに気づかず、日々の仕事に打ち込んでいた。
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ささやかれる噂
「リュシェル様って、やっぱりただ者じゃないわね。」
「でも、侍女の身分で王太子様にあれほど近づくなんて、少し図々しいと思わない?」
王宮の廊下や侍女たちの控室では、リュシェルについての噂が絶えなかった。特に、彼女の知性や美しさがアレンの目に留まっていることを知った者たちは、嫉妬と警戒を抱いていた。
その中でも特にリュシェルを敵視しているのは、アレンの婚約を画策している派閥の貴族たちだった。彼らにとって、リュシェルの存在はアレンを「正しい婚約者」から遠ざける要因に思えたのだ。
「王太子様があの侍女に惑わされているのだとしたら、放っておけないな。」
ある日の夜、貴族の集まりで、一人の年配の男が冷たい声でそう言った。
「少しばかり知性があるからといって、侍女風情が国政に口を出すのは目に余る。何とかしてあの女を追い出さねばならん。」
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初めての嫌がらせ
リュシェルに対する陰謀は、まず小さな嫌がらせから始まった。彼女が日々使っている文房具が勝手に移動されていたり、仕事で必要な書類が紛失したりといったことが頻発するようになった。
ある日、リュシェルが必要な記録を探していると、一人の侍女が冷ややかに声をかけてきた。
「リュシェル様、探し物ですか?最近、物がよくなくなるそうですね。」
その言葉には明らかに皮肉が込められていた。だが、リュシェルは微笑みを絶やさずに返した。
「ええ、少し探し物をしているだけです。ご心配ありがとうございます。」
内心では不安が募る中でも、リュシェルは冷静さを保とうと努めた。
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アレンの支え
嫌がらせが続く中、リュシェルは徐々に心身ともに疲れを感じていた。そんな彼女の変化に最初に気づいたのは、やはりアレンだった。
「リュシェル、何か困っていることはないか?」
彼は執務室での仕事の合間に、リュシェルの顔をじっと見つめながら問いかけた。
「いえ、大丈夫です。」
リュシェルはいつものように微笑んで答えたが、その瞳には疲れの色が浮かんでいた。アレンはその微細な変化を見逃さなかった。
「無理をするな。君がここで頑張っているのは知っているけど、僕は君に無理をさせたくない。」
彼の言葉は温かく、リュシェルの心にじんわりと染み込んでいった。
「ありがとうございます、アレン様。もし本当に困ったときには、頼らせていただきます。」
リュシェルはそう言いながらも、自分の力でこの困難を乗り越えようと決意していた。
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陰謀の証拠
数日後、リュシェルは偶然にも陰謀の証拠を目にすることになる。彼女が必要な資料を探している途中、使用人専用の廊下でひそひそ話をしている二人の侍女を見つけた。
「本当にやるの?もし失敗したら、私たちが責められるわ。」
「大丈夫よ。あの侍女を失脚させるためなんだから、少しぐらい強引な手段を使ってもいいの。」
リュシェルは陰から二人の会話を聞き、胸の中に怒りと不安が渦巻くのを感じた。自分に対する妨害が計画的に行われていることを知り、彼女はアレンに報告するべきかどうか迷った。
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決意
その夜、リュシェルは自室で一人静かに考えた。これまでの自分は、ただ与えられた環境に適応しようとするばかりだった。しかし、今は違う。この国での自分の存在意義を証明するために、彼女は戦う必要があると感じていた。
「私はもう、誰にも追い出されるわけにはいかない……ここが私の居場所なんだから。」
リュシェルは小さく呟き、深呼吸をした。そして翌朝、アレンに陰謀の可能性を伝えることを決意した。
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信頼を求めて
翌日、リュシェルはアレンの執務室を訪れ、侍女たちの会話を聞いたことを正直に報告した。アレンは険しい表情を浮かべながらも、彼女の話を真剣に聞いていた。
「リュシェル、君がここまで勇気を出して話してくれたことに感謝する。この件は僕が責任を持って調査する。」
アレンの頼もしい言葉に、リュシェルはようやく少しだけ安心することができた。
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新たな試練へ
しかし、これで問題がすぐに解決するわけではない。リュシェルを取り巻く陰謀は、これからさらに深まっていく兆しを見せていた。それでも彼女は、アレンや周囲の信頼を得ながら、自分の居場所を守るために立ち向かう覚悟を決めていた。
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