陰謀の影が薄れたとはいえ、リュシェルを取り巻く状況は依然として緊張感を孕んでいた。侍女たちの態度は徐々に和らぎつつあったが、完全に彼女を信頼するには至っていなかった。一方で、貴族たちの中には未だにリュシェルを排除しようと目論む者たちもいた。
そんな日々の中、アレンはリュシェルの心労を察し、彼女にとって特別な時間を設けようと決意する。
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アレンからの提案
「リュシェル、今夜時間はあるか?」
執務室での仕事を終えようとしていたリュシェルに、アレンが声をかけた。その表情はどこか軽やかで、普段の厳格な王太子の姿からは少し離れたものだった。
「今夜ですか?もちろん、構いません。」
リュシェルは少し驚きながらも、彼の言葉に頷いた。
「ちょうど庭園に満開の花が咲いている。夕食後に散歩でもどうだろう?」
その提案に、リュシェルは少し戸惑いながらも微笑んだ。アレンが自分の疲れを気遣ってくれていることが伝わり、胸の奥がじんわりと温かくなった。
「ありがとうございます。それでは、お供させていただきます。」
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夜の庭園
その夜、リュシェルは控えめなドレスを身にまとい、約束の時間に庭園へ向かった。月明かりに照らされた庭園は幻想的な雰囲気に包まれ、咲き誇る花々が柔らかな香りを漂わせていた。
アレンはすでに庭園で待っており、リュシェルが近づくと微笑みを浮かべて言った。
「君が来てくれて嬉しいよ。今日は特に月が綺麗だ。」
二人は並んで庭園を歩きながら、ゆっくりと会話を交わした。リュシェルは最近の仕事について話し、アレンは隣国との外交の進展や、幼少期の思い出について語った。
「リュシェル、君がいてくれるおかげで、僕はこれまで以上に王国の未来を考えられるようになった。」
アレンの言葉に、リュシェルは少し驚きつつも、静かに微笑んだ。
「私はただ、自分にできることをしているだけです。それがアレン様の助けになっているのなら、光栄です。」
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静かな告白
庭園の中央にある小さな噴水の前で、アレンは足を止めた。水面に反射する月明かりが二人を包み込み、周囲は静寂に包まれていた。
「リュシェル……」
アレンは静かに彼女の名を呼び、真剣な眼差しで彼女を見つめた。
「君と過ごす時間が、僕にとってどれだけ大切なものか、伝えておきたかったんだ。君がこの王宮に来てくれたことを、心から感謝している。」
その言葉に、リュシェルの胸は強く高鳴った。彼の声には真摯な思いが込められており、彼女にとってそれは予想以上のものであった。
「アレン様……私は、あなたに救われたことを一生忘れません。そして、この場所で少しでもお役に立てるように努力していきます。」
リュシェルは言葉を選びながら、自分の気持ちを伝えた。
アレンは彼女の言葉を聞いて満足そうに微笑み、そっと手を差し伸べた。
「これからも、僕のそばにいてほしい。君がいるだけで、僕は強くなれる。」
リュシェルは戸惑いながらも、その手をそっと取った。アレンの手の温かさが彼女の不安を溶かしていくように感じた。
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新たな決意
その夜、リュシェルは自室に戻り、窓の外に広がる月夜を眺めながら静かに考えた。アレンの言葉が何度も頭の中で繰り返され、彼女の心の中に新たな覚悟が生まれていた。
「私はここで、自分の居場所を作る。そして、アレン様の力になりたい……。」
追放され、孤立し、居場所を求めて必死に努力してきたリュシェル。その先に、初めて「守りたい」と思える存在が現れたのだ。