リュシェルが王宮での生活に少しずつ馴染み、周囲からの信頼を得始めていた頃、彼女の心を再び揺るがす知らせが舞い込んだ。それは、彼女を追放した元婚約者、第一王子ロイ・グランフォードが隣国を訪れるという知らせだった。
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突然の知らせ
その知らせを聞いたのは、王宮内の図書室で仕事をしている最中だった。リュシェルが整理していた書類を取りに来た侍女のエルナが、息を切らしながら飛び込んできた。
「リュシェル様、大変です!隣国から……元婚約者の王子様がいらっしゃるとか……!」
その言葉に、リュシェルの手が止まった。心臓が一瞬止まったような感覚とともに、頭の中で嫌な記憶が蘇る。
「……ロイ様がこちらに?」
冷静を装いながらも、声が震えてしまうのを抑えることができなかった。
「ええ、外交の名目で来られるそうですが……実際はどうなのか……」
エルナは不安そうにリュシェルの顔を覗き込む。
「大丈夫です、エルナ。私は王宮で与えられた仕事をするだけです。」
リュシェルは気丈に微笑み、エルナを安心させた。しかしその内心では、再びロイと対峙しなければならないことへの恐怖と不安が渦巻いていた。
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再会の瞬間
数日後、隣国の大広間で公式の歓迎式典が開かれた。リュシェルは侍女として式典の準備を手伝っていたが、ロイが現れると聞き、心の奥がざわつくのを感じた。
そしてついに、彼女は彼と再会することになる。王宮の廊下を歩いていると、背後から聞き覚えのある声が響いた。
「リュシェル……?」
その声を聞いた瞬間、リュシェルの身体が硬直した。振り返ると、そこにはロイが立っていた。以前と変わらない金色の髪と端正な顔立ち。しかし、その瞳には驚きと動揺が混じっていた。
「君がここにいるなんて……どういうことだ?」
ロイは彼女を上から下まで見つめ、まるで信じられないとでも言いたげな表情を浮かべた。
「お久しぶりです、ロイ様。」
リュシェルは冷静さを装いながら、軽く一礼した。だが、その声には彼女の内心を隠しきれない微かな震えがあった。
「追放されたはずの君が、どうしてここに?」
ロイの問いに、リュシェルは毅然とした態度で答えた。
「それは、アレン様が私に新しい機会を与えてくださったからです。今の私は、隣国の王宮で働いております。」
その言葉に、ロイは一瞬たじろいだ。しかしすぐに、彼の表情は硬くなり、何かを言いかけたようだった。
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ロイの未練
「君が隣国でこんなふうに活躍しているなんて……正直、予想していなかった。」
ロイはどこか居心地悪そうに目を逸らしながら言った。
「私が何をしているかなど、ロイ様には関係のないことです。」
リュシェルの言葉には、かつての婚約破棄の屈辱を思い出させる冷たさがあった。
「そうだが……いや、正直に言おう。君がここにいると知って、なぜかほっとしている自分がいる。」
ロイの言葉に、リュシェルは目を見張った。
「ほっとしている……?それはどういう意味ですか?」
リュシェルの問いに、ロイは苦笑を浮かべた。
「君と別れることで、僕は新しい自由を得たと思っていた。でも、どうやら僕は間違っていたようだ。」
その言葉に、リュシェルの胸にわずかな怒りが込み上げた。
「ロイ様、今さらそんなことを言われても、私はあなたに何も期待しておりません。」
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リュシェルの覚悟
「私にとって、あの時の婚約破棄は屈辱でした。しかし、今では感謝すらしています。あなたが私を追い出したおかげで、私は新しい人生を見つけることができたのです。」
リュシェルの声には、揺るぎない決意が込められていた。
ロイはその言葉を聞き、何も言えなくなった様子だった。リュシェルは軽く一礼すると、その場を後にした。振り返ることなく廊下を歩きながら、彼女は心の中で自分自身に言い聞かせた。
「私はもう、過去に縛られない。」
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新たな希望
その夜、リュシェルは自室で静かに月明かりを眺めていた。過去を断ち切ることで、彼女の心は軽くなり、未来への希望が生まれていた。
「私は、私の力でここにいる。そしてこれからも、自分の道を切り開いていく。」
彼女の瞳には、これまでの苦しみを乗り越えた強さと、未来への明るい展望が映っていた。
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