そうして祭りが終わりに近付いたころ、リビィは一つのことに気が付いた。
「あ、宿題しないと」
「あ、ラウレントとの約束だね」
そう、ラウレントの宿題が残されていたのだ。
「うーん、星が一番見えるところって何処だろう?」
「木の上? いや、それなら城のてっぺんの方が高いなあ」
「そうだよね、この街で一番おっきいの、お城だもの」
きっとそれは答えじゃない。きっともっと違う意味だ。
「それじゃあ、答えが面白くない」
ヴァーンもそれはすぐ気が付いたらしく、頷いた。
「うーん、星に近い場所だもんね」
二人で悩み、あれやこれやを言い合うもしっくりこない。大人の知恵を借りるのは今回の場合、よくはないと思っているので、騎士団たちにはあえて尋ねていない。
二人で考えてこそなのだと理解していた。
「そうだ、あたしの世界には星が降るようなって言う表現があって、そんな場所があったら星が近いのかな?」
ふと本当に降ってくるような空を見ながらリビィがそう言うと、ヴァーンがハッとしたようにリビィを見た。
「降るような! なるほど、それなら心当たりがあるよ! アゼルバイン、行って構わない?」
「私どもがいるのをお許しいただければ」
アゼルバインはそれでいいのなら構わないと言っているのだ。ここは森の国の王都であり、本来は安全が約束されている場所だ。しかし昨日の今日である。油断は決して出来ない。
「勿論、お供をお願いするよ」
ヴァーンも当然その意味を理解してそう答えた。
何しろ祭りという場所柄、地の国の人間が忍び込んでないとは言えないのだ。リビィのためにも彼らの存在が必要不可欠なことだと分かっていた。
「では参りましょう」
「何処に行くの?」
「そんなに遠くないとは思うんだけど、少し歩くよ」
「うん、分かった。歩くのは大丈夫だよ」
リビィはそう答え、笑顔でヴァーンの後についていく。騎士たちもそれに合わせるように緊張を見せながらも行動していた。
そんな彼らを見て、リビィとしてもこれ以上彼女の前に変なのが現れないようにしてくれているのはとても有り難いと思う。
切り株に沿って作られている大きな階段を降りていき、しばらく森を歩いて行くと開かれた場所に出て、そこには小高い丘が現れた。
「わー、綺麗な丘! それに星も不思議と近く見えるね」
単純な高さだけで言えば切り株の街であるヴェルツェンの方が高いわけだが、リビィの瞳にはそれよりも近く見えたのだ。
「リビィ、よく分かったな。ここは星願いの丘って言うんだ」
感心したようにヴァーンが言うとリビィは不思議顔で尋ねた。
「星願いの丘?」
「ここはさ、森の国では星が一番近い場所としても有名でね、何かお願い事がある人はここに来て願うんだ」
「つまりはお願いをする場所ってこと?」
確かに周囲には人が多く、みんな何かを祈っている様子が見える。
「うん、空を見てごらんよ」
「わあ、本当に空が近い! 星が降って……きてる?」
「うん、自分の願い星が降ってくるんだ」
キラキラとした星たちが人々の周りを踊るようにくるくる回っている。勿論リビィやヴァーンのところにもやってきた。
「すごい……」
「いつもなの?」
「いや、基本的にはお祭りの時だけだよ。今日は星たちの機嫌がいいらしいね」
「そうなんだ?」
「ああ、ヴァルター大祭だと星たちがもっと凄いんだ」
「その時で変わるの?」
「そうなんだ。んで、特に大祭の時にはスピリタス・ヴァルターの祝福を受けるからもっと星たちも光も放って、数もとんでもなく多いよ」
「今でもこんなに光ってるのに」
リビィが知る空ではこんなに星たちは輝いていないし、そもそもこんなふうに舞い降りてきたりもいない。
「尤もね、星たちは願いを叶える力をくれるけど、結局のところ、叶えるのは当人次第なんだ。だから叶うこともあるし、叶わないこともある」
「そうなんだね」
「だいたい願いってそんなもんだけど、だから大事なんだと思う」
ヴァーンの手に乗る星は輝いて、とても綺麗だ。
「そっか、そうだよね、自分で努力しないと駄目だよね。頼り切りってきっと駄目になっちゃうから」
リビィの掌にも星が舞い降りてきて、その手の中で輝きを見せる。
「とっても綺麗ね」
「うん、その星はとってもリビィのこと気に入ってるんだね」
「そう? でもすごくあったかいね」
何処か懐かしく温もりを持っており、だからこそ星にリビィは親近感を覚えた。何だろう、この温かさ。
ママやパパとかみたい?
そうかも知れない。
いろいろあったけれど、心配してないだろうかとふと思う。
こっちの世界とあちらの世界、時差とかあるのだろうか?
でも多分こっちに来てるの知ってるんだよね。
あの屋根裏部屋の絵画は父親が描いたものだ。
どういう原理か知らないけれど、二つの世界を繋いでいる絵であることに間違いない。
そうすると父という人は何者なのだろう?
「どうしたの?」
「うーん、ちょっとうちのパパについて考えてみたんだけど、もしかして境界人という人なのかなあって」
そう思えば腑に落ちる。
「リビィの父上か。確かにそうかも知れないね」
「私がここに来ているのも多分知ってるし、面白がってそう」
「面白がるのか」
「割とそう言う人。ママはきっと怒るけどね」
父に怒られたという記憶はあまりない。困ったような顔をすることが殆どで、その方が割とリビィには堪えたものだ。
一方のリビィの母の方も癇癪持ちと言うわけでもなく、やたらめったら怒るような人でもない。ただ理路整然とこんこんと諭して、それで分からせてくるので下手な言い訳が通用しないのだ。
つまるところ、彼女の両親はいつも怒るのではなくて、叱るのである。だからこそリビィは反省する羽目になる。
けれど何かあってもリビィを一方的に責めることはしないし、間違っていればそれを正してくれる。逆に彼女が正しければ擁護してくれるし、褒めてくれた。
だからそんな両親がリビィは好きだった。
「リビィは父上と母上が好きなんだな」
「うん、大好き。たまに恐いけど」
「そうだな、俺もそうだからよく分かる」
「本当?」
「父上も母上も時折とても厳しいけど、愛情深い人たちだからね。期待してくれてるんだと分かってる。だからこそ頑張りたいと思うからさ」
「ヴァーンは偉いなあ。私も見習おう」
リビィは相手が仮に正しくても、受け入れられない時がある。それでクラスメイトや幼馴染みとよく喧嘩になるから、よくない傾向なのは理解している。
どんな相手や意見を受け止める柔軟さ、それが今のリビィに欠けているものなのかもしれない。
少し年上とは言え、ヴァーンにはそれが出来ているので羨ましいと思った。
「偉いわけじゃないさ。俺だって失敗はいっぱいするし、でもそれを恐れるなって言われてる」
「それって恐くない?」
「そりゃ恐いこともある。でも俺は前に進みたいから」
「前に進む?」
「そう、大概はさ、現状維持が楽な場合が多いだろう? でも一歩踏み出さないと何も変わらない」
停滞の方が恐いんだとヴァーンは続けた。
「……」
そうか、そうだよね。前に進む、これはとても大事だ。
「ヴァーン、向こうに帰ったらね、あたし、算数も頑張るし、勉強自体も頑張ってみる。学ぶことが大事なことだって、ここに来て分かったから」
「いいことだと思うよ。そうなると俺もリビィに負けないように頑張らないとな」
「うん、気が付いたの。分からないままにするのも時には悪くないけど、全部それにしたら何も分からないし、それは結局、一番つまんないよね」
どんなに勉強しても分からないことは出てくるだろうし、納得いかないことだってあるだろう。それでも全部投げ出すような真似はしたくない。
そのためにリビィはこの世界と一度お別れしないといけないのだろうと理解した。この世界があることを知る必要があり、ヴァーンたちと会うためにリビィは来たのだと。
「願い事は決めた?」
ヴァーンが優しくそう尋ねた。
「うん、もう最初から決めてた」
「偶然だね、俺もだよ」
じっとしばらく二人は見つめ合い、微笑み合う。
「ね、星にどうやってお願いしたらいいの?」
「両手で軽く星を抱き締めて、願いを言うんだ。口にしないと叶わないから注意してね」
「うん、分かった。軽く抱き締めて、願いを言えばいいんだね?」
「ああ、それで大丈夫だよ」
リビィは自分の傍にいた星をそっと抱き締め、心から願うことを思い浮かべた。
「じゃあ、おねがいしようか」
その言葉にリビィは頷き、口を開く。それはヴァーンとほぼ同時だった。
「ヴァーンとまた逢えますように」
「リビィとまた逢えますように」
二人の言葉の願いを聞いた途端、星は二人の掌の中で物凄く光り、リビィとヴァーンを包み込む。
「きゃ?」
「うわ?」
それは周囲にも当然見え、誰もが驚いている。当然騎士団たちもである。
「隊長、あんなのは初めて見た……」
「私もだが、とても綺麗だな」
ワーレンの言葉にそう答えつつ、アゼルバインは素直な感想を述べた。
「あれは叶い星ですね。二人して見付けるとは凄い」
レイリーが感心したように言えば、その場の全員が驚く。
「願い星って本当にあるのだな」
マードノルドがそういえば、ハレディルもそれに同意していた。
「単なるお伽噺と思っていた」
「なに、不思議なことは案外たくさんあるものですよ」
レイリーは驚いているリビィとヴァーンを微笑ましく見つめる。
「あれで二人の願いは必ず叶いますよ」
「それは僥倖だ」
アゼルバインもまたリビィとヴァーンの様子を窺いつつ、そう告げた。
「ひ、光ってるけど、これでいいの?」
「た、多分、俺もこんなに光るの初めてだよ」
ヴァーン自身、星に何度かお願いしたことはある。けれどこんなになったのは今回が初めてだ。
それでもきっと終わりの作法は同じだろうからリビィに説明してやった。
「リビィ、星を離してごらん、空に向かってだ」
「空に向かってね、うん、やってみる」
リビィは両手の中で光っている星をそっと解放してやる。すると星は勢いよく天の方へと向かい出す。隣でヴァーンも同じようにして星を手放した。
リビィの星とヴァーンの星はくるくると踊るようにして、まるで踊っているようにして空に舞い上がり、一緒に天に戻ったが、離れることはなく並んでいる。
「一緒にいるね」
「うん、一緒だね」
二人の願いを持って、輝く星はとても綺麗だった。
「ね、叶うかな?」
「当たり前だよ、絶対に叶うさ」
そう言って二人は手を強く繋ぎ合い、空を仰ぎ見るのだった。 そうして祭りが終わりに近付いたころ、リビィは一つのことに気が付いた。
「あ、宿題しないと」
「あ、ラウレントとの約束だね」
そう、ラウレントの宿題が残されていたのだ。
「うーん、星が一番見えるところって何処だろう?」
「木の上? いや、それなら城のてっぺんの方が高いなあ」
「そうだよね、この街で一番おっきいの、お城だもの」
きっとそれは答えじゃない。きっともっと違う意味だ。
「それじゃあ、答えが面白くない」
ヴァーンもそれはすぐ気が付いたらしく、頷いた。
「うーん、星に近い場所だもんね」
二人で悩み、あれやこれやを言い合うもしっくりこない。大人の知恵を借りるのは今回の場合、よくはないと思っているので、騎士団たちにはあえて尋ねていない。
二人で考えてこそなのだと理解していた。
「そうだ、あたしの世界には星が降るようなって言う表現があって、そんな場所があったら星が近いのかな?」
ふと本当に降ってくるような空を見ながらリビィがそう言うと、ヴァーンがハッとしたようにリビィを見た。
「降るような! なるほど、それなら心当たりがあるよ! アゼルバイン、行って構わない?」
「私どもがいるのをお許しいただければ」
アゼルバインはそれでいいのなら構わないと言っているのだ。ここは森の国の王都であり、本来は安全が約束されている場所だ。しかし昨日の今日である。油断は決して出来ない。
「勿論、お供をお願いするよ」
ヴァーンも当然その意味を理解してそう答えた。
何しろ祭りという場所柄、地の国の人間が忍び込んでないとは言えないのだ。リビィのためにも彼らの存在が必要不可欠なことだと分かっていた。
「では参りましょう」
「何処に行くの?」
「そんなに遠くないとは思うんだけど、少し歩くよ」
「うん、分かった。歩くのは大丈夫だよ」
リビィはそう答え、笑顔でヴァーンの後についていく。騎士たちもそれに合わせるように緊張を見せながらも行動していた。
そんな彼らを見て、リビィとしてもこれ以上彼女の前に変なのが現れないようにしてくれているのはとても有り難いと思う。
切り株に沿って作られている大きな階段を降りていき、しばらく森を歩いて行くと開かれた場所に出て、そこには小高い丘が現れた。
「わー、綺麗な丘! それに星も不思議と近く見えるね」
単純な高さだけで言えば切り株の街であるヴェルツェンの方が高いわけだが、リビィの瞳にはそれよりも近く見えたのだ。
「リビィ、よく分かったな。ここは星願いの丘って言うんだ」
感心したようにヴァーンが言うとリビィは不思議顔で尋ねた。
「星願いの丘?」
「ここはさ、森の国では星が一番近い場所としても有名でね、何かお願い事がある人はここに来て願うんだ」
「つまりはお願いをする場所ってこと?」
確かに周囲には人が多く、みんな何かを祈っている様子が見える。
「うん、空を見てごらんよ」
「わあ、本当に空が近い! 星が降って……きてる?」
「うん、自分の願い星が降ってくるんだ」
キラキラとした星たちが人々の周りを踊るようにくるくる回っている。勿論リビィやヴァーンのところにもやってきた。
「すごい……」
「いつもなの?」
「いや、基本的にはお祭りの時だけだよ。今日は星たちの機嫌がいいらしいね」
「そうなんだ?」
「ああ、ヴァルター大祭だと星たちがもっと凄いんだ」
「その時で変わるの?」
「そうなんだ。んで、特に大祭の時にはスピリタス・ヴァルターの祝福を受けるからもっと星たちも光も放って、数もとんでもなく多いよ」
「今でもこんなに光ってるのに」
リビィが知る空ではこんなに星たちは輝いていないし、そもそもこんなふうに舞い降りてきたりもいない。
「尤もね、星たちは願いを叶える力をくれるけど、結局のところ、叶えるのは当人次第なんだ。だから叶うこともあるし、叶わないこともある」
「そうなんだね」
「だいたい願いってそんなもんだけど、だから大事なんだと思う」
ヴァーンの手に乗る星は輝いて、とても綺麗だ。
「そっか、そうだよね、自分で努力しないと駄目だよね。頼り切りってきっと駄目になっちゃうから」
リビィの掌にも星が舞い降りてきて、その手の中で輝きを見せる。
「とっても綺麗ね」
「うん、その星はとってもリビィのこと気に入ってるんだね」
「そう? でもすごくあったかいね」
何処か懐かしく温もりを持っており、だからこそ星にリビィは親近感を覚えた。何だろう、この温かさ。
ママやパパとかみたい?
そうかも知れない。
いろいろあったけれど、心配してないだろうかとふと思う。
こっちの世界とあちらの世界、時差とかあるのだろうか?
でも多分こっちに来てるの知ってるんだよね。
あの屋根裏部屋の絵画は父親が描いたものだ。
どういう原理か知らないけれど、二つの世界を繋いでいる絵であることに間違いない。
そうすると父という人は何者なのだろう?
「どうしたの?」
「うーん、ちょっとうちのパパについて考えてみたんだけど、もしかして境界人という人なのかなあって」
そう思えば腑に落ちる。
「リビィの父上か。確かにそうかも知れないね」
「私がここに来ているのも多分知ってるし、面白がってそう」
「面白がるのか」
「割とそう言う人。ママはきっと怒るけどね」
父に怒られたという記憶はあまりない。困ったような顔をすることが殆どで、その方が割とリビィには堪えたものだ。
一方のリビィの母の方も癇癪持ちと言うわけでもなく、やたらめったら怒るような人でもない。ただ理路整然とこんこんと諭して、それで分からせてくるので下手な言い訳が通用しないのだ。
つまるところ、彼女の両親はいつも怒るのではなくて、叱るのである。だからこそリビィは反省する羽目になる。
けれど何かあってもリビィを一方的に責めることはしないし、間違っていればそれを正してくれる。逆に彼女が正しければ擁護してくれるし、褒めてくれた。
だからそんな両親がリビィは好きだった。
「リビィは父上と母上が好きなんだな」
「うん、大好き。たまに恐いけど」
「そうだな、俺もそうだからよく分かる」
「本当?」
「父上も母上も時折とても厳しいけど、愛情深い人たちだからね。期待してくれてるんだと分かってる。だからこそ頑張りたいと思うからさ」
「ヴァーンは偉いなあ。私も見習おう」
リビィは相手が仮に正しくても、受け入れられない時がある。それでクラスメイトや幼馴染みとよく喧嘩になるから、よくない傾向なのは理解している。
どんな相手や意見を受け止める柔軟さ、それが今のリビィに欠けているものなのかもしれない。
少し年上とは言え、ヴァーンにはそれが出来ているので羨ましいと思った。
「偉いわけじゃないさ。俺だって失敗はいっぱいするし、でもそれを恐れるなって言われてる」
「それって恐くない?」
「そりゃ恐いこともある。でも俺は前に進みたいから」
「前に進む?」
「そう、大概はさ、現状維持が楽な場合が多いだろう? でも一歩踏み出さないと何も変わらない」
停滞の方が恐いんだとヴァーンは続けた。
「……」
そうか、そうだよね。前に進む、これはとても大事だ。
「ヴァーン、向こうに帰ったらね、あたし、算数も頑張るし、勉強自体も頑張ってみる。学ぶことが大事なことだって、ここに来て分かったから」
「いいことだと思うよ。そうなると俺もリビィに負けないように頑張らないとな」
「うん、気が付いたの。分からないままにするのも時には悪くないけど、全部それにしたら何も分からないし、それは結局、一番つまんないよね」
どんなに勉強しても分からないことは出てくるだろうし、納得いかないことだってあるだろう。それでも全部投げ出すような真似はしたくない。
そのためにリビィはこの世界と一度お別れしないといけないのだろうと理解した。この世界があることを知る必要があり、ヴァーンたちと会うためにリビィは来たのだと。
「願い事は決めた?」
ヴァーンが優しくそう尋ねた。
「うん、もう最初から決めてた」
「偶然だね、俺もだよ」
じっとしばらく二人は見つめ合い、微笑み合う。
「ね、星にどうやってお願いしたらいいの?」
「両手で軽く星を抱き締めて、願いを言うんだ。口にしないと叶わないから注意してね」
「うん、分かった。軽く抱き締めて、願いを言えばいいんだね?」
「ああ、それで大丈夫だよ」
リビィは自分の傍にいた星をそっと抱き締め、心から願うことを思い浮かべた。
「じゃあ、おねがいしようか」
その言葉にリビィは頷き、口を開く。それはヴァーンとほぼ同時だった。
「ヴァーンとまた逢えますように」
「リビィとまた逢えますように」
二人の言葉の願いを聞いた途端、星は二人の掌の中で物凄く光り、リビィとヴァーンを包み込む。
「きゃ?」
「うわ?」
それは周囲にも当然見え、誰もが驚いている。当然騎士団たちもである。
「隊長、あんなのは初めて見た……」
「私もだが、とても綺麗だな」
ワーレンの言葉にそう答えつつ、アゼルバインは素直な感想を述べた。
「あれは叶い星ですね。二人して見付けるとは凄い」
レイリーが感心したように言えば、その場の全員が驚く。
「願い星って本当にあるのだな」
マードノルドがそういえば、ハレディルもそれに同意していた。
「単なるお伽噺と思っていた」
「なに、不思議なことは案外たくさんあるものですよ」
レイリーは驚いているリビィとヴァーンを微笑ましく見つめる。
「あれで二人の願いは必ず叶いますよ」
「それは僥倖だ」
アゼルバインもまたリビィとヴァーンの様子を窺いつつ、そう告げた。
「ひ、光ってるけど、これでいいの?」
「た、多分、俺もこんなに光るの初めてだよ」
ヴァーン自身、星に何度かお願いしたことはある。けれどこんなになったのは今回が初めてだ。
それでもきっと終わりの作法は同じだろうからリビィに説明してやった。
「リビィ、星を離してごらん、空に向かってだ」
「空に向かってね、うん、やってみる」
リビィは両手の中で光っている星をそっと解放してやる。すると星は勢いよく天の方へと向かい出す。隣でヴァーンも同じようにして星を手放した。
リビィの星とヴァーンの星はくるくると踊るようにして、まるで踊っているようにして空に舞い上がり、一緒に天に戻ったが、離れることはなく並んでいる。
「一緒にいるね」
「うん、一緒だね」
二人の願いを持って、輝く星はとても綺麗だった。
「ね、叶うかな?」
「当たり前だよ、絶対に叶うさ」
そう言って二人は手を強く繋ぎ合い、空を仰ぎ見るのだった。