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第20話 赤鬼は顔を真っ赤にして怒りましたとさ

「バリィ……」

「カイン……てめえ! 何しに来やがった!」


 リバースネイクに何度も頭突きを喰らったのであろう。鎧は至る所がへこみ、体中に痣をいくつも作ったバリィは、それでもカインを見ると悪態を吐いた。


「何しに来やがったとはなんだよ。俺らは、この先にあるS級魔巣ダンジョンに用があるんだよ。にも関わらず、お前らを助けに来てやったのにひどい挨拶があったもんだなあ」

「なに……?」


 バリィを睨みつけながらグレンがカインの前に立つ。


「ちょっとそこの二人! た、助けに来たのなら、さっさとやりなさいよ!」

「お前らA級だったな。高ランクなら助けろ」


 メエナは流石というべきか飽くまで自分は助けられる立場でなく、助けさせる立場だと思っているような傲岸な態度を見せた。ティナスもティナスで徹底した数字主義な意見を持ち出した。ただ、彼らが高ランク冒険者として低ランクを助けたところをカインは見たことがなかった。


『ここまで来ると、ある意味感動すら覚えるわね』


 シアがため息交じりに呟く。


「っていうか、なんでこんなに蛇共が殺気立ってんのかよく分かったぜ。誰だ! こんな火をまき散らしたのは!」


 グレンが大声で怒りを露にする。


「火よ……俺だ。俺の得意属性は火なんだよ」


 バリィが手の中で炎を遊ばせながら答える。

 そして、にやりと笑みを浮かばながら詠唱を続ける。


「見てな。炎よ、我が声に応えよ。我が手に満ちよ。我が手から離れよ。我が目に映るかの者を燃やし尽くせ……トゥイ・ド・フィべばあっ!」


 詠唱が終わる直前、グレンの拳がバリィを吹っ飛ばす。リバースネイクよりも深い痣がバリィの顔に刻まれる。


「てめえ……馬鹿か! リバースネイク相手に広域火魔法使うなんてよお! 依頼受注時に貰う資料読んでねえのか!」


 グレンがひと際大きな声でバリィだけではない【輝く炎】の面々に問いかける。


「じゅ、受注時の資料?」


 その様子に怯えたメエナが問い返す。

 レイル支部のようなサポートの充実したギルドでは魔巣へ向かう際に、観測された魔物の情報を資料として渡してくれる。これは、依頼達成の報告書に書かれた報告や更新された魔物の情報を元に生息域や行動パターン、時には弱点等読んで損のない内容となっていることが多い。ただし、冒険者の中には『実戦で学ぶもの』と宣うパーティーやそもそもまともに読もうとしていない者たちが一定数いる。

 【輝く炎】でもカイン以外誰も読むことがなかった。ステータスの高さで捻じ伏せられると考えていたからだ。


「いいか! リバースネイクは火に集まる習性がある! だから、広域火魔法なんて使えばどんどん集まってくるに決まってるだろうが!」


 リバースネイクのその名の由来は、『川のような大きさの蛇』ということと、『火を消しにやってくる』という伝承からだ。どうやら火の魔素マナを餌として最も好んで吸収するらしい。


「ちい! お前らほんとにB級かよ」

「なんだと……俺はB級でも高い方のステータス持ちだぞ!」


 グレンが吐き捨てるように言えば、バリィが食いつく。

 バリィはB級冒険者の中でも高ステータス者だ。普通の冒険者では。

 グレンは普通の冒険者ではない、A級だ。しかも、ソロでの。

 そのグレンがバリィの頭を片手で掴み持ち上げたのだ。


「あが、が……」

「じゃあ、自慢のステータスでなんとかしてみろよ。ああ?」

「ちょ、ちょっと仲間割れなんてしてる場合?」

「まず仲間じゃねえんだよ。それに、すぐ終わる」


 メエナの問いかけに見もせず答えたグレンは片手で持ち上げていたバリィを放り投げた。

 すると、この場に集まったリバースネイク五匹はそちらに目が行く。


「ぎゃあああ! ば、バリィ! ひ、人でなし!」


 メエナが悲鳴をあげ、グレンの方に向きなおり、責め立てる。しかし、さっきまでいた場所にグレンはいない。


「キイキイうるせえな。お前らが人でなしって言うな、ほんと」


 いつの間にか一匹の蛇の真横で変わらず顰め面を浮かべているグレンがいた。

 右手を広げ詠唱を始める。


「炎よ、紅き刃となり、かの敵を切り裂け〈炎刃フレイムエッジ〉」


 グレンの手から放たれた真っ赤な刃はすぐ側にいたリバースネイクの頭を落とすと、そのまま直線上にいた他のリバースネイクの胴も真っ二つに切り裂いた。


「お前、俺を囮にしたな! それより! お前も火魔法使ってるじゃねえか!」


 様々な感情が入り混じった表情でバリィはグレンを非難する。


「お前と一緒にするな。この魔法知らねえのか。お前の大好きな『高ランク』の魔法だぞ。もちろん、広域じゃねえけどな、馬鹿じゃねえから」


 グレンがここまで使った魔法は〈火炎の矢〉と〈炎刃〉という両方とも魔力を圧縮させて放つ魔法のみだった。そして、どちらも同じ相手に二度使うことはなかった。


 A級とB級の大きな壁はステータスではなく、継戦能力と言われている。

 B級までは基本一日、長くて三日程度で往復出来る魔巣だけ。しかし、A級は一週間かかる魔巣もいくらでも存在し、S級に至っては数か月以上かけて攻略する魔巣も存在する。

 A級の多くは一撃で敵を葬る。それは、単純な強さもあるが、自身の疲労や相手の思わぬ反撃の可能性を限りなくゼロにする為、一撃で倒せる程度の攻撃を行っているのだ。


(ま、この馬鹿どもはそれが分かってねー以上これより上に行くことはねえだろうけど)


「馬鹿、だと……」

「馬鹿だろうが、なんでお前らみたいのがB級になれたん……ああ、そうか。カインさんがいたからか」

「そんなわけないだろうが!」

「そうよ! アイツは何も出来ないお荷物なんだから」

「アイツのステータス見たことあるのか」


 グレンがカインの名前を出した途端、三人が一斉に火が付いたように話し出す。


「そんな一斉に騒ぎ出すなよ。図星に見えるぞ。まあいいや。ならちゃんと見とけや。お前らが一匹も倒せなかったリバースネイクをカインさんが倒すところを」


 グレンが顎で指す方向をバリィ達は見つめる。

 そこには、いつの間にかこの場を離れ、鍵盤キーボードを腕に付けリバースネイクと対峙する彼らに追放された魔工技師が立っていた

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