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二部1話 のんびり亀さんは好きな人に騙され追放されてしまいましたとさ

「タルト! お前をこのパーティーから追放する!」

「は……?」


 タルトは突然告げられた言葉に驚くことしかできなかった。

 理由は想像がついている。けれど、それでも一縷の望みをかけて聞いてみる。


「り、理由を教えてもらえませんか。治せるところが、その、あれば……」


 「直す」その言葉すら待たずに、パーティーのリーダーである只人族のファストは切るように告げる。


「ステータスが低い。それ以上の理由があるか」


 予想はしていたことだった。

 タルトはこのパーティー【一陣の風】の中で飛び抜けてステータスが低かった。


 ステータス主義。

 今、世界中の冒険者の主流はコレだった。

 『計測球』と呼ばれる魔導具が開発され、冒険者達の能力を数字で表せるようになった。

 その魔導具が冒険者ギルドに設置されたことで、冒険者の実力が可視化され、冒険者のステータスに合わせた依頼クエストが与えられることになり、依頼クエスト達成率や事故・死亡率が格段に下がった。

 しかし、それによりステータスの低い冒険者はパーティーから追放されるようになった。


 タルトも今まさにその一人であった。

 鑑定士である彼女は、様々な道具の価値や機能を見定めることが出来るのだが、元々戦闘職ではない為、冒険では足手まといになりがちなのだ。彼女自身様々な工夫をこらしパーティーに貢献しようとしてきたが、それでも、戦闘で活躍することは出来なかった。


「それに、戦闘中も含め、あんたの遅さにみんな苛々してんのよ」


 エルフのアリーが横から口を挟んでくる。

 そう、タルトは低いステータスの中でも『はやさ』が極端に低かった。

 タルトは亀人族とよばれる種族で、とにかく速さの数字が低い。

 みんなが攻撃を仕掛ける時にもまだ準備をしているし、移動速度も遅く魔巣ダンジョンの攻略にも時間がかかってしまう、その上、決断力もない為に判断が遅い。食事のメニューすらすぐには決められない。

 【一陣の風】はタルトを除けば、ステータスで非常に速さに優れているパーティーなのだ。


「あ、あの……ラピドは、どう、思ってるの?」


 タルトは最後の希望を賭けて、兎人族のラピドに聞いてみる。

 ラピドは、タルトのことをいつも気にかけてくれて、タルトが遅れても先で待っていてくれるし、食事のメニューで迷っている時もニコニコしてこちらを見ていてくれる。

 それに、「その遅さもキミのいいところさ」と言ってくれたのだ。

 ラピドなら、私を大切に思ってくれている。そう思っていた。


「タルト……僕たちはキミを置いて先に行く。今まで楽しかったよ。じゃあね」


 ラピドはいつもと変わらず『ニコニコ』してタルトを見て告げた。


 タルトは何を言われたか分からなかった。そして、暫くしてようやく理解した。

 ラピドのあの表情の意味を。あれは優越感の目。

 足の遅いタルト、速い自分。何も決められないタルト、先に決めた自分。


『その遅さも、僕が優越感に浸れるから、キミのいいところさ』


 そう言っていたのだ。

 タルトは、もしかしたらラピドは自分のことを……そこまで思っていた。恐らくラピドはそれにも気づいていたのだろう。思わせぶりな行動や発言でタルトが一喜一憂する姿を見て笑っていたのだ。

 タルトはそのことに気付き、顔を真っ赤にした。すると、ラピドはより大きく口角を上げ満面の笑みでこちらを見ている。


「わかり、ました……今までありがとうございました」


 タルトは、ゆっくりとではあるが、事実を受け入れ、パーティーを出ていく決意をした。

 彼女には使命があった。時間はどんなにかかってもいいからと言われたが出来るだけ早くやりとげたい使命が。その為には冒険者パーティーで活躍するのが一番だった。


(また、新しいパーティーを探そう。大丈夫、暫くは生きていくくらいの手持ちは……)


「おい、待てタルト。アイテムと金は置いていけ」

「は?」


 ファストの言っている意味が分からなかった。アイテムやお金は平等に分配しているものだ。つまり、タルトが貰ったものはタルトのものだ。それはパーティーを抜けても同じはず。


「迷惑料よ。そのくらい分かりなさいよ。苛々するわね」


 アリーが足を踏み鳴らしながらこちらを睨んでくる。


「タルト……これからもっともっと先を進む僕らと、のんびりとしたキミ。必要なものが多いのはどちらだい? 分かるだろ?」


 ラピドが長い耳をピクピクさせながら聞いてくる。

 そこで漸くタルトは気が付いた。


 全てが計画通りだったのだ。今回、【一陣の風】が挑んだ魔巣ダンジョンはD級【小鬼の遊び場】。ここはある古代遺跡群の中にある洞窟なのだが、小鬼ゴブリンが住み着き、様々なアイテムや戦利品を投げ込んでいるのだ。アイテムの山があると聞くとお得そうだがとにかくなんでも放り込んでいる為、良いアイテムが見つかることは稀。しかも、時間をかければ小賢しい小鬼達が隙をついて攻撃してくる。

 つまり、『割に合わない』魔巣なのだ。しかし、鑑定士であるタルトがいれば、多少の良いアイテムが得られる。そして、これをタルトの最後の仕事にさせるつもりだったのだ。

 そもそも、追放を伝えたのも帰り道の途中という不自然極まりないタイミングだった。

 全てを奪って、捨てるつもりなのだ。


 タルトはそのことに気付き、恐らく彼女の人生の中でも最も早い判断を下す。

 手持ちの煙玉を投げつけ、とにかく必死に駆け出した。


「あ! 待ちなさいよ」


 アリーの声が聞こえるが、待つわけがない。戦闘で彼女たちに勝てるはずがない。ならば、逃げる。それだけだ。


「慌てるなよ。どうせタルトの足だ。追いつける」

「そうそう、それよりいち早く捕まえられた奴が金は総どりってどうだい?」


 ファストは落ち着いた様子でアリーに言い聞かせる。ラピドはタルトが逃げられるはずがないとゲームを提案する。そして、それもそうかとアリーは、ゲームのルールを簡単に決めるよう提案し、自分が有利になるようタルトに時間を与えた。


 そして、ゲームは始まった。

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