目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

二部2話 のんびり亀さんは悪い兎たちにつかまってしまいましたとさ

 追放した冒険者を捕まえ、全てを奪うという悪趣味なゲーム。

 追うのはC級パーティー【一陣の風】。

 追われるのはステータスが低いことを理由に追放された亀人族の鑑定士、タルト。


 そして、案の定、タルトはすぐに見つかってしまう。

 最初に見つけたのはアリー。彼女の索敵魔法に捕まってしまったのだ。

 そして、少しだけ遅れて、ファスト、ラピドがやってきた。


「ちょっとあんたたち! つけてたわね」

「それは勿論、キミの索敵魔法は素晴らしいからね」

「というわけで、こっからは実力勝負だな」


 余裕なのだろう。タルトを前にしても、こちらを見もせずに会話をしている。

 しかし、その理由がタルトにも分かっている。


 ここまで来る途中に、三組のパーティーと出会った。

 しかし、誰に助けを求めても助けてくれることはなかった。


 一組目は、にやにやしながら「がんばれよー」と声を掛けてきた。

 恐らく、ファストたちと顔見知りなのだろう。事情が分かっていた上で、タルトを虚仮にしてきたのだ。

 二組目は、ちらとタルトを見て、慌ててどこかへ行った。少し悲しそうな眼をしていた。

 三組目は、まるで汚い物でも見るかのようにタルトを見て、その後無視をしてきた。


 亀人族は嫌われている。いや、正確に言うと海人族全般が嫌われている。

 タルトたち冒険者が所属しているマシラウの街は海沿いの街なのだが、古くには海に住む者達、海人族との戦が度々行われていた。その争いは【万人の勇者】によって終結するのだが、その遺恨は根深く、差別する者は多い。


 誰も海人族のタルトを助けはしないだろう。


 そう考えたのだ。そして、タルトも完全にそれを理解した。

 であれば、自分の力でなんとかするしかない。そう考えたタルトはここまで来たのだ。

 今、タルトの後方には森が広がっている。名を【大蛇の森】。B級魔巣であり、C級パーティーであるファストたちも本来なら入れない場所だ。


(ここなら!)


 タルトは、奇跡を信じ、森へと飛び込んだ。


「あ! 待ちなさいよ!」


 アリーの風魔法がタルトを切り裂く。

 しかし、タルトは足を止めることなく森へと入っていく。


「ち! 油断した! ここは【大蛇の森】か。川のようなリバースネイクは厄介だな」


 川のようなリバースネイクは名の通り、川のように大きな蛇で、冒険者達にその巨大な頭で頭突きを当て、動けなくなったところを丸呑みにする魔物モンスターである。まだ対峙したことのないファスト達にとって未知の脅威と言えた。

 しかし、ファストの呟きが聞こえなかったのかラピドは森に入ろうとし、慌ててアリーが止めようとする。


「ねえ、行くの!?」

「タルトが奥深くまで行けるはずないし、ヤツを仕留めて帰ってくるだけだ。リバースネイクを倒さなきゃいけないわけじゃない。それに、タルトのせいで僕らはC級止まりだったんだ。B級魔物だって倒せるさ」


 ラピドが自信満々に笑うと、他の二人も偶然を装ってB級を倒せば一気にB級パーティーに上がれるかもしれないというラピドの言葉に押されて森へと足を踏み入れたのだった。




「はあ……はあ……はあ!」


 タルトは自分の足の遅さを呪いながらそれでも走ることをやめなかった。

 止まれば、ヤツらにやられる。

 その恐怖だけで、彼女は傷だらけ身体を無理やり動かし、森の中を駆けていた。

 しかし、限界は訪れる。

 足がもつれその場に倒れこむ。もう無理だ。

 此処に来るまで助けを呼び続けた。けれど、誰も答えてくれなかった。

 自分は誰にも助けてもらえない存在なのだ。

 ならば、いっそ。ここで永遠の眠りにつくのもいいのかもしれない。

 タルトは、覚悟を決め、じっとその時を待った。

 足音だ。

 自分のすぐそばで止まる。

 ああ、もう一度だけでも、【竜の宮】に戻って姫に会いたかった。


「あ、あの」


 死を覚悟した娘が聞いたのは随分と場違いな間の抜けた男の声だった。

 振り返ると、伏し目がちに黒髪のぼーっとした感じの男が話しかけている。


「何か、お困りですか? お、俺に助けさせてもらえませんか」

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?