今日という日は実に濃密な一日だった。
S
あわや戦闘というところまで揉めた。
が、魔物の襲撃によって、向こうが戦闘不能となることで場は収まる。
そして、その後カインと同じようにパーティーを追放された鑑定士タルトと出会う。
彼女は、『はやさのステータスが低い』という理由で追放、そして、身ぐるみはがされそうになっていたところで遭遇、救出。
更には、タルトは〈
「というような感じで今日は終わった」
グレンはスマートマホーンを使い冒険者ギルドへの報告を行っていた。
傍らでは、タルトがキラキラした目でグレンの通話の様子を見ている。
スマートマホーンは遠くの相手と会話ができる優れものであったが、それは言葉を魔法に変えやりとりをするもので膨大な魔力が必要となる。
聞くだけでもある程度魔力が必要だが、話すのは勿論、更に長時間の会話となると難しく、ステータス自体が高くないカインには難しい作業となった為、報告メンバーからカインは外された。
そして、本来一番魔力が高いであろうシアは好機とばかりにカインにくっつきグレンに押し付けた。どちらにせよ、冒険者ギルド側の女に対し敵意を向けるシアでは話が進みそうになかったのでグレンは引き受けるつもりではあった。
『なるほどな……まさか目当ての魔巣前にそんなことが起きるなんてな。今日はゆっくりと進行し、明日からに備えて貰おうと思っていたが、大変だったな』
カインたちの所属する冒険者ギルドレイル支部の長シキがため息交じりの声がスマートマホーンから聞こえてくる。
『ひとまず、そのタルトというマシラウ冒険者ギルドの娘の事はこちらでなんとかしよう。なに、マシラウの支部長には散々貸しがあるからな。どうとでもなろう』
「すみません、シキ、支部長」
グレンに近づき、カインが魔力を込めて声を届ける。
あまり長時間の会話は出来ないが、感謝くらいは自分の声で伝えたかった。
『……ああ、気にするな。カイン君、キミを信じている。キミが正しいと思う道を行きなさい』
少しの間があってシキがゆっくりと答える。
自分のような低ステータス者にもゆっくり丁寧に対応してくれる支部長にカインは感動していた。
しかし、実際は違っていた。
(あわわわわわ、スマートマホーン越しのカイン君の声を聞いてしまった! 耳元で囁かれたみたい! 今日は『カイン君が耳元で囁いてくれた記念日』であり、『耳元囁き祭り』ね!)
と、シキ自身の脳内で行われる祭りを大人しくさせるのに、興奮をおさめるのにゆっくりと喋っていただけだった。
シキは、動悸おさまらぬ豊かな胸に手を当てて深呼吸を繰り返す。
『贅肉が』
「ココル?」
ギルド側で、シキの豊満な部分に対して悪態を吐く美少女の声が聞こえる。
彼女の名はココル。
カインが持っていた魔導具が自律思考によって作り上げた人造の人間であり、古代遺跡の
『カイン様、魔力を強めに込め話しているので、聞こえていると思います。一方的に喋りますので、是非私の声で興奮してください』
「え、と……うん?」
カインはココルのいつもの妙なアプローチに曖昧に頷く。
『こちらでは、カイン様を嵌めようとしたクソ魔工技師ウソーの工房に立ち入り調査が入りました。何も変哲なさそうな工房でしたが、賭博用の地下室が隠されていました。ちなみに、隠れてはいますが私もなんだかんだで中々いい体つきをしています。今度触ってみてください』
「うん……うん?」
『また、カイン様をいじめたギルドのクソ受付嬢は、本日付で馬車に乗せられ、カイン様をいじめたという大罪を償うために悲しそうな瞳で連れられて行きましたざまあみろ。ちなみに、カイン様は私を恋に溺れさせた罪があります。必ず償ってください』
「ちょ、ちょっと、ココル?」
『そして、夜にはカイン様を追放したクソパーティー【輝く炎】が救出隊によって帰還。剣士バリィは何故か顔面に大きな痣ざまあみろで、一番のクソ女メエナは流石取り入るのがうまいクソ女ボロボロではありましたが、大きな怪我はなく帰還、とはいえ、現在は冒険者ギルドでほぼ投獄状態です。槍使いティナスはカイン様たちの報告にも合った通り死体で発見したらしいのですが、魔物に持ち去られたのかいつの間にかなくなっていたそうです。私の心はカイン様に持ち去られています。さみしいので早く帰ってきてくださいねというか、タルトという新参者および肌真っ白腹真っ黒女カイン様に手を出したらゆるさないしね』
「ココル! 落ち着いて!」
カインが思わず魔力を込めて話しかける。
『……カ、カイン様……会えなくてさみしいです』
「~~~!!!」
カインは顔を真っ赤にして二の句を継げないまま震えている。
そこに、シアが割って入る。
「カインさん、顔が真っ赤。熱いですね。私の手が冷たいのではいどうぞ」
『おい、心もどうせ冷たいクソ女』
「何かしら性格も口も悪いクソ女」
氷の微笑みを浮かべ、グレンの持つスマートマホーンを睨みつけるシア。
そして、シアが添えようとした真っ白で美しい手をカインがとって、慌てて喋る。
「シア、ありがとう。でも、大丈夫、だよ。仲よくしよう、ね? いつものシアが、俺は、好き、だよ」
「……か、カインしゃん……! しょ、しょんなことゆって……と、溶けりゅ……」
カインよりも真っ赤になったシアがカインと握られた手を交互に見つめながらあわあわと慌てふためく。
『おい、赤鬼。なんだかとっても不愉快な光景が繰り広げられている気がします。実況なさい』
「めんどくせえことにしかなりそうにないからパスだ」
『くそが』
「じゃあ、明日は遺跡入りだからな、もう……」
『魔力交信を切るぞ』と言いかけたところで、カインが慌ててグレンの方に手を振る。
そして、目でタルトを示す。
「ああ……分かったよカインさん。おい、ツールの。優しいカインさんがスマートマホーンに興味を持っている件の鑑定士に少しだけ使わせてやりたいそうなんだ」
『なるほど、いいでしょうかわりなさい、【あのたす】の女として相応しいか私が見定めて』
「めんどくさくなること間違いねえから、シキ支部長に代わってくれ」
【あのたす】
それはレイルの街では有名な言葉である。
カインはとにかく人助けが趣味と言っていいくらい人を助けてきた。
その助けてきた人たちが『あの時助けてもらった〇〇です』と恩を返しに来ることが常となり、とうとう『あのたす』という言葉が生まれ、レイルでは一般的に使用される言葉となり、なんだったら、若者の間であいさつに使われているくらいだった。
『しかし……【あのたす】の女はそこの白いクソ女も含めめんどくさい女どもが』
「お前も含めてな! ああもう、カインさん」
「ココル、代わって、あげて、くれないかな」
『……私におやすみと言ってくれたら代わります』
「……お、おやすみ、ココル」
『……おやすみなさい、カイン様。お会いできる日を待っています』
魔導具故か、普段無表情なココルは声も淡々としているのだが、それでもどこか熱っぽく聞こえカインは思わず赤面してしまう。そして、それを隠すようにタルトの背中を押してグレンのスマートマホーンの所へ行くように促す。
『あー、シキだ。タルト?』
「は、はい! タルトと申します! お初にお目に! お目に? お耳に? お耳にかかります! ふわあああ、これがスマートマホーン、通話の魔導具……えへへへへ」
『十分変わり者のようだな。一旦キミはレイル支部預かりとなる。凶悪な魔物の報告例がないS
「はいぃいい! かしこまりました!」
『S
「はい」
シキの言葉にカインは深く頷く。
ギルドへの報告が終わり、夜が更けていく。
明日がやってくる。
カインにとって、大きな出会いと別れの転機となる明日が。