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三部4話 助平おじさんたちは遺物の墓場へと向かいましたとさ

「ちょ、ちょっと待ってください!」


 カインがレオナの肩を抱きながらその場を去ろうとするセクを呼び止める。

 呼び止められたセクは不快感を隠そうともせず眉間に皺を寄せ振り返る。


「貴方達は【遺物の墓場アーティファクトセメタリー】へ向かうのですか?」


 いつの間にかカインの横に来ていたシアが、不本意ながら自分が聞いた方が情報を引き出せるであろうとセクに問いかける。

 案の定、セクはシアが声を掛けてきたことに調子をよくし、笑顔で答える。


「ああ、今から我々はあのS級魔巣ダンジョンの探索を行うのだ!」

「それは、マシラウの冒険者ギルドの依頼でですよね?」

「勿論、私が野盗紛いのことをするとでも?」


 セクは隣でニコニコと微笑みを絶やさないレオナに同意を求める。

 レオナはセクと目を合わせにっこりと微笑み、小さく頷く。


「それは妙ですね。私達はレイルの冒険者ギルドから直接依頼を受け【遺物の墓場アーティファクトセメタリー】の調査を行うことになっています。……そもそも、マシラウ冒険者ギルドの範囲は、【小鬼の遊び場】までですよね?」


 各冒険者ギルドは魔巣について明確に線引きを行っている。

 単純に冒険者同士のもめ事が多い為だ。

 時に、ギルド長が自身の力を示すために担当魔巣を増やせという事や、面倒で割に合わない魔巣を手放したいなどということもあるが、一番は冒険者同士の奪い合いや同士討ちを防ぐためだ。

 仮に、別の街が担当の魔巣に行く必要が出来た場合は、緊急事態でもない限り、許可をとりにいくのが常識である。


「……ギルドからの承認は得ているのですよね?」


 シアは冷たく微笑みながらセクに迫る。物理的には嫌だったので、多少魔力を込めながら。


「……ぬ、ギ、ギルドからの承認は間違いなく得ている!」

「目的は、何ですか?」

「探索だ! 私は、数多くの大発見を行っているのだ! 今回もそれを期待され副ギルド長から依頼を受けたのだ」


 シアの詰め寄り方に不快感を覚えたのか、セクが声を荒げる。

 シアは意にも介さず、未だセクの腕の中にいるレオナと後ろにいる男女に目線をやると、再びセクに問いかける。


「彼らも、ですか?」

「あ、ああ、後ろの彼らはマシラウのB級冒険者パーティー【黒狐】だ。今回は、流石にS級魔巣ということで彼らの同行を私が許可した。そして、彼女はレオナ。パーティー所属はしていないが今回彼女が同行したいという事で、私が守るからとギルドを説得し、連れてきてやったのだ!」


 自分語りが好きな男なのだろう、べらべらと喋る内に眉間の皺はとれ、上機嫌に笑っている。そして、リーダーの機嫌が良くなったことに安心したのか、後ろで黒狐と呼ばれた男女三人が近づいてくる。


「へへ、どうも綺麗なお嬢さん。オイラはネッツ。ネッツ=ゾオン。B級だ」

「オレはギイ=ゾオン。ネッツの兄だ」

「メメよ。よろしくね、お嬢さん、お兄さん方」


 どうやら彼らは機動力メインのパーティーのようで、誰も鎧や盾といった防御力の高い装備をしておらず、軽装で動きやすそうな格好だ。

 ネッツは両腰に短剣ダガーをぶらさげ、ギイはセクのような小型のロッドを右に、後ろに短剣を差している。メメは、弓矢と、やはり短剣を装備している。全員が機動メインにしては荷物を背負って移動しているので、カイン達は首を傾げた。


「あの人たちは、セクさんの取り巻きみたいなもんです。セクさんからお金を貰ってセクさんに手柄を譲っているんですよ」


 タルトがつま先立ちになりながらも耳元に手をあて小声でカインに話しかける。


 冒険者が依頼を受けずに魔物を倒すことはまずない。

 しかし、貴族が自身の力を誇示する為に冒険者のランクを上げたがり、その為に、冒険者を金で雇い、倒させるというのは暗黙の了解として存在する。

 それでも、A級に上がるということはまずほとんどないのだが、マシラウの冒険者ギルドの副ギルド長である為、一部そのような『非常識』がまかり通っていたのである。


「今回も多分、副ギルド長のごり押しとあの人のわがままで勝手に進められたものですよ」


 タルトはそこまで言い切るとつま先立ちの限界を迎え、よろける。

 それをカインが抱きとめた為に、また真っ赤になって首をすぼめる。


「……くそが」


 シアはタルトの天然いちゃつきテクに苛立ち、ぼそりと呟くが、王族の気品あふれるシアからまさかそんな言葉が飛び出すと露にも思わないセクたちは驚いて目を擦る。

 聞き間違いかと思って目を擦るというのも可笑しな話だなとカインは思いながら、タルトをそっと下ろし、シアの方へ近づく。


「あの、共同探索ということで、いかが、でしょうか」


 その発言に、セクたちだけでなく、シアやグレンたちも目を見開く。


「共同探索、だと?」


 追い詰められていたセクが声を詰まらせながら尋ねる。


「は、はい。ここまで来てとんぼ帰りというのも辛いでしょうし、我々の調査、を、手伝って頂く、というのはどう、ですか?」


 カインが相変わらずしどろもどろになりながら、セクに問いかける。

 その不安そうな様子をセクは、


(読めたぞ! コイツ、S級魔巣にビビっているな!)


 壮大に勘違いをした。


「うむ! 良い考えだ! 貴様がそのパーティーのリーダーだな! 名を聞いておこう!」

「あ、カ、カイン、です」

「カインか! よろしくな! では、行こうではないか」


 セクは、手を伸ばしカインと握手を交わすと、シアに『キミは私が守ってあげよう』という意味を込めた気障な目線を送り、黒狐達と遺物の墓場に向かっていく。

 シアはその送られた視線をかき消すかのように吹雪を一吹きさせ、カインに向き直る。


「いい「いいのかよ、カインさん」赤いのしね」

「遮ったくらいでいちいちうるせえな! で、カインさん?」

「あ、うん……まあ、色んな視点、があったほうが、何か、発見出来る、かもしれないし、ね?」


 カインの苦笑を受けて、シア達は渋々了承する。

 本来であれば、あんな下品な親爺と同行するのは皆反対なのだが、カインに何か考えがあるであろうということと、セクが心からではないとはいえカインを褒めたことで少しだけセクを許す気持ちが生まれてしまったのだ。

 セクは首の皮一枚でなんとか繋ぎ止めたことを知る由もなく黒狐のメメという女性の腰を抱いて笑っている。


「あの、ありがとうございます」


 カイン達が振り向くと、ニコニコと笑ったレオナがそこにいた。


「ご迷惑おかけしないよう頑張りますので、よろしくお願いいたします」


 丁寧に礼を言うレオナに思わずカインは腰を折ってお辞儀する。

 すると、上げた先にはレオナの顔が、上半身分近づいてしまい彼女の美しい金色の髪から香る花のようなにおいがカインの鼻をくすぐる。

 思わず、カインは自分が彼女の匂いを吸うなんて、と息を止めてしまう。

 目を見開き口は思い切り閉じ、頬を膨らませる顔を間近で見たレオナは、


「………っ! よろしくお願いしますね、カイン様。では、一緒に行きましょうか」


 ニッコリと笑い、先を行きはじめる。


「……ぶ、っはあああああ~~」


 手を膝に置き、大きく息を吐いたカインは、顔を上げ、再びレオナを見る。


「カインさん……その、雪で豊胸する女は、嫌いですか?」

「ワタシ、ちょっと竜の宮まで戻って、海月のジェリさんに胸を刺してもらってちょっと腫らしてきます」

「待て! バカ二人! 変な気を起こすな! カインさんは別に胸がデケえからあの女を見てるわけじゃねえから! 落ち着け!」


 グレンの言葉に、カインは滝のような汗を流しながら、シア達二人を慰め(?)ながら、漸く遺物の墓場へと足を踏み入れるのだった。

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