「カインヌ!」
ラッタが叫びながら向かおうとする遠くで、ネッツがダガーをカインの背中に突き刺そうとしている。
「テメエは兄貴と遊んでもらってろ!」
こちらを見てネッツが笑っているのを見たその瞬間、ラッタは後ろから赤い光が飛んでくるのが視えた。
「むあ!?」
ラッタは右に急展開し、そのまま真横に走り抜ける。
その直後、火球が落ちる。
「危ないではないか!」
「避けたか……ネズミは本当に素早い……!」
ギイが忌々しそうにラッタを睨みつける。
「赤いのは嫌いなのだ! 熱いからな!」
「そうか、炎は嫌いか、じゃあ、何度でもくれてやる!」
ギイはロッドを腰から抜き詠唱を始める。
ラッタは、きょとんとした顔でギイを見ている。
「おい! 何をしている!?」
ラッタは大声でギイに問いかける。
ギイはラッタが怯えていると思い顔を歪ませる。
「何をしている! 何をしている! 何をしていると言っている!」
「うるせええええ!」
ギイが、ラッタの頭の悪い質問攻めに怒り始める。
が、詠唱は既に終え、ギイの周りには四つの火球が浮かんでいる。
「何をしていたか教えてやるよ! 魔法の準備していたんだよぉおお!」
「なるほど!」
ラッタが前足でぽんと打つと同時にギイは四つの火球を少しずつタイミング、位置をずらして放つ。
ラッタは、前足でぽんと打ってしまった分出遅れ、ごろごろと転がりながらよける。
しかし、火球を避けきれず身体が焼け焦げる。
そして、その火はラッタの額にある巻き毛も焦がす。
「ああ! 私の巻き毛が!? ……ゆ、許さない! 貴族の証を燃やすとは! お前は私がぶっとばすぞぉお!」
「やってみろよ。出来るものならな」
ラッタが見上げた先にギイはいなかった。
ギイの声はいつもより低い位置から聞こえた。
ラッタが首を下げると、ギイが地面に手をついて笑っている。
手と地面の間には術式の書かれた巻物が挟まれ、茶色い光がギイの両斜め前から地面を奔るように伸び、その光の延長線上には岩の壁が生え、気付けばラッタの両側も塞がれていた。
「こ、これは!?」
「古式魔導具、
ギイはロッドを構え直し、詠唱を始める。
ラッタは、構えからゆらりと流れるような動きで……構えなおす。
「おい! 何やってんだよ!」
遠くからグレンがツッコむ声が聞こえる。
「……〈
その隙に詠唱が完了し、ギイのロッドに集まる赤い魔力が炎の矢に変わり、何故か構えなおしたラッタを襲う。
「行くぞ! 貴族突撃!」
ラッタが、火矢に向かって駆けていく。
火矢が鋭く真っ直ぐ飛んでいくにも関わらず、突っ込んでいくラッタを見てかギイは目を見開いている。
「貴族の嗜み! 出されたものは食べる!」
火矢の目の前までやってくるとラッタは口を大きく開き、息を吸い込み始める。
すると、火矢がラッタの口に吸い込まれていく。
ギイはさっきよりも大きく目を見開き、呆気にとられる。
その間に、火矢はラッタの口、いや、腹の中に納まり、げぷとラッタは口から小さな炎を漏らす。
「ふむ、魔力が小さいな! だが、ご馳走様でした!」
そのまま突っ込んでくるラッタに対し、ギイは慌てて道具袋の
色が奇妙に混ざった魔力が筒から溢れ、ラッタを包み込む。
「はあはあ、……〈
ラッタが突撃してくる動線を避けながら嗤うギイに向かって、掛けた相手に幻を見せる〈幻惑〉の光に包まれたままのラッタが突っ込んでくる。
ギイは、床をゴロゴロと転がりながら、壁に背中を強かに打ち付ける。
そして、腹の中のものを吐き出しながら、ギイは呻きながらラッタを睨みつける。
「な、何故……」
「はっはっは! 我々、
「……なら、火矢を食べることができたのは……?」
「ご馳走様でした!!」
「答えに、なってねえ……」
ギイが納得いかない表情で崩れ落ちると、ラッタは物足りない顔で、口から涎を垂らしながらギイを見ていた。