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三部14話 あばれんぼうお姉さんは助平おやじと言い合いましたとさ

 一瞬、ラッタが岩の壁に消えたが、すぐに壁は崩れ不満そうにギイを見下ろしている。

 グレンはその様子を見て小さくため息を漏らす。そして、レオナの方を見る。

 そして、グレンは目を見開いて驚く。

 レオナが後ろから黒髪の男に捕まえられていたからだ。


「カイン、さん……?」




 時は少しさかのぼる。


 魔導具の靴から風を吹き出しながらレオナは満足そうに笑っていた。

 しかし、身体はすぐに構えをとり、セクからの攻撃を警戒する。


「ぐ、ぅううう……神官のくせに、体術だと……!」

「神官じゃくて、巫女、よ。アノー教だと神官の方が一般的に知られているかもしれないけど」


 セクが顔を抑えながらレオナをにらみつける。

 レオナは下がりそうになる足をぐっと踏みこらえ、深く呼吸する。

 セクの戦闘経験は未知数であったが、身に付けているものを見れば油断できない事は確かだ。

 恐らく、女性を襲うために鎧では無く、脱ぎ着しやすい軽装なのだが、全てがうっすらと魔力を纏っているように見えた。

 仮にセクのステータスが低かったとしても、あの装備だけでB級レベルの力が手に入るだろうなとレオナは考えた。

 だからこそ、うかつに近づけずに、ゆっくりと円を描くように移動し隙を探った。


 その様子を見ながら、セクは先ほどまで苦虫を噛みしめていたような顔からニチャリと笑顔に変え口を開く。


「どうした? 怖いのか? A級の私が」

「A級なのは、アンタの実力じゃなくて、アンタの装備とか家とかのおかげでしょう」

「それも実力だよ。力だ。その力で私は、数々の女を手に入れてきたのだ。いろんな女を抱いたが冒険者がやはり格別だね。自分は強いと信じ込む女冒険者を力でねじ伏せ、言うことを聞かせるのは快感だったよ」

「ゲス」

「はっはっは! 全く残念だよ。君がそんなに汚い言葉を使うだなんて。けど、それがいい。そういう女を屈服させるのが私の楽しみだから」


 そう呟くとセクは懐に手を入れ魔法筒を取り出す。

 青黒い霧がセクの周りを包み込み、レオナにも迫る。

 が、レオナは靴から風を起こし霧を退ける。


「レオナ! 気を付けて!」


 霧でぼんやりとしか見えないが黒髪の男が近づいてくる。


「カイン! 大丈夫! アンタの靴があるからね!」


 カインがそばにきてくれたという安心感で笑顔になったレオナはそう言うと、先程までセクがいたであろう方向に向けて大きく足を振り上げる。

 振り上げた足から放たれた突風は霧を吹き飛ばし、セクとレオナの間に道を作る。

 驚いたセクが見えた瞬間、レオナは駆けだそうとする。


 その瞬間、レオナは腕を掴まれる。


「カイン!?」


 驚いたレオナが振り返ると、そこには、カイン、ではなく、【黒狐】のメメが妖しく笑っていた。


「カインじゃなくてごめんね、レオナちゃん☆」

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