「カイン、さん……?」
グレンは基本見たものしか信じない。
特にレイルの街でのカイン死亡説があってからは。
そんなグレンが自分の目を疑って、目を何度もこする。
遠くで視えたカインらしき黒髪の男が、桃色髪の女に一瞬で変わってしまったのだ。
「グレン」
そして、グレンは再び目をこする。
自分のすぐそばに黒髪の男が、カインがいたからだ。
「は……?」
「驚く気持ちはよく分かる。けど、先にグレン聞いて」
カインはグレンに話しかける。しかし、目はしっかりと桃色髪の女が捕まえているレオナに向いていた。
「この! 離してよ!」
「ダメよ~ダメダメ。離さない☆」
メメの腕を必死に振りほどこうとするレオナだが、うまく躱され外すことが出来ずにいた。
「よくやった。メメ。危うく切り札を使う所だったよ」
「うふ、それはよかった」
セクが持っていた魔道具をポケットに納めると、こちらへ近づいてくる。
セクの方を向き、警戒を強めた瞬間、気付けばレオナは体中をロープで縛られていた。
「え? は? いつの間に!?」
「うふふふ、メメちゃんお得意のお縄縛り。どう、気持ちいい?」
「いい、わけ、ないでしょ……! この、変態!」
「久しぶりに聞いたわ、その言葉~地味に傷つく~☆」
メメが口を尖らせながら文句を言っている。
「はっはっは! メメ、君は本当に素晴らしいな! 実に私好みの格好だ」
セクは、縄で縛られたレオナを上から下までじっくりと舐めるように見て笑う。
レオナはその視線に吐き気を覚えたが、現状をなんとかする為にぐっと堪え頭を回し続けた。
「いや~ん、ありがとうございます☆ メメ・カシコム! セク様の為にがんばりました! 以後よろしくお願いします!」
「黒狐の新しいメンバーとして申し分ない。いや、あいつらよりも君の方が役に立ちそうだ。君をリーダーにしてあげようか」
捕まえた余裕なのか、メメとセクは笑顔で会話を始める。
人質にも使えると思っているのだろう、戦闘をしていた男たちの方に聞こえるよう意識を向けながら喋っている。
「ありがとうございます。……でも、私、それよりも何よりももっと欲しいものがあるんです」
メメは、特徴的なぷるんとした唇をきゅっと少し噛み、吐息のような声を漏らす。
その色気ある振舞に、セクは目を細め、舌なめずりをする。
「なんだ、言ってみたまえ。私で用意できるものならなんだって用意しよう」
「ほんとうですか? うれしい……!」
メメが大げさに両こぶしを口の前で揃えて感極まったような表情を見せる。
「ああ、いいとも。金か? 魔導具か? 地位か? それとも、私の愛か?」
「いいえ、違います。私が欲しいのは……」
セクがメメの肩を抱いた瞬間、その右手を掴んだまま、するりと後ろに回り捻り上げ、そのまま背後から短剣を持った左手を回し、首筋に当てる。
「セク様の身柄で~す☆」
「は?」
セクが目を白黒させている間に、カイン達が駆け寄ってくる。
そのカインを見てメメが手を振っている。
「お~、カイン! ひっさしぶり~!」
「えと、あ、や、やっぱり?」
「そう! あの時、ヌルドの事件で助けてもらった老婆だよ!」