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三部16話 おめかしさんは助平おやじに正体をあかしましたとさ

「なかなか見つからねえなあ」


 マシラウ冒険者ギルドの中にある酒場でネッツはぼやいていた。


「お前が前の女を滅茶苦茶にしたからだろうが」

「その前の女は、兄貴のせいだけどな」


 ギイの嫌味にネッツが笑って返す。

 ネッツとギイ、二人はB級パーティー【黒狐】のメンバーだった。

 といっても、メンバーは二人だけだ。

 最近、メンバーがまた一人抜けた。


 格闘家の女だった。


 黒狐は探索に力を入れている為、機動力を重視している。

 そして、もうひとつ、『色気のある女性』という点も重視している。


 黒狐は、マシラウ冒険者ギルドの副ギルド長であるパワ=ハウラの弟、セク=ハウラの腰巾着と言われている。

 しかし、二人は気にしない。

 実際その通りなのだ。

 セクの地位を高めるために、遺跡での発見を捏造偽造は何度も行っているし、セクの欲望が起こした事件のもみ消しも幾度となく行っている。

 そのおかげで彼らは冒険者ギルドでも大きな顔が出来るし、金も驚くほど手に入れることが出来る。


 ただ、困るのが、セクの情事の見張りだ。

 彼らとて男だ。

 中から聞こえる淫靡な音や卑猥な声に、抑えきれない感情が溢れることもある。


 だから、彼らもセクと同じように、仲間として迎え入れた女性を欲望のままに襲ったことがある。

 一度目は、ギイだった。

 そして、今回はネッツが。

 それによって、また彼らは二人組に戻ってしまった。


 しかし、味を占めた二人は、箍の外れた獣達は、止まることはない。

 獲物を探し、冒険者ギルドで『仲間』探しをしていた。


 けれど、セクは権力や財産によって無理やり連れてくることが出来るが、二人はそうではない。噂が広がるだけ広がり、彼らは避けられていた。


 しかも、別の噂で、ヌルド王国の王都にある冒険者ギルドの本部から監査が入るらしく、強引にパーティーに引き込もうとすれば直接ギルド長からお叱りを受ける上に、味方のはずの副ギルド長さえも『暫く大人しくしておくように』と釘を刺されていたのだ。


 そんな時だった。


「あの、この街にA級の冒険者さんがいるって聞いてきたんだけど、仲間にしてもらうことって出来ないかしら?」


 ギルドの受付に、漂ってきそうな色気ある声の女性が来ていた。

 少し化粧は濃いが、桃色の髪、身体はほっそりしているが、仕草には歴戦の娼婦を思わせる、そんな女性が来ていたのだ。

 冒険者になりたての若造であれば、彼女のその仕草ひとつで蹲ってしまうのではないかという艶のある動きであった。

 そして、黒狐の二人も同じく、彼女の仕草に心奪われ、互いにその目線に気付いた兄弟は目を見合わせて頷いたのだった。


「あの……失礼ですが、A級冒険者の方は、お忙しいんじゃないかな、と思うので、別の……」

「そんなこと言うなよ。テリアちゃん。その子が可哀そうじゃねえか」

「そうそう、セクの旦那に会いたいって言ってるんなら、オレ達に任せな」

「あら……貴方達は、そのA級冒険者さんと知り合い?」


 受付嬢が顔を曇らせながら桃色髪の女性に話しかけたところで、黒狐の二人は割って入り、無遠慮に桃色髪の女に迫る。


「そう、知り合いなんだ、オレ達は」

「でも、あの人はパーティー組まないんだ。残念だが。が、オイラ達はあの人とよく一緒に依頼をこなす。だから、どうだい? オイラ達の黒狐に入らないかい?」

「……うれしい。それに、お兄さんたちも凄いいい身体してて強そう。分かったわ、入るわ貴方たちのパーティーに☆ 私は、メメ……メメ・カシコムよ」





 はっとギイが目を覚ます。

 どうやら気を失っていたようだ。

 そして、身体が痛い。

 その痛みで思い出されるのは、化け物白巻き毛ネズミだ。


 どこにいる!?


 慌てて身体を起こす。

 キョロキョロと周りを見渡すが、見当たらない。

 そして、とある光景が目に留まり、言葉を失う。


 メメが、セクの首筋に短剣を当てていたのだ。




「ど、どういうつもりだ! メメ! 冗談はよせ!」

「ごめんなさ~い、セク様☆ 冗談じゃないんです~」


 セクが声を荒げて背後にいるメメに話しかけるが、メメは楽しそうな声で謝り続けている。


「ヌルドの事件の老婆って……どういうこと?! もしかして、あの時の……?」

「いや~ん、レオナちゃん思い出してくれた?」


 メメの言った『あの時、ヌルドの事件で助けてもらった老婆だよ!』という言葉。

 ヌルドの事件は、恐らくレオナも体験した『灰かぶりの夜』だろう。

 そして、カインと関係のある老婆でレオナに心当たりがあるのは、『おばあさんに化粧されたり服を着させられたりして急激に魔力が上がった』という出来事だ。


「やたら、ウィンクをしてくる、から、多分そうだろうなって。でも、まさか……気付かなかった、です、よ……?」

「カインが魔道具をくれたお陰よ~☆ あと、敬語はいいわ。老婆よりこっちの方が本物に近いからネ!」


 メメはカインにウィンクを送ると、視線をレオナに動かす。


「というわけで、あの時の老婆よ☆」

「なんで? 本当におばあさんだったのに!」

「おい! なんの話をしている!?」


 セクが二人の会話に割って入る。


「メメ! お前は一体何者だ!?」

「そうね……ちょっと、こっちの用事を済ませてから、詳しく話すからレオナちゃんはちょっと待っててね~」


 メメは再びウィンクをぱちりと送ると、冷たい笑顔と明るい声でセクに語り掛ける。


「さ、というわけで☆ じゃ~ん、冒険者メメ・カシコムとは仮の姿、私は、ヌルド王国冒険者ギルド本部所属の監査員、メメ・ツーケルよ☆ ラウシマ冒険者ギルドでの女性冒険者暴行について、セク=ハウラ、貴方に聞きたいことがた~っぷりあるの。今後ともよろしくね☆」

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