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三部17話 助平おやじは社会的に抹殺されましたとさ

「ヌルドの、冒険者ギルド本部の監査員、だと!?」


 セクが目を見開きながら首筋に短剣を当てたまま自分を拘束するメメの方を向こうとする。


「は~い、動かない☆ 次に動いちゃうと、うっかり短剣で斬っちゃうかもしれませんよ」


 メメは茶を零す程度の雰囲気で笑いながらセクを脅す。

 セクは慌てて前へと向き直るが、同じように驚いているカインやレオナを見て、苦虫を噛み潰したような顔に変わる。


「奴らも知らなかったようだな……」

「勿論☆ 今回は、マシラウ冒険者ギルド長の依頼でここにいるからね☆」

「は! 監査員だかなんだか知らないが、お前如き小娘に私が捕まえられてたまるか!」

「カインさん!」


 その時、タルトとシアが飛び込んでくる。

 その声を聞いたグレンがハッと気づき、タルトたちに視線を向ける。


「おせえよ、何をしてた?」

「シアさんが、全然起きないんですよ! っていうか、シアさん、前の日に大声で起こしたら、滅茶苦茶怒るから静かに起こしたら全然起きなくて……」

「うう……魔力が頭に回ってない……」


 ぼんやりとした様子でタルトに肩を借りてやってくるシアを見てグレンは溜息を吐く。


「海人族や鬼人族が! 貴様らが対等の立場で話をしていること自体が私を苛立たせる! 生意気なんだよ! お前たちも!」

「あらあら☆ また差別発言。いいんですか、そんなこと言って~☆」

「お前たちと私の言葉では重さが違う。お前らの話など誰が信じるものか!」

「なるほど~、じゃあ、セク『様』の言葉ならみんな信じると☆」

「その通りだ! 分かったら離せ! 離せば、口利きをして……」


『私に襲われた女たちが名乗ると思うか? 今まで一度もなかったろう。そんな女は一人もいない。女は皆私に従うことになる。私の名に怯えてか、金を貰って満たされてか……それとも、売られたり殺されたりして、か、な』

「な……今の、声は……!」


 セクが顔を真っ青にして驚いている後ろでメメが笑いながら、黒い小さな球を掲げている。


言珠ワードオーブ。言葉を閉じ込めることの出来る魔導具ね。ここにあなたの言葉がしっかりと閉じ込められていま~す」

「ふ、ざ、けるな! それでもだ! 私の兄の力があればもみ消し、貴様らなんぞ塵芥この国にいられなくすることだって……!」

「そんなこと出来るんですか~?」

「疑うのか!? 出来るとも! お前たちもアイツらのように、無実の罪をかぶせられて、街を追われ、家を失い、奴隷に落ちる、そんな地獄を見せてやろうか!」

「わからねえな」


 グレンは、呆然とした様子で、小さく呟いた。


「わからない!? 何故そんな目にあうのか分からないか!? 答えは簡単だ! 私に逆らったからだ! 弱者が! 強者に逆らったからだ! 女も、平民も、低ステータス者も、只人以外の種族も、私に逆らうな! 分かったか!」

「それもわからねえが、そっちじゃねえよ」

「なに……?」


 今度はセクがグレンの言葉に眉を顰め小さく首を傾げる。


「なんで、こう悪りぃヤツってのはぺらぺら自分の悪事を喋るんだよ。なあ、カインさん」

「そう、だね。不思議だ、ね」


 グレンに意識を向けていたセクだったが、カインの言葉で再び顔をそちらに向ける。

 すると、カインは長方形の魔導具を掲げていた。


「それは……」

『スマートマホーンだよ。セク』


 その声は非常に小さくくぐもってはいたが、セクにとっては非常に聞き覚えがあり、また、聞きたくもない声だった。


『スマートマホーン越しだが、分かるかね? マシラウ冒険者ギルド長、ナマリだ。セク、面白い話をありがとう。その話が本当かどうかこの後ここにいるお兄さんにも聞いてみることにしよう』

「な、なぜ……?」


 カインは、遺物の墓場の外で、レオナの事情を理解した後、すぐに冒険者ギルドレイル支部にいるシキと連絡をとった。


 そして、何故か興奮しているシキに事情を話し、マシラウ冒険者ギルドと繋いでもらった。

 マシラウ冒険者ギルド長のナマリは、セクと共に出たレオナを、冒険者ギルドの中でも評判高い『聖女』を心配していたこともあり、眠れぬ夜を過ごしていた。

 そんな折に、レオナを救い、セクを貶める策に、ナマリは諸手を挙げて賛同した。


 そこからのナマリの行動は、いや、反パワ=ハウラ・セク=ハウラ派のマシラウ冒険者及び事務員達の行動は早かった。

 異常な程の伝達速度で話は伝わり、パワを連れてくる小芝居の打ち合わせ、実行、そして今に至る。


『お兄さんは、お兄さんで今からたっぷり色々と絞らせてもらうよ。セク、君も早く帰ってくると良い、君の帰りをみんな待っているよ♪』


 そして、その後から続くのは、沢山の人々の歓喜と怒号入り混じる大合唱だった。


 この瞬間、セクにとって、マシラウは自分の欲望を叶える無法地帯という天国ではなく、罪に対する罰を受け家を失い身分を落とす地獄に変わったのだった。

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