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三部18話 助平おやじは性的に抹殺されましたとさ

 それは突然の出来事だった。


 最初は小さな揺れだった。

 まず、反応したのはカインだった。


「みんな、揺れが! 気を付けて!」

「へ……? ほぎゃあああ! な、なんで!」


 地震によって大きく大地が揺れた。

 カインの言葉に素早く反応したグレン、レオナ、メメは屈みこみ地震に備えることが出来た。

 一方、タルトとタルトの肩を借りたぼーっとしているシアは、反応に遅れ、体勢を大きく崩す。


 しかし、今までにない大きな揺れに全員態勢を崩してしまう程で、シアとタルトはゴロゴロと転がる。

 やがて、揺れはおさまり、遺物の墓場に静けさが戻る。


『だ、大丈夫か!? カイン!』


 スマートマホーン越しにナマリの声が響く。


「え、ええ……そちらは?」

『ああ、こちらもなんとかな。しかし、今までにない強烈な揺れだった。これは、魔雪もひどくなりそうだ。まあ、家の補修依頼が増えてギルドとしては大助かりだよ』


 その時、転がりすぎて地面に伏せているタルトの頭の中でかちりと音が鳴った気がした。

 そして、僅かに遅れて、カインも目を見開く。

 ほぼ同時に二人が目を合わせ、頷く。

 が、聞こえた言葉に意識を奪われる。


『おい! パワの身柄はちゃんと拘束しているか?』


 セクは?


 その場にいた全員がセクの姿を探す。

 そして、ナマリの『よし! そのまま捕まえておけ!』の言葉とほぼ同時にセーフティーポイントの入り口付近に立つセクを見つける。


「はっはっは! 神は私を見放さなかった。やはり、私は生き残るべきなのだ! 大地の神よ感謝するぞ! そして、私に力を!」


 セクは先程、霧の中でレオナに使い損ねた魔道具を取り出す。


 魔導具『魔導砲』。


 本来の魔法を、筒状の中に螺旋に刻まれた〈魔力吸収〉や〈魔力強化〉の術式がいくつも連なった道に通すことで本来の威力の十倍以上を引き出す魔導具である。


 その中にセクは、詠唱と共に茶色い魔力を込める。


「くらえ! 〈石波ストーンウェーブ〉いや、〈石津波ストーンタイダルウェーブ〉!!」


 地面に勢いよく放たれた魔法は地面に干渉し、石の槍を生えさせる。

 そして、それはどんどんとカイン達に向かって生えていく。


「く! 〈炎壁〉……!」

「〈氷壁〉」

「「床を介す〈壁〉は駄目だ(です)!」」


 グレンとシアが慌てて地面から魔法の壁を生やそうとするが、カインとタルトの声が大きく響く。

 しかし、既に壁は生まれ、カイン達よりも離れた場所で岩の槍を迎え撃つ。

 が、一瞬で消え去ってしまう。


「「はあ!?」」

「タルト!」


 カインが叫び終わるよりも早く、タルトがカインに向けて、『マナポーションの瓶に魔吸草の汁を垂らしたもの』を投げる。

 カインは、腕に巻きつけた鍵盤で出来る限り長く強力で固い術式を紡ぐ。


「あ、ぐ……! 〈三つ盾・海魔王の血トライシルド・セピア〉!」


 泥が混じったような暗い緑の魔力の巨大な盾がカインの前に生まれる。


 そして、岩の波を受け止め始める。


「無駄だ無駄だ! 波は何度も打ち寄せる! お前達が死ぬまで! ははははは!」


 ガガガガガガと身体の芯に響くような破砕音が何度も繰り返され、カインは顔を顰める。


 そして、その波に押しつぶされるようにカインの盾が消える。


 そして、カインを吞み込まんと迫る波もまた、急に、消えた。


「ははははははははは! はははは! ……は?」


 カインとタルトを除く誰もが見たこともない不思議な現象に目を丸くする。


「め、メメ! セクを!」

「あ! う、うん!」


 カインの絞り出すような叫び声に弾かれたようにメメが駆け出す。

 しかし、及び腰になっていたセクもまたその声に反応し、逃げ出していく。


「野郎!」

「グレンさん! 黒狐の二人を!」


 グレンもまた追おうとしたところにタルトから声が掛けられハッとグレンは辺りを見回し、静かにその場を離れようとする二人に一瞬で追いつき捕らえる。


「あ……! が……! 離せ!」

「離すかよ」


『お、おい! 大丈夫か!? カイン!』

「あ、はい……大丈夫、です。多分。あと、シキさん、にも、伝えて、頂き、たいのですが、遺物の墓場で、多分、大きな、発見が……」

『何!? どういうことだ!?』

「あ、でも、先に、セクを、逃がしてしまったかも、しれ、ません。すみ、ません」

『こちらに逃げてくるかもしれないな。パワが捕まったので、もう従う奴らも少ないだろうが。一応、こちらからもいくつかのパーティーで捜索させよう』

「その必要はないかも☆」


 カインがスマートマホーン越しにナマリとやりとりをしていると、メメが帰ってくる。


「メメ、どういうこと?」

「……えと☆ 赤猿がね、セクを……」




「「「「『……あぁ』」」」」




 覗き赤猿という魔物がいた。

 彼女たちは、小鬼ゴブリンの生息地体の近くでよく発見される。

 覗き赤猿という名の由来は、そのままの意味で、冒険者達を遠巻きに覗いているからであり、その毛が長く赤いからだ。

 彼女たちが冒険者達を覗いているのにも、小鬼の近くに生息しているのにも理由があった。

 小鬼ゴブリンは、人間のオスを殺し、メスを犯す。

 優先するのはメスで、オスが歯向かわず逃げ出せば追うことはない。

 しかし、小鬼に襲われ敗れた冒険者達の帰還率は極めて低い。

 それは小鬼だけが原因ではなかった。


 逃げ出した冒険者の男たちは、じっと覗いていた彼女たちによって捕らえられるのだ。

 それが、覗き赤猿である。

 覗き赤猿は、メスの比率が非常に高く、オスは少ない。

 なので、人間の男を襲う。

 力は強くないが、小鬼によって弱った人間が相手なので、数で襲い掛かればいともたやすくとらえ巣に連れ帰ることが出来る。


 セクが連れ去られた。

 つまりは、そういうことである。


「アッー―――――!」


 遺物の墓場の中にも聞こえる絶叫が響き渡った。


 覗き赤猿は、自身の欲望の為に、近づいてくる愚かな魔物だが、獲物を一たびとらえれば見つけることが出来ない魔物で、それに似た人間の事を男女問わず『覗き赤猿』と揶揄する冒険者も多い。

 つまりは、そういうことである。


「まあ、今までの罪の清算ということで、きっと納得してくれるでしょ☆」


 メメのすっきりした笑顔に、カインは『わざとでは……?』と考えたが、口に出すことはなかった。

 つまりは、そういうことである。


 その話を聞き震え泣きつき『罪を償うので赤猿だけは!』と叫ぶ黒狐の兄弟にグレンは意地の悪い笑みを浮かべた。


 そして、セクの姿をそれ以降見た者はいない。

 つまりは、そういうことである。

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