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三部23話 親切おにいさんは遺物の墓場をもっと暴きましたとさ

 鍵盤キーボードから発する乳白色の光がぼおっと灯り、カインとタルトの姿が映し出される。


「カインさん、大丈夫ですか? ワタシ、その……」

「大丈夫、だよ。タルトこそ、怪我は、ない?」

「だ、大丈夫です! ワタシは! カインさんが、その、だだだ抱き、抱きかかえて守ってくれたので! 全くなんともなかったです」

「なら、よかった」


 カインが微笑むと、先程の泣きそうな顔が一瞬で真っ赤に変わりタルトは思わず顔を伏せる。


「タルト?」

「そ、それより! ここは……」

「【遺物の墓場】の地下、なんだろうけど……これだけじゃ……」

「あ! ワタシ、魔導灯、持ってます!」


 タルトは、背中にある甲羅の中に手を引っ込めると、ランタンのような形の魔導具を取り出す。


「それ、バッグ、なの?」


 カインが甲羅に手を引っ込めたタルトに恐る恐る問いかける。


「そうです! ご先祖様から代々受け継がれてきた甲羅でして、荷物袋兼防具のようなものです! なので、寝る時とかは外してるんですが、カインさんは見てないですもんね」

「亀人族は甲羅が付いているのかと……」

「甲羅はついているわけではないんです。というか、どんどん、甲羅が薄くなっていったというのが本当のところでして……ほら」


 タルトが腕をまくると、緑の鱗の様なものがびっしりと張り付いている。


「これが甲羅だったものです。亀人族が、素早い獣人族と戦う為に、海神様から与えられた姿だと言われています」

「えと……」


 混乱しているカインを見て、タルトはくすりと笑うと、


「また、ここから出たら、お話します。カインさん、ワタシはあなたと出会うために、ここに来たんですから」

「どう、いうこと?」


 タルトはこれ以上話す気はないのか、魔導灯に光を灯す。


 魔導灯は最も一般的な生活用魔導具といえる。

 魔力を込めて光を灯す。それだけだ。

 だが、それだけであるが故に、魔力を持つ者であれば誰でも使えるし、光の恩恵は計り知れない。


 鍵盤の光よりも大きな光がカイン達を包み込んでいく。


「さあ、早くホラーさんを探しましょう。あの人おかしくなっちゃったのか、笑いながらどっか行っちゃいましたし……全く、しょうがない人ですねえ……」


 溜息を吐きながら歩き出そうとしたタルトの先にあったのは


「ほんぎゃああああああ!」

「鉄の、鎧?」


 タルトの三倍はある大きな鎧だった。

 カインが並んでも倍近くの高さで、横幅は四、五倍はあるだろう。

 鉄仮面をつけ静かにたたずんでいる。


「な、なんだ、鎧、ですかあ~。びっくりしましたよ~、もう!」


 タルトが照れ笑いを隠すように鎧を叩くと、鈍い音がした。

 その瞬間、タルトとカインは目を見開く。


「タルト……?」

「カイン、さん……」


 カインがタルトの顔を見ると、タルトは震えながら首を、横に振る。

 カインはそれを見ると鍵盤キーボードを構え、緑の光の線を鎧に伸ばす。


「〈精査スキャン〉」





 魔導灯は、生活用魔導具で最も一般的な魔導具と言える。

 魔力を込めて光を灯す。それだけだ。

 だが、それだけであるが故に、魔力を持つ者であれば誰でも使えるし、光の恩恵は計り知れない。

 その魔導灯も遺物の術式を読み取り生み出された魔導具だ。

 遺物の時代でも、そうであったのだろう。

 誰でも使えるようにするため極力簡単な術式にまとめられていた為、いち早く解読することが出来た。

 初めて魔導灯の原型である遺物が見つけられた場所が、一年を通して薄暗い土地であった為に、光に関するものではと考えられたことも一つの理由だった。


『魔導具ってのは、何かが足りない人を満たすために、笑顔にするために、あるべきだと思うわけだ』


 『工房の師匠』はその話をしながら、いつも最後はそう締めくくった。


 色んな道具が所狭しと並び、失敗作の山がいくつも詰まれていたあの『工房』で、満たすものを作る為にカインの『師匠』たちは、ずっと魔導具を作り続けていた。

 そして、満たすために生み出された努力の結晶が誇るように置かれていた。


 その魔工技師の為の空間で師匠は何度も言っていた。


 何が必要なのか、何で満たすべきなのかを見極めろと。


 カインはここに来た時に、捨てられた遺物の解読を試みた。

 遺物がどういうものであったか分かれば、この場所の解明も早くなると考えたからだ。


 しかし、術式は消えかけで、しかも、複雑だった為、ほとんどわからなかった。


 ならば、『外側』から。

 カインは、そこにある壊れた遺物がどういうものなのか想像し、今の時代の何に似ているのか考えた。

 鎧のようだと思った。

 人が身に付けるには大きすぎるが、形状としては人間の部位に近しいものはいくつか見られた。

 しかし、鎧と結論付けることはできなかった。

 何故なら、中身が詰まっていたからだ。

 灰色の石灰のようなものが詰められていた。


 人形、とは言えないだろう。

 ソレは余りにも大きかった。


 もしかしたら、それは……




「カインさん」


 横を駆け足気味で歩くタルトの声で我に返る。


 カイン達は先程の鎧を〈精査スキャン〉した。


 鈍い音が響かなかったからだ。

 中身があったからだ。

 人ではなかったからだ。

 タルトの〈鑑定〉に間違いはないだろう。

 〈精査スキャン〉の後、すぐに動き出した。


 その鎧には夥しいほどの術式が刻まれていたからだ。

 そして、カインはその術式に似たものを見たことがあった。

 見せてもらったことがあった。

 白と黒の混じった髪の美女に。

 人のように動く遺物の術式を。


 魔導灯の淡い光がぼんやりと地下を照らす。

 怖いほどに綺麗な壁や天井がそこにはあった。

 カツカツと靴を鳴らしながら無機質な通路を早歩きで進む。


 そして、カインとタルトは辿り着く。

 魔導灯で照らされた其処には、どこか懐かしさがあった。

 失敗作の山は其処にはなく、上の階に運ばれていた為、すっきりしていた。

 色んな道具が所狭しと並んでいた。


「ここは、【遺物の墓場アーティファクト・セメタリー】、なんか、じゃ、ない」


 タルトが振り向くと、カインは恐怖と喜びをごちゃ混ぜにした顔で目を見開いていた。


 きっと遺物の時代の者達の努力の結晶なのだろう。

 作りかけながら十数体の、鉄の人形達が誇らしげに置かれていた。



「【遺物の工場アーティファクト・ファクトリー】、だ……!」

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