マコットとカインが小さく笑いながら交差し、『歌う鵞鳥』を受け渡す。
二人が通り過ぎたその間をエーテの拳が貫く。
(やはりどこかおかしい! 何か動きをおかしくする魔法がかけられたか。しかし)
ウソーはエーテの異常に気付くが、すぐに落ち着きを取り戻す。
カインが立ち止まり、振り向きざまに近接戦闘用の短剣をエーテに浴びせる。
しかし、カインの力ではエーテの装甲には歯が立たず、傷つくこともない。
そして、そのままエーテは上半身を回転させ、カインを吹き飛ばす。
そこに追撃として、マコットの魔法が放たれる。
最初に三体のエーテを倒した攻撃に似た黒い杭がエーテの足に迫る。
その攻撃はカインの一撃とは違いエーテの身体を揺らした。
しかし、その程度、エーテは気にせずマコットの方を向く。
(攻撃がきかなければ意味がないんだよ! このまま終わりだ)
エーテがマコットに飛びかかろうと身体を縮める。
そこにタルトが再び魔法筒で風を吹き出しながらエーテの足首に一撃を当て、バランスを崩させる。
(無駄だ! 無駄! お前らの一撃程度じゃあエーテは壊れない! ただの時間稼ぎにしかならない!)
ウソーの思った通り、カイン達の攻撃はエーテを一撃で倒せるほどの威力はなく、エーテは暴れ続けていた。
しかし、それでもカイン達は攻撃を続ける。
それにより、〈魔力阻害〉によって動きの悪いエーテはなかなか攻撃に転じることが出来ない。
(にしても、何故だ!? 何故、あんな連携がとれる!?)
歌う鵞鳥によって、ウソーはエーテに指示が出来ない為戦い方に乱れが起きる。
しかし、カイン達は、カインが近距離で、マコットが遠距離から、タルトがその中間でそれぞれの補助に。
カインは鉄人形であるエーテには斜めに捻る動きが難しいと見極め巧く張り付き、限界が来れば下がり、すかさず遺物の鍵盤を手動操作し、身体強化を自身にかける。
遺物の鍵盤により素早く掛けられるとはいえ隙は出来る。
その瞬間、タルトが飛び込み、エーテのバランスを崩す。
そして、すぐさま距離をとったタルトをエーテが追おうとするとマコットの黒い杭が飛んでくる。
ならばとマコットに標的を変えようとすれば、タルトが割って入り、カインが飛び込んでくる。
全てが絶妙のタイミングでまるで長い間苦楽を共にしたベテランパーティーのような阿吽の呼吸に、エーテは動きを封じられ、ウソーは顔を歪める。
(なんてやりやすいんだ。この二人の動きは、凄い!)
マコットは感動していた。
マコットは人嫌いでコミュニケーションが得意ではない。
けれど、今、何も話をしていない、出来ないにも関わらず、二人と通じている感覚になれた。
(何故こんな風に動けるんだ!?)
タルトとカインはパーティーのお荷物扱いされてきた二人だった。
だからこそ、自分の立ち回りや位置取りに人一倍気を使ってきた。
そんな二人だからこそ、マコットとの連携も難しくはなかった。
あの『我が儘で気分屋な彼ら』に比べれば、楽だった。
二人と通じ合えている感覚がマコットに、歌う鵞鳥に魔力を込めながら、術式設置による遠距離攻撃という離れ業の代償となる頭をかき混ぜる痛みを耐える力を与えた。
(大丈夫! 出来る! ワタシは出来てる!)
タルトは魔力阻害の影響を受けやすい魔導具を出来るだけ避け、道具を駆使しながら攻撃を重ねた。
元々タルトは自身の敏捷性の低さを補って余りある程先読みの力が優れている。
あとは選ぶ勇気さえあれば、タルトは戦えるのだ。
(カインさん! ワタシ、戦えていますよね! 足手まといじゃありませんよね!)
タルトがちらりと一瞬カインに視線を送ると、カインは一瞬微笑み頷いてくれた。
タルトは戦闘中だが、口の端が上がるのを押さえられなかった。
(コミュニケーション! これが今のワタシ達の最大の武器! ですよね? カインさん!)
エーテは倒れない。
しかし、タルトたちもまた折れることはない。
彼らは今、繋がっている、強い絆で。
長い長い消耗戦が続いていた。
しかし、突如として鵞鳥の歌が終わり、戦いも最後の瞬間を迎える。