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三部37話 いじわるお兄さんの手は届きませんでしたとさ

 冒険者パーティー【輝く炎】のパーティーリーダー、バリィは宿屋の二階からぼーっと外を眺めていた。


 【大蛇の森】でカイン達を襲ったことで、冒険者としての活動を制限され、また、ティナスが死に、メエナが遊び呆けていることもあり、パーティーとしての活動は絶望的だった。


(何故、こうなった)


 バリィは自分に問いかける。

 理由は簡単だ。

 けれど、そう思うことを身体が拒否する。


 カインを追放したから。


 それからバリィの人生は転落の一途を辿った。


 バリィはカインが嫌いだった。

 幼いころ、同じ街で暮らしていた頃から、自分より何も持っていない癖に満たされているような顔をするカインが嫌いだった。

 それは同じ冒険者として出会った時も同じだった。


 嫌いだった。


 ただ、


 いつからだろうか。


 カインが憎くて憎くてしかたなくなったのは。


 カインの持っているものを全て奪いたくなったのは。


 その笑顔も、居場所も、夢も、愛する女も奪いたくなったのは。



 そして、奪った時は幸せだった。快感だった。気持ち良かった!


 けれど、終わった。


 何もかもを失い、ただここにいる。


 空に手を伸ばしてみる。


 何もない。


 掴めもしない。


 届きもしない。





 下を見る。


 男の子二人が追いかけっこをしている。


(いつか、となりの奴が憎くてたまらなくなるんだ、あいつらも)


 バリィは彼らを眺めて嘲笑っていた。

 何も知らずに無邪気に、と。


 彼らが駆けていく。

 何かを見つけたようだ。

 その方向に人だかりが見える。


「おい! 遂にこの街にS級パーティーが生まれたって!?」


(は?)


 バリィはB級、だった。今は、D級まで降格している。

 S級は、最上位のランクだ。

 大陸の中でも数えるほどしかいない。


 ゆるぎない実力と実績が必要になるのだ。


 S級パーティーがゆっくり走る魔導列車に乗せられて皆に手を振っている。

 そこにいたのはバリィの良く知る、大嫌いな……。


「カイン……?」


 バリィは転げ落ちるように宿屋の階段を下り、素足のまま駆けだしていた。

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