「では諸君! 我々の夜に乾杯!」
白い巻き毛ネズミ、ラッタが音頭をとり、酒の入った小さな器を掲げる。
「乾杯」
血涙の赤鬼、グレンが赤い液体の入った器を掲げながら応える。
「乾、杯」
カインも微笑みながら同じように器を掲げる。
「かかかかかかかんぱい……」
元・ひきこもりの魔工技師マコットは震えながら酒が零れる器を一瞬掲げる。
レイルの街にある酒場【踊る雄牛亭】で、S級パーティー【小さな手】の男たちによる酒宴が行われ始めていた。
事の発端は、元気のないシアの為に、【遺物の工場】で頑張ってくれたご褒美ということで行った二人きりのお出かけだった。
それによってココルとも出かけることになり、更に他の女性陣にもお出かけの要求をされ、結局それぞれとお出かけすることになってしまったのだ。
となると、男性陣にも何かしなければとカインは考えた。
それをグレンに相談したところ、この宴が提案されたのだ。
(一人一人に付き合ってたらカインさんの負担が大変になるからな)
グレンは、つまみを口に運びながら周りに目を見遣る。
ラッタは、次々に運ばれてくる食事をあっという間に平らげているし、マコットはこの宴に参加できたことだけで満足しているのかニマニマしながらちびりちびりと酒を飲んでいる。
カインも宴の場にあまり慣れていないので、もてなす側として引き攣り笑いを浮かべながら戸惑っている。
「あー……カインさん、次の
グレンはなんとか話題を作ろうとカインに話を振る。
「んん……そう、だね。急ぎのもの、は、ほとんど終わったから、何に、しようかな、と、思ってた、ところ」
【遺物の工場】での一件で、カインが重傷を負って、指名依頼は激減した。
それは、カインに対する失望ではなく街の人々の気遣い故だった。
そもそも『あのたす』案件は、カインが金銭的に困ることのないようレイルの街の人間達が指名依頼をしている。
なのでカインが困るようなことはしないというのが暗黙の了解なのだ。
だから、今は指名依頼も落ち着いており、本当に困ってカインを頼る依頼は【小さな手】によってあっという間に解決していた。
「小さな依頼は孤児院の子達が、やって、くれてるし、ね」
「ああああああの、カインさん、これ、どう、ですか?」
二人の会話はじいっと聞いていたマコットが一枚の紙を見せてくる。
「え、と……レイル魔導具コンテスト?」
「! これは……来月の?」
カインとグレンが紙に向けていた視線をマコットに動かすと、マコットはたどたどしくも必死に説明しようとする。
「ははははははい! ららら来月にですね、レイルの街で魔導具コンテストがあるんです。レイルの街は魔導具文化が盛んなので、こういうものが行われていまして、あああああの、魔導具工房だけでなく、パーティーの魔工技師や技術者で出ることもありまして……」
「そう、だね……」
「出たいんじゃねえの、カインさん」
その言葉にハッとカインはグレンの方を向くとグレンは優しそうに微笑んでいた。
「カインさんは、魔工技師なんだ。こういう場出たいだろ? 戦闘職の俺らに気を使う必要はねえよ。それより、カインさんのかっこいいところ見せてくれよ……多分、アイツらはそれ見たら満足するから」
グレンは最後にはため息交じりになりながらもカインへのエールを送る。
「ありがとう、グレン。よし、出て、みよう。レイル魔導具コンテスト」
「ぷふー!! もうお腹いっぱいだ! シェフを呼べ!」
目を輝かせながら立ち上がったカインの傍らで目をつむりながら満足そうに膨らんだお腹を上に向け寝転がるラッタがいた。