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四部7話 親切おにいさんはコンテストに応募しましたとさ

「レイル魔導具コンテストに、あのたす……失礼しましたカイン様が出場なされるのですか?」


 魔導具コンテストの受付所となっている建物の中で褐色肌の灰色髪の担当者が少し目を見開く。


「え、ええ……ダメ、です、かね」

「あ、いえ……ダメ、というわけでなく、いえ、むしろ、有難いです。カイン様のような優れた魔工技師であり、街の人気者が出場されることは。非常に盛り上がるでしょうし、ただ、あと一か月に迫っているのですが、大丈夫ですか?」

「あ、まあ……そのあたりも覚悟、の上で、やってみよう、と……」


 コンテストに挑むにはギリギリの申し込みに担当の女性は心配そうにカインを見たが、カインは苦笑いを浮かべながらも参加の意思を見せる。

 後ろで申し訳なさそうな顔を浮かべながら立っているマコットが勇気を出して誘ってくれたのだ。出来る限り答えたい。

 なんせただでさえ、【小さな手】のパーティーの女性陣の願いは叶えているし、叶える予定なのだ。男性陣も先日の飲み会だけというのはカインとしても申し訳なかった。

 それに、魔工技師としてやはりコンテストは血が滾るものがある。


「わかりました! よろしくお願いいたします! では、レイル魔導具コンテストの内容を説明させていただきます。コンテストは物語の『夜の姫』になぞらえた五つの魔導具を作成し競っていただきます」


『夜の姫』

大地を割り現れた小さな塔に住む地の底の国の姫君が地上の国で暮らすという物語。

美しい姫君には多くの求婚者が現れた。

姫は彼らに対し、伝説の五つの遺物のような誰も手に入れることの出来ないような素晴らしい宝物を持って現れた勇者と結婚すると宣言する。

しかし、伝説の遺物を手に入れるには困難を極め、誰も達成することが出来なかった。

そんな時、一人の男が現れ、誰も聞いたことのないような物語を聞かせる。

「これはなんという宝物」と姫は笑い、男と一緒になることを決める。

しかし、地の底の国の王はそれを認めず、姫を連れ戻そうと大勢の兵を連れて地上へ現れようとする。

それを聞きつけた姫は、身を引き地の底の国へと泣きながら帰っていく。

語り部の男は、姫を追って、地の底の国に向かい、多くの試練を乗り越え、姫と結ばれる。


 そんな物語だったとカインは記憶していた。


「夜の姫が例として挙げた五つの伝説の遺物、火虎の衣、神亀の器、蓬莱樹の枝、不死鳥の貝殻、そして、竜の宝玉。これらをテーマにした魔導具を作成していただくことになります」


 担当の女性による話を纏めるとこうだ。


 まず、予選として『火虎の衣』。

 これは、一年中火が燃え盛る山に棲む虎の皮で出来た衣で、どんなに偉大な魔法使いの放つ炎でも燃やせないらしい。

 そこで、魔法に対する防御力の高い衣を作れるかどうかで魔導具製作者達を振るいに掛けるということだった。


 そして、続いて。

 『神亀の器』と『不死鳥の貝殻』。

 神に仕える亀の甲羅を用いて作られた水が枯れることなく湧き続ける器、神亀の器。

 そして、本来ありえない『鳥の貝』という矛盾を成立させた奇跡を起こす遺物、不死鳥の貝殻。

 これらをテーマに『人々の生活が潤う魔導具』、そして、『最新の技術を用いた奇跡のような魔導具』を作り出す。


 ここまでで八組に絞られた魔導具製作パーティーが次に挑むのは『竜の宝玉』。

 竜の首に生えていると言われる玉を取り出すのは強者の証。

 開発した魔導具による実戦形式のトーナメント戦だそうだ。


「こういうのがどうしても盛り上がってしまうので……」


 と、担当者は困ったように笑っていた。

 戦闘や大会というのは嫌でも盛り上がる。

 魔導具コンテストで実戦形式というのも首を傾げたくなるが、欠かせない要素なのだろう。


 そして、最後に勝ち上がった一組は、夜の姫(コンテスト主催者が決めた女性が務める)に『蓬莱樹の枝』を贈る。

 七色に輝くと言われるほどの美しいその遺物になぞらえて、美しさに重きを置いた魔導具を捧げるというものでこれは終わり美しければ全てよしというコンテスト側の思惑でつけられたおまけのようなものらしい。




「なる、ほど……これは、結構、大変、そうだね」

「すすすすすすみません、やややはりもっと早くにお伝えしていれば……ほかの組はもう既に製作を始めていますし、お題は毎年同じのようなのでずっと準備をしているところもあるかもしれません」


 食堂の一角でカインとマコットは机を挟んで、魔導具コンテストの内容を振り返りながら打ち合わせをしていた。

 マコットは、ギリギリになって申し出たことをひたすら謝り続けている。


「まあ、大丈夫、だよ。負けて死ぬわけじゃないし……それに、一か月も、ある、から。最善を、尽くそう」

「はははははははい!」

「大丈夫ですわ! カイン様なら!」


 ぎょっと声の方を振り向くと、ふわりとした金色の髪の間からあどけなくも美しい顔が見えている。その顔にカインは覚えがある。


「ルゥナ、様……?」

「はい! ルゥナです! お会いしとうございました! カイン様!」


ルゥナはカインが自身の名を呼んでくれたことに目を輝かせ、言葉の勢いとは裏腹にそっとカインの手を握り微笑んでいる。


「い、いつの間に……」

「うふ……カイン様を驚かせたくて、静かにそーっと。それより、カイン様、今年のコンテスト参加されるんですよね? ぜひとも優勝してくださいまし。でないと、わたし……」

「はっはっは! ルゥナ様! そんな冴えない魔工技師に何が出来るとおっしゃるのでおじゃるか!」


 食堂の入り口で扇で口元を隠しながらも大声で笑う五人の貴族がいた。


「貴女の心を手に入れるのは麿達、魔導具王子『五プリンス』でおじゃる!」

「ご、ゴブリンズ?」

「「「「「五プリンス!!!!!」」」」」


 大声で反論する貴族達ときゃっとカインの腕を抱えながら助けを求めるルゥナを見ながらカインは面倒なことになりそうだと顔を引き攣らせた。

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