「お主は、マコトでおじゃらぬか、腰抜けのマコト!」
その言葉にマコットは身体を震わせる。
「マコット、知り、合い?」
「ほっほー! 国を飛び出したと聞いていたでおじゃるがこんなところにいたでおじゃるか!? 神獣様の元から逃げ出したお主がまだ魔導具に携わっておるとは……未練がましいでおじゃるなあ。……まさか! お主もコンテストに出るでおじゃるか!?」
「ああああああ、まままままままあ」
「ほっほっほ! 神獣様の使いに選ばれておきながら逃げ出した臆病者のお主が、麿達に勝てるとでも思っているでおじゃるか!?」
マコットの周りをぐるぐると回りながらカネモッチがねちねちと話しかけている。
「大体、ホウライの家を出たお主に何が出来るのでおじゃる~?」
「そうそう、兄上の言う通りでおじゃる」
弟であるイシヨワシがカネモッチの後をついていきながらネチネチと続く。
「逃げ出すという意志の弱さ。弱者弱者!」
イシシカアランが続く。
「まあ、マコトが雑魚であることは変わらんでおじゃるなあ」
オトモイも少し離れながらも続いていく。
結果、四人が縦一列に並んでマコトの周りをぐるぐる回る。
「マコトよ、お主は弱い、そして……強い」
「どっちでおじゃる!」
カネモッチが後ろにいるであろうアーヴェの方を向くとついてきたイシヨワシ達がぶつかってきて玉突きのようになる。
バタバタと倒れていく四人の皇子を見て、カインは心から困惑した目で見つめる。
「み、皆の衆、大丈夫か!? ざまあみろ!」
「「「「どっちでおじゃる!?」」」」
「アーヴェよ、支離滅裂なこと言うな!」
「あやつはいつもあべこべで面倒でおじゃる!」
「理解不能でおじゃる……」
「ぬぐぐぐ! そんなことより早く離れるでおじゃる!」
リーダーであるカネモッチの細長い顔以外ぺちゃんこになっていることに気づき、慌ててイシヨワシ達が下敷きにしているカネモッチから離れ、肩をかしなんとか立たせる。
「ほっほっほ! まあ、よい……良いハンデでおじゃる。良いか、よく聞け、マコット、そして、そこのいとわろし」
「わ、わろ、し?」
カインは自分のことを謎の言葉で表現され首を傾げる。
しかし、そんな様子を気にも留めずカネモッチは話し続ける。
「魔導具作りに必要なものは何か分かるでおじゃるか? 実力、人脈、そして、金でおじゃる。そして、お主ら貧しきものには手に入れられぬものばかりでおじゃる」
カネモッチの言うことは間違ってはいない。
魔導具作りにおいて、素材を集めるための金と人脈は必要だ。
そして、貴族ともなれば圧倒的にその二つが有利となる。
「故に! ルゥナ様を娶るのはこの麿じゃ! ほ~ほっほっほ!」
その様子をルゥナはカインに縋りながら見つめていた。
カインはその理由を理解しかねていた。
このコンテストで、最終審査の『蓬莱樹の枝』は余興のようなものだが、ある意味『最後の手段』として主催者側が使うことも出来る切り札でもあるのだ。
要は、夜の姫役の女性が納得しなければいいのだ。
何かといちゃもんを付けて拒否してしまえばいい。
優勝者の席を空席にしてしまえばよいのだ。
勿論、大会自体は盛り下がるかもしれないが、どうしてもの時は使ってしまえばいい。
賢いルゥナが、そして、ルマンがそれに気づいていないはずがないとカインは思うのだが、何故かルゥナは怯えてこちらに縋ってくる。
(まあ、あとで教えてあげればいいか)
ルゥナがコンテストの賞品で本人の望まぬ相手に嫁がずに済む方法、それが分かっているからカインは、そこまで焦ってはいなかった。
焦ってはいなかった。
けれど、マコットを馬鹿にするその態度だけは許せなかった。
「勝ちます、よ。俺達が」
カインらしからぬ言葉に、マコットは滝のような汗を流しながら、ルゥナは満点の夜空のように瞳を輝かせながらカインを見た。
「ほっほう~、麿達に、勝つ、というのか? 貧しきお主が」
「はい」
「ほ……ほっほっほ~う、お主ら如きの力でか」
「はい」
「ほっほっほっほっほ~う! おかし! いとおかし! よかろう! コンテストで這いつくばる姿を見せることになるじゃろうが、覚悟するがよいでおじゃる!」
「かかかかかか、覚悟するのは……お前ら、だ……!」
カインが横を見ると、尋常なくブレながらマコットが拳を握りしめていた。
「かかかかカインさんと、ボクがいれば、お前らなんて、ててててて敵じゃない!」
「あいわかったでおじゃる! かかかかかいんとやらと腰抜けのマコト、お主らの挑戦受けてたつでおじゃる!」
「あ、の……お、俺は……」
「かかかかかいん! 今更許しを請うつもりか!? ならぬならぬ! 背中の傷、逃げ傷はもののふの恥でおじゃる! この腰抜けが! 腰抜け! 腰抜け!」
興奮がコントロールできなくなったのか真っ赤な顔でカネモッチはマコットに対し声を荒げ続ける。それに感化されてかほかの皇子達もマコットを取り囲もうと近づいてくる。
カインも流石に腹が立ってきて、カネモッチを止めようと動こうとしたその瞬間。
「腰ぬ……ぬぬぬ?」
白く美しい羽根が酒場で舞っていた。
その美しさに誰もが見惚れ、ぼうっと眺めていた。
いや、正確には一人を除いて。
「ありがとう、久しぶり、クグイ。助かった、よ」
「全く……君は僕の事ならなんでもお見通しだな。どういたしまして。さあ、カイン、あの時君が助けてくれたクグイだよ。結婚しよう」
「うん、しない」
酒場の入り口で白く輝く宝玉を手に持った銀髪の美しく白い肌の美青年が柔らかく微笑みながら立っていた。