クグイ=スワンバルド。
奴隷街と呼ばれる街の中でも評判の家に灰色髪の少年がいた。
自分とは違い金髪の白い肌の美しい美少年たちが貰われていく中で一人売れ残っていた。
とある事件を切欠に街を脱走した少年は、助けを求め彷徨い続けた。
しかし、助けられることなく、汚れやせ細り傷つき、死を求め、【騎士の街】を訪れる。
そこで、【白鳥騎士】と呼ばれる男に命を奪われる瞬間に、黒髪のぼーっとした男に助けられる。
そして、黒髪の男の口添えによって【騎士団】に入団、その後、美しく成長し【白鳥騎士】の養子に。魔工技師と騎士という二刀流、しかも、騎士の剣技は【白鳥騎士団】、魔工技師の技術は【金熊の工房】で鍛えられた技術による【魔導騎士】という二つ名で大陸に名を轟かせる。
「何故……! 何故、結婚してくれないんだ?! カイン!」
美しい銀髪を振り乱しながらクグイがカインに迫る。
カインは口に当てていた手を離し、クグイに困ったような笑顔を向けて口を開く。
「え、と……まだ、クグイと結婚したい、と思って、ない、から、かな」
カインのその言葉に美しく歪むという矛盾のような顔でこわばっていたクグイの顔がぱあっと明るく見た女性が気絶しそうな美しさで輝く。
「クグイ様、もう到着なされたのですね」
ルゥナが小さくため息を吐きながら顔を押し当てていた背中から離れ、クグイに近づく。
「勿論さ! カインに会えると聞いていてもたってもいられなくてね」
「クグイ様が来られると街が混乱するのです。供の方たちは?」
「カインに会いたいとみんな言うからね。カインに迷惑をかけてはと。彼らを撒いて僕一人で来たのさ」
ルゥナが今度はあからさまな大きなため息を吐いて、クグイに迫る。
「あなたが! 会いに来る必要はなかったでしょう!?」
「ある! 僕のカイン分が切れそうだったのさ!」
カイン分って……? とカインが首を傾げていると、後ろからマコットがぼそりと呟いてくる。
「あああああああの、カインさん……あの人たちどうしましょう?」
マコットの視線の先には固まってしまっているカネモッチ達がいた。
「……ふっふっふ~、其方は噂に聞く今年の審査員の一人【魔導騎士】殿でおじゃるな。よろしくでおじゃる」
「ああ、はい……」
あからさまに興味がない様子でクグイがちらりとだけカネモッチを見て、差し出した手は無視している。
「貴様! 兄上が差し出した手を無視するとは!」
イシヨワシが顔を真っ赤にしてクグイに掴みかかる。
が、
「ほれ?」
気づけば、イシヨワシは床に寝転がっていた。
何が起きたか分からず目をぱちくり瞬かせている。
「貴様、イシヨワシ様に何を!?」
「アイツはかまわないでおじゃるが我が国が舐められたままでは困るでおじゃる」
イシシカアランとオトモイが両側から襲い掛かるが、くるりとクグイが回ると、二人は頭をお互いにぶつけ目を回す。
「おのれ~、許せぬ!」
アーヴェは何もしていなかったが床に横になっていた。
「ふう、全てが美しくないね」
「な、なに!?」
「所作、戦い方、口調、そして、何より魔導具への理解。僕の使った魔導具が何かを全く理解していなかったようだ」
クグイは酒場の入り口に立っていた時に手に持っていた白い宝玉を懐から取り出す。
「そ、それは……?」
「ふむ……マコット君、だったかな? わかるかい?」
「ええええええと、それは【魔光球】、だと思います。表面に刻まれた羽の模様と先ほどの効果から『天国』の【魔光球】かと。光属性持ちのみが使用できる魔導具で、【金熊の工房】のものですね。効果は、光の羽を生み出し、大気を揺るがせ舞わせます。舞った羽は視覚、触覚、嗅覚、聴覚を狂わせます。長時間見たり嗅いだりするほど効果があります」
マコットがいつもの『得意分野饒舌』で語り終えると、クグイは満足そうに笑う。
「うん、いいね。好きな気持ちが溢れている。美しいよ……さて、君たちは、美しくないね。カインの作ったこの魔導具を知らないうえに、今もぽけーっと聞いている。実に美しくない。【金熊の工房】の【魔光球】『天国』。マニアなら家一軒分くらいの金を積んでも買いたがる代物だよ」
「な!?」
カネモッチが目を見開く。
それは家一軒の価値のある魔導具に対する驚きではなく、そんな玉一個如きでという疑いにもにた声だった。
「そして、何よりこの魔導具は僕を思ってカインが作ってくれた特別なもの。何から何まで美しい! ……しかし、君たちは、本当に魔工技師なのかい? コンテストにこれから出ようという人間、しかも、前回優勝者にしては随分と浅い知識のようだけど」
「く……! ちょ、ちょっとど忘れしていただけでおじゃる! しかも! ただちょっと感覚をおかしくするだけの魔導具など……こっちにはさいみ……!」
カネモッチが顔を真っ赤にして叫んでいるところにイシヨワシが遮るように前に出てくる。
「さ、さい、さいきん、最近! 我々が生み出した魔導具のほうが素晴らしいでおじゃるよ! コンテストまで首を洗って待っているでおじゃる!」
いろんなものにぶつかりながら五人の皇子達は慌てて酒場を後にする。
その背中には
『ゴブリン1号』等と魔字で刻まれていた。
「あっはっは! 君も時々お茶目だね。カイン、そんなところもかわいいよ」
クグイが振り返ると、カインが鍵盤を片付けながら笑っていた。
「マコットが、あれ、だけ、馬鹿にされたから、ね。ちょっとだけ」
「かかかかカインさん!?」
カインが鍵盤を使って彼らの衣装に術式を刻むわけでなく魔字を刻んだのだ。
接続し入力したわけでなく、ただ単に魔力で刻まれた魔字は一定の時間が経てば消えてしまう。時々魔工技師同士で悪戯等に使われる遊びのようなものだ。
けれど、その心意気がマコットにはうれしくカインを見つめる目にも力が入る。
「マコット……」
「ははははははい!」
「勝とう」
「…………はい!」
カインが小さく握った拳をマコットに見せながら微笑む。
マコットも身体を震わせながら大きく頷き拳を握る。
「ええ、勝ちましょう! カイン様! そして、勝ち取ってくださいまし! わたしを!」
「僕でもいいよ! カイン!」
「二人、とも……勿論、大丈夫、だとは思います、が審査は、公平、に」
カインの腕にすがりつきながらルゥナがすり寄ってくる。逆からクグイが迫る。
カインは苦笑いを浮かべながらも、コンテストの為の術式を頭の中で組み立て始めていた。