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四部21話 魔導具の大会がはじまりましたとさ

レイルの街の中心部から少しずれたところに位置する広い建物がある。

普段はなかなか使用されないにも関わらず立て壊されないその建物は、ほぼある目的の為だけに存在する。

それがレイルの街で年に一度行われ、近隣の国からさえも足を運ぶ人間がいるという魔導具のコンテストだ。


その建物の名は【月の器】。

親馬鹿領主が娘の為に魔導具コンテストを開催し、娘の名を意味する建物を作ったのだ。


その【月の器】をカイン達は並んで見上げていた。


「普段も見てはいましたが今から此処に見られる側として参加するんですね……」

「マチネ、大丈、夫?」

「大丈夫ではないですぅ! だって、私数か月前までマッチ売ってるだけの子だったんですよ! で、でも! お兄様の為にがんばります!」

「マコット、は……?」

「だだだだだだだだだあああああ!」

「……ココル、は?」

「カイン様分が不足しているので、ここでの供給を求めます」

「大丈夫、だね。よし、行こう」


カインが全体的に無視をして進もうとすると、


「ほ~ほっほっほ! そんなザマで麿達に勝てるのでおじゃるか!?」


カインが全体的に無視して進もうとすると回り込んできた。


「赤の皇子! カネモッチ・ヌ・ミーゴォ!」

「青の皇子! イショワシ・ヌ・ミーゴォ!」

「黄の皇子! アーヴェ・ヌ・コーベォ!」

「黒の皇子! オトモイ・ヌ・ボーチ!」

「白の皇子! イシシカアラン・ヌ・マダタリ」


「「「「「五人合わせて、五プリンス!!!!!」」」」」

「今日、は、よろしくお願い、します」

「ほ……ほっほ~う、飽くまで流すつもりでおじゃるか? まあよい! 精々麿達の踏み台となるがいいでおじゃるよ!」

「さあ、踏むがいいでおじゃる!」


カネモッチは我先にと会場へ行こうと踏み出したその先に棒のような体で仰向けに寝転んだアーヴェが居て驚き飛び退く。


「お主ではないでおじゃる! アーヴェ、お主はもう麿達としゃべるでない! アッチとしゃべっておれ!」


カネモッチがカイン達を指し示すとアーヴェはふっとニヒルな笑いを浮かべながら服の胸をはたきながら立ち上がる。


「あの、背中を、はたいた、方が」

「それもまた真なり……だが断る!」


アーヴェが目を見開き叫ぶ。だが、思い切り背中を見せている。


「な、なんなんですかあ、この人」

「こここここの人、いうことやることあべこべなんだよ。気にしたら負けだから」


マチネが恐怖と怒りを入り混じらせた表情でアーヴェを見る。

そして、マコットはそんなマチネを諫めながら迷惑そうな目でアーヴェを見る。


「見るな!」


と、いいながらアーヴェは大の字に身体を開く。


「殴っていいですか?!」

「だだだだだめ! 一応」

「ふっふっふ、予選だけでも勝ち上がれるとよいでおじゃるがなあ。まあ、精々火傷せぬようにな!」


予選の課題は『火虎の衣』

コンテスト側が用意した火の魔法を防げたものだけが本選に進める。

火傷をするということはすなわち負けということ。

その言葉に、苛立ち隠せないマチネが何かを言い返そうとした瞬間、アーヴェの手が伸びる。


「な……!」


アーヴェは、マチネが何か抵抗する間も与えず、両手で……マチネの手を強く握り、まるで励ましのエールを送るかのような視線を向けた。

そして、そのエールはマコットにも送られた。

ココルは何故かカインの両手をアーヴェよりも早く握っていた。

そして、アーヴェも何故かサムズアップしていた。


「あああああああ! 何この空間! 頭おかしくなりそう!」

「かかかかか考えちゃだめだ! 考えちゃだめだ!」

「ほっほっほ! 予選課題を一位評価で通過するのは麿! アーヴェ・ヌ・コーベォでおじゃるよ! さらば!」


と、アーヴェは叫びながら、その場に座り込んで朝食を食べ始めた。


「あああああああ!」


会場前で絶叫するマチネを見かけた孤児院の子供たちは知らない人のふりをしていた。


「ああああああああっ!」


予選が始まった。

そして、アーヴェは燃えていた。

精神的なものではなく物理的に。

それは一瞬だった。


「ほんとなんなんですか!? あの人!」


虎を模した仰々しい鎧で細長い体を包み込み、自信満々で出てきたアーヴェだったが、箸にも棒にも引っかからないとはこのこと、紙切れのように燃えた。


「あああああああっ!」


そして、運ばれていった。


「かかかかか考えちゃだめだ、考えちゃだめだ」


ただ、今回は、ルゥナがある意味賞品ということで参加者が多い為、かなり落としたいのであろう。前回大会よりも厳しい火力らしい。


「マチネ、大丈、夫?」

「……ふう~、大丈夫です。カインお兄様。幸か不幸かあの棒人間のお陰で、緊張はなくなりました。あとは、みんなで作ったこれを信じるだけです」


そういってマチネは橙に黒の虎柄が入ったマントを取り出す。


「じゃあ、行ってきます……! ……【小さな手】です! お願いします!」

「おう、身内だからって手加減はしねえからな」


マチネがマントを構える先には手から出した炎の玉で遊ぶ赤鬼、グレンが居た。

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