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四部22話 もえる少女はがんばりましたとさ

魔導具コンテスト予選課題『火虎の衣』。


毎回このコンテストの予選では火の魔法筒で審査を行っていた。

しかし、今年は参加者が多い為火の魔法筒以上の威力が欲しい。

そう大会主催の一人であるルマンが言い出した。

決して娘を誰にもやりたくないからではないと付け加えるルマンに疑いの目は向けられたが、今回の参加者の数を考えて予選でかなりの数を落としたいのは事実だった。

そこで白羽の矢がたったのが、凄腕の炎を使う魔法使い、グレンだった。


グレンは、指名依頼の上、カイン達の魔導具と本気ではないにせよ勝負できることに二つ返事で了承した。


一言で言えば、グレンの火魔法は、蹂躙した。

指定された火球ファイアボール魔法筒マジックチューブの威力の1.5倍の火球を安定して放ち続けたが、昨年と同じ想定の出場者たちはどんどんと燃えていった。

魔法を防ぐ魔導具というお題ではあるが、毎年恒例で火魔法ということもあり、火魔法防御特化で臨んだものたちでさえも防ぎきれず火傷、失格となっていった。

しかし、流石他国からも参加者がいる魔導具コンテスト、そんな中で通過する組も勿論いた。


「赤のゴブリンズ、どうぞ!」

「ゴブリンズではない! 赤の五プリンスでおじゃる! ゆけ! ハウンド!」

「へいへいっと」


カインたちとひと悶着あったという貴族がやってくる。

だが、本人が代表として立つわけではなく、身体のがっしりした浅黒い肌のニヤニヤした男が前に出てくる。


「えー、赤のゴブリンズ、ハウンドおねがいしまーす」

「五プリンスでおじゃる!」


ハウンドと名乗った男は恐らく雇われたものなのだろう。

奥でぎゃーすか騒ぐ貴族とは纏う空気が違う。

グレンは、ハウンドが来ている服を見る。


真っ黒。

表現としてはこう表現するしかない。

奥にいる貴族の服に形状は似ているが、禍々しい何かを感じさせるその服をハウンドは見せつけるように両手を広げた。


「魔導具『黒渦くろうず』があんたの火球に耐えて見せるぜ。ああ、胴体に頼むぜ」

「……わかった」


ハウンドが顔の前で腕を交差させ防御の構えをとる。

グレンは、合図をし、火球を放つ。

そして、胴体ど真ん中に叩きつけられた火球はどろりと溶けるように消えていった。


「あっち……あぶねえあぶねえ」


ハウンドはニヤニヤ顔のまま、黒渦と呼んだ服をはたいている。


「お見事! では、赤のゴブリンズ説明を」


コンテストのスタッフがカネモッチに対し説明を求める。

コンテストではクリアした魔導具の説明をメンバーが紹介することが出来る。

これによって、興味を持った貴族や商人がコンテスト後個別に商談に持っていくことがあり、かなり重要なものになっている。


「えーと、そのーでおじゃるが……」

「あーあー、主の代わりにおれが……えー、この黒渦は、闇と水の複合魔導具でして、黒犬の工房との共同開発で……」


黒犬の工房の名前が出たことで、会場がざわつく。

黒犬の工房は大陸にある魔導具工房の中でもトップクラス。

そことの共同開発ということで注目が集まる。

悪名も含めて有名な黒犬の工房が話題の中心となる。


そして、その後同じゴブリンズと呼ばれた組が次々と予選を突破していく。

同じように黒犬の工房との共同開発ということで、圧倒的な魔法防御力を見せつけていた。

ただ、黄のゴブリンズだけは盛大に燃えていた。


「だから、何故自分の魔導具を使ってでおじゃるか!」


カネモッチが怒り叫んでいるが、燃えている棒のように細いアーヴェという男はサムズアップして答えていた。


そして、最後の挑戦者がやってくる。

赤髪の少女がマントを身に着けてやってくる。


「【小さな手】です! よろしくおねがいします!」


グレンはその少女のことをよく知っていた。

ある街でカインが救ったマッチを売っていた少女。

カインに誘われあのたす孤児院で暮らすようになった少女。

カインをお兄様と呼び、魔工技師を目指す少女。

自由な発想で今グレンの背中にある炎の大盾『シュテン』を開発した少女。

そして、それを認められこのコンテスト限定ではあるが【小さな手】を名乗ることを許された少女。


マチネ。


(ジャニィやラギは悔しがっただろうな)


グレンはあのたす孤児院の生意気な男の子達を思い出して少し笑う。

グレンはマチネのことを認めていた。

彼女のその努力は小さな手の誰もが認めるほどだった。

だが、だからこそ、遠慮はしない。

グレンは合図を出し、詠唱を始める。

マチネはちらりとカインの方を見遣り、頷くカインを見て少し笑い、マントを広げ構える。


「行くぜ〈火球ファイアボール〉」


グレンの火球が真っすぐにマチネのマントに向かって飛んでいく。

そして、その真っ赤な炎は、マントにぶつかった瞬間、大きく輝き、そして……消えた。


「……合格、だな」


グレンはニヤリと笑い、コンテストスタッフに話しかける。

スタッフも大きく頷き、予選突破を宣言する。


「おめでとうございます! では、この魔導具の説明を……どなたか」

「私が説明させていただきます。まず、私たちは火虎という伝説上の生き物について調べました。そして、ある書物で火虎の子孫ではないかと書かれている火吹きレッドタイガーにヒントがあると考え調べ考察しました」


本を掲げながらマチネは続ける。


「この本によると火吹き虎は額からお尻にかけて太く大きい赤黒い一本の線が通り、そこから枝分かれするように縞模様が広がり、手足まで伸びているそうです。これに何か理由があるのではと考え、作ったのがこのマントです」


マチネは会場全員が見えるよう、マントを広げ、くるりと回って見せる。


「このマントに描かれた模様は火吹き虎の模様を参考にしています、ただの模様ではなく、魔力の〔吸収〕〔移動〕〔変換〕を行います。この中心の円で吸収を行い四方に移動、そして、模様に沿って枝分かれし、変換されていきます。そして、模様のない部分が〔魔力保存〕を行い、受けた魔法の魔力を約六割程度保存することが出来ます。そして、」

「既存のものの十倍以上の威力の魔法でも受け止められそう、だね」


会場の小高い所でほかの審査員と並んで予選を見守っていたクグイが声をかける。

マチネは満面の笑みで頷く。


「その通りです」


魔法吸収の布や盾などは存在しているが、あまり使われることがない。

理由は簡単で、『魔力を吸収しきれない』からだ。


「魔法吸収の防具の最大の問題は、瞬間吸収力です。花が一度に一気に水を吸えないように、高密度の魔法の場合、吸収しきれないことが多く、場合によっては破壊される場合もあります。ですが、この布は魔法吸収したそばから分散させ、虎柄の模様に沿って変換・吸収・保存が行われるのです。そして、保存部分には〔障壁〕の術式も設置されているので……」


マチネが広げて魔力を込めて作動させると、炎のカーテンが目の前に広がる。


「このようにほぼ同等の魔力量の障壁を作り出せます。属性特化型ではありますが、〔障壁〕による物理防御も出来ることで、防御に優れた魔導具であり、伝説の火虎の描写にも限りなく近いものと自信をもって言えます」

「すごいね……そして、課題に対するリスペクトも含め、文句なしだ。ねえ、皆さん?」


無名の幼い赤髪の少女であることが審査員に様々な表情を浮かべさせたが反論するものは勿論いなかった。


「予選一位は、【小さな手】!」


会場に大きな拍手が鳴り響く。

マチネは、くるくる回りながら観客にお辞儀し続ける。

その観客の中には同じ孤児院のジャニィやラギが盛大な拍手を送っていたのをマチネは見て微笑んだ。

そして、一通りお辞儀し終わった後、マチネは彼の方を向く。

自分を救ってくれた、夢をくれた、火をともしてくれた彼を。

彼は、笑っていた。

マチネは、その笑顔を見て、彼女の髪と同じくらい顔を真っ赤にし、そして、笑った。


その後、本選開始まで商人や貴族、同業の魔工技師に詰め寄られ別の意味で顔を真っ赤にしながら対応するマチネ、そして、それを守る様に立つ孤児院の子供たちが予選の話題の中心となったのだった。

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