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四部23話 もりあげ娘さんが大いに盛り上げましたとさ

「レイル魔導具コンテスト! 本っ選っ! 再っ開っ!」


大歓声の中、コンテスト会場『月の器』のど真ん中に一人女性が立っている。

〔拡声〕の魔導具を使って会場を盛り上げる彼女は、桃色の衣装に身を包み、三百六十度全員に手を振り応えている。


「ありがとうございますっ! 引き続き、本選の司会は、わたくしっ! モモ=リアゲイルでっす! よろしくおねがいしまっす!」


彼女の声に会場は更に熱を帯びていく。

それもそのはず、彼女は、街を転々とし歌を歌う『吟遊詩人』でありながら、その声、歌は聞く者の闘志を高め必ず勝利に導くといわれる引っ張りだこの冒険者なのだ。

それだけ忙しい彼女が司会として登場するという噂がこのコンテストを更に盛り上げた。


「さあっ! では、本選、不死鳥の貝殻の部後半戦スタートですっ! の! 前にっ! 改めて説明させていただきますっ! 本選はまず二つの部で競っていただきます! 一つは『生活を潤す魔導具』を課題とした~?」

「『神亀の器』の部!」

「もう一つは『最新技術を駆使した魔導具』を課題とした~?」

「『不死鳥の貝殻』の部!」

「は~い! ありがと~っ!」


モモが問いかけると、会場の桃色の集団を中心に大声で答える。

彼らはモモ親衛隊と名乗り、転々とするモモを見守り続けているらしい。


「その両部門の総合点が高い八組が「竜の頸の玉」の部! 魔導具を使った対戦式トーナメントに参加できますっ! では、その厳正なる審査をしてくださる審査員の方々を改めてっご紹介っ!」


モモが会場の小高い場所に座っている四人を指し示す。


「まずは、魔工技師の最高峰っ! 【金熊の工房】所属【魔導騎士】クグイ=スワンバルド! そして、【鵞鳥の魔女】より森人族ドルイドのダム! レイルの街領主、ルマン=ジェント! そして、不死鳥の貝殻部門特別審査員! インフ=レンサー!」


モモの紹介に合わせて、クグイは美しい笑顔を振りまき、ダムは静かに頭を下げ、ルマンは観衆に応えるように手を振り、そして、


「うわああ! 超盛り上がっててバエ~!」


薄紫のぴっちりしたワンピースを身に着けた小柄な少女が観衆に向かって両手を振って笑いかける。


「インフ=レンサーさんは、現在、レンサー商会の会長として大活躍! このレイルの街では『あのたす』という言葉が流行っているのですが、王都周辺では『バカみたいにエエ~!』略して『バエ~』が流行! 『バエ~』な商品は常にヒット! その先見の明は、あの『メメ=ヌトーモリ』の再来と呼ばれております! 各審査員10ポイント、特別審査員20ポイント計50ポイントの審査となります! 皆様よろしくお願いいたしますっ! さあ、そして、現在は、第一部不死鳥の貝殻の部での審査を半分終えたとこです! 前半戦の上位四名はこちらっ!」


モモが力強く指し示す先に、四組の参加チームが並んでいる。


「一位は前回覇者っ! 今回も圧倒的得点を得ました! カネモッチ・ヌ・ミーゴォ率いる、赤のゴブリンズっ!」

「五プリンスでおじゃる!!!」

「そしてっ! 二位は、その弟イショワシ・ヌ・ミーゴォがリーダー! 青のゴブリンズ!」

「五プリンスでおじゃると言ってるでおじゃる!」


不死鳥の貝殻部門前半一位二位のミーゴォ兄弟がモモに嚙みついているが声が小さいのか届いていないようで、三位四位を発表していく。


「では! 後半戦っ! 始まりますっ!」

「みんな、最後の、確認を、しようか」

「はい!」


カインの声で【小さな手】チームは不死鳥の貝殻に出す魔導具の準備を始める。

予選の順が反映されており上位は後からの発表となる。

予選一位のカイン達は後半の最後、予選二位のカネモッチ組は前半最後の登場となった。

そして、後半戦最後から二番目、三番目は……。


「ふん、ここに来て調整か随分余裕でおじゃるなあ?」

「コンテストをなめるなあ! 熱が足りんでおじゃるよ!」


オトモイ・ヌ・ボーッチ組、そして、イシノミ・ヌ・マダタリ組であった。

もちろんカイン達はここに来て調整確認を始めたわけではなく、ずっとやり続けていた上での今なのだが、彼らは気づくことなくただ罵倒の言葉を並べる。


「まあ、精々予選一位の栄光を噛みしめておくがいいでおじゃる! おい! さぼるな! 最後までおぬし等は調整するでおじゃる! 全く、野良犬共が!」

「麿たちの情熱溢れる魔導具を見て、心おれぬようになあでおじゃる! はっはっは!」


二人が何も言わせないまま去っていく。

その背中を見てココルが立ち上がる。


「で、どちらから消しましょう」

「消しちゃ、駄目だから!」


カインが慌てて怒りのせいか無表情ながらとんでもない熱を放ち始めるココルを抑える。


「ココ、ル……? ココル!? まだ、熱くなって……!」

「あ、あの……カイン様、私としては吝かではありませんが、こんな公衆の面前で抱きしめられると……」


ココルを引き留めるため、腕を体に回し抱き着くような態勢になったことでココルの『カイン様分』が過剰摂取となり熱超過を起こしたらしい。

慌ててカインは離れる。


「だ、大丈夫? ココルが、この部門、説明するって話、だけど」

「ふーっ……! ふーっ……! 大丈夫です。お任せください。必ずや、カイン様に一位を。そして、彼らに地獄を」

「いや、いいから!」


カインの珍しいスムーズな突っ込みを受け無表情ではあるが満足そうに頷きココルは作業に戻る。


「さあっ! 後半戦もあとわずかっ! 次の組は、前半一位二位のミーゴォ家と同じく、黒犬との共同開発で参加! 黒のゴブリンズっ!」

「五プリンスってもういいでおじゃる。麿たちの魔導具はこれでおじゃる!」


オトモイが指し示すと、重そうな亀のような人形がのそのそと歩いてくる。


「これは?」

「これは、動くカメでおじゃる」


今年の不死鳥の貝殻部門、つまりは最新技術魔導具部門の流行は、動く人形であった。

それもそのはず、カイン達が発見した【遺物の工場】でのエーテは魔導具の世界に衝撃を与えた。そして、誰もがそのエーテに近いものを作るべく競い合った。

奪われてしまったが金熊が小さいながら魔導具人形を作り出し、より魔導具職人たちは盛り上がった。

それにより、ほとんどどの組も動く人形を発表していた。

カネモッチは犬の動く人形、イショワシはお茶くみ人形を発表し、前半一位二位を勝ち得ていた。


「動くカメっ! おおっ! 実際に今動いています! が、」

「みなまで言うなでおじゃる。前半一位のカネモッチに比べれば面白みに欠ける。そうでおじゃろう?」


カネモッチの動く犬人形は、審査員も唸らせた。


『四足歩行の人形としてここまでうまく動かせるとは、美しいね』

『犬、かわいい……』

『確かに、ここまで犬の動きを再現できるとは』

『バエ~!』


全員高評価の45点で会場を大いに盛り上げた。


「だが! このカメの真価はそこではない! 魔力注入を早くするでおじゃる愚図ども!」


オトモイが声を荒げ、オトモイのお供に指示を出す。

指示を出された男たちは、のろのろとカメ人形の近くに進み、魔力を注ぐ、すると甲羅の中から大砲が現れ天に向かって放つ。


「はっはっは! 見たか!! 甲羅はそんじょそこらの魔法では壊れぬ強度、そして、大砲を持つあるく兵器亀でおじゃる!」


オトモイはニヒルに笑い、審査員席を見る。

が、審査員達は、冷静な目でカメ人形を見ていた。


「人形としてもありきたりで、武器を搭載もありきたり、美しくないね」

「カメはかわいいが、あとはダメだ……」

「ふむ……まあ、あの鈍さはでは戦場では的になるだけだろうな」

「ナエ~(ナニソレ、エ~? の略)」


審査員の評価は人形がスムーズに動くことが加点となったが、32点という微妙な点数となった。


「な……なぜでおじゃる!」

「だから、言っただろうがよ。もっと違うところを見せた方がいいって、最後まで聞きやしねえ」

「何か言ったでおじゃるか!? 雇われの愚図のくせに!」

「へ~へ~、すみませんね。偉そうにしすぎてお供がいなくなった独りぼっち雇い主様よお」

「ぐぐぐ」


黒犬の工房の一員らしい男がオトモイに噛みついている。

オトモイは何も反論できず苛立ちをカメ人形にぶつける。


「こんのっ! いた~いでおじゃる!」


オトモイの拳は、自慢の甲羅に粉砕され、自慢の積載量だと黒犬の男が後で説明したそのカメ人形に背負われて医務室へと運ばれていくのであった。


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