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四部28話 くらいおにいさんは助けを求めましたとさ

魔導具コンテストの会場である『月の器』は今、正に最高潮といった盛り上がりを見せていた。

それもそのはず、魔導具コンテストの中でもほとんどの観衆がこれ目当てにやってきているといっても過言ではない『竜の頸の珠』トーナメントが始まるのだ。


様々な魔導具を紹介されたここまでも面白くはあったが専門的な面も強く、時々観衆が首をかしげることも多い。

そして、点数発表で高得点が出るととりあえず騒ぐという者達も一定数いる。


だが、『竜の頸の珠』はその点、非常にわかりやすい。


魔導具を用いた対戦トーナメントだからだ。

ただ、派手な戦闘や勝ち負けに一喜一憂すればいい。

今か今かと待ち構えている観衆の前に、司会モモ=リアゲイルが現れ大きく息を吸う。


「皆さんっ! お待たせしました! それでは、『竜玉戦』開始します!」


トーナメントの略称も既に観衆にはおなじみの言葉で大歓声が響き渡る。


「第一試合! 【小さな手】対【黒のゴブリンズ】っ!!」


円形の舞台を挟んで、【小さな手】と【黒のゴブリンズ】がにらみ合う。

が、【黒のゴブリンズ】として現れたのはオトモイ一人で会場がざわつく。


「あ、あのー、オトモイさん? ほかの面々は?」

「ふん! あの役立たず共はクビにしたでおじゃる! 麿の命令をこなせぬ使えぬ連中でおじゃった!」


オトモイは不機嫌そうに顔を顰め答える。


「あいつらのせいで全て狂ってしまったでおじゃるが、まあ、致し方ない。麿の才についてこられる者がいなかっただけのことでおじゃる」

「え、と……では、開始しますので、代表者中央へっ!」


大きくため息を吐くオトモイが魔導具を抱えながら憂鬱そうに舞台へと上がるが、対戦相手を見て目を見開く。


「お、お主が相手じゃと!? マコット!」


視線の先には震えながら舞台上に上がるマコットの姿が。

マコットは腕に巻かれた魔導具をしきりに触りながら上がってくる。


「ははははい、よろしくお願いします」

「ふ、は……そうかそうか! お主が相手か!? おぬしも可哀そうにのう! 無理やり引き吊り出されて! 聞いたぞ! 少し前までは部屋に籠って居続けたらしいではないか? そうか、このために、使われておるのじゃな? そうかそうか」


愉快そうに笑うオトモイが近づくとマコットは俯く。


「ああああああの……」

「んん? なんでおじゃる? まあまあ、折角舞台に出てきたのだ。棄権などするでないでおじゃるよ?」


オトモイは耳元で囁きながら中央に戻っていく。

マコットは震えが収まらないのかその場で立ちすくんでいる。


「やややややっぱり……」

「マコット!」


マコットが思わず振り向く。

そこには、【小さな手】の面々と一緒にマコットを見つめるカインがいた。


「カカカカインさん……!」

「ソイツ、を、信じて……」


マコットは、視線を落とし腕に巻かれたソイツを見る。

魔法筒マジックチューブのような形状の筒に細長い竜の身体が巻き付けられその先には竜の頭と上顎が二つ、筒を挟むようにくっついている。


廻龍砲カノン……!」


名付けたのはマコットだった。

そして、此処に立ちたいと言ったのも。


マコットは大きく息を吐き、吸い、顔を上げる。

そして、一歩震えながら踏み出した。


「ああああああ、マコットちゃん大丈夫かなあ?」


観客席にいるあのたす孤児院のウヅは心配そうにマコットを見つめている。


「ウヅちゃん、落ち着いて」

「でもでも! 心配だよ! マコットちゃん、喧嘩とか苦手なはずなのに。タルトねえちゃん、大丈夫なの!? 喧嘩してケガしない?」

「大丈夫なんですよ、『誓約』というものをしますから」

「せーやく?」

「あ、ほら、アレですよ」


首をかしげるウヅにタルトが舞台中央を指さす。


「ではっ! 両者! 誓約を!」


オトモイとマコットが誓約台に手をかざし魔力を送る。


『魔法とは世界の約束なのだ』と言った【千里眼の魔導士】が生み出した魔導具の一つがこの誓約台と黒い人形『献身的なシャドウ』だ。


この誓約台には二人が守るべき『約束』が術式と刻まれている。


簡単に言えば、


約束した空間で受けたダメージは全て誓約台の上に並んでいる黒い人形『献身的なシャドウ』が受ける。

一定量のダメージを受ければ『献身的なシャドウ』は破壊される。

ただし、痛みは幻痛として感じる。


という内容だった。


「つまり、自分の『献身的な影』が代わりになってくれてから戦う人たちは平気なのです! 魔法の力で怪我はしません。痛いのは痛いですけどね」

「へー! なんで?」

「なんで、なんでしょうね? ワタシも、それを知りたいんです……」


タルトは困ったように笑いながら舞台へと視線を戻す。


「それではっ! 戦闘開始っ!」


モモの掛け声と同時に二人は自身の魔導具に適切な距離をとる。

奇しくも二人とも距離をとる。

いや、魔工技師は基本的に距離をとる。魔導具を使用するには多少のタイムラグがあり、まず離れて準備を整える。

そうすると、当然そのまま攻撃出来る遠距離・中距離用魔導具を選ぶことが必然的に多くなる。


「喰らうでおじゃる……腰抜けよ! 石竜舟!」


オトモイは、肩に掛けていた細長い箱の中から石の礫を生み出し飛ばす。

舟のように細長く削られたそれらはマコット目掛けて飛んでいく。


「はっはっは! 見たか! これが麿の、麿が、一人で作った魔導具の威力よ!」


奥には笑うオトモイ、そして、こちらに向かってくる石の舟を見つめながら、マコットは腕に巻き付けた魔導具に魔力を込める。


「……放て、廻龍砲カノン


込められた魔力が魔導具の中で螺旋に進み、龍の頭に挟まれた口から強力な炎を吐き出される。


「え?」


炎は石の舟を呑み込みオトモイも包む。

そして、一瞬遅れバキィインという音と共に、オトモイの『献身的なシャドウ』が破壊される。


「ば、馬鹿な……でおじゃるぅううううう!」


オトモイの身体を幻の痛みが襲う。


「な、な、なんと……一瞬の出来事っ! 第一試合は、【小さな手】、正に瞬殺っ!」

「ここここの、魔導具は、僕やマチネさんのアイディアをカインさんが読み取りココルさんが再現してくれ【小さな手】のみんなが手伝ってくれたものです。あなたは、人を使う立場の人間なのかもしれません。でも、あなたが使ったのは言い訳のためにでしかない。逃げ道を作るために。もし、使うなら、力を借りるなら、前に進むためにすればよかったんです。僕は、それに気づけた。僕は、前に進みます。誰かの為に……って、ぼぼぼぼくの言葉を聞く耳なんて、どどどどうせ、ないんでしょうけど」

「いだあああああああああい! だ、だれかー!!!」


オトモイは痛みに泣き叫びながら助けを呼ぶ。

しかし、誰も近寄ることはない。オトモイがクビにしたのだ。


マコットも背を向け離れていく。

彼の向いた先には【小さな手】の、彼を前に進ませてくれた黒髪のぼおっとした男が彼を祝福する為に待ち構えていた。

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