トーナメントが終わり、最後の『蓬莱の珠の枝』部門が執り行われる。
恒例の夜の姫役はルゥナ。
珠の枝を渡すのは、カインだった。
(カイン様が……他の女性陣が反対するかと思ったのだけれど)
今回のコンテストの優勝賞品はルゥナだった。
勿論、副賞として様々な物が贈られているが、ルゥナを娶りたいと考えていた者は多かった。
なので、そんな状況でカインを狂信的に愛している【小さな手】の女性陣が、こうしてカインを送り出してくるのはルゥナにとって意外だった。
しかし、そんな小さな疑問はすぐに霧散する。
目の前には美しい光を放つ魔導具を持って微笑みながら近づくカインがいるのだから。
(ああ! あのたす!)
ルゥナがうっとりとほほを染めながら見つめると、カインは少し照れたように笑い、魔導具を渡す。
「これは……」
「俺達なりの、『蓬莱の珠の枝』、です」
それは四つの珠をつけた枝だった。
四つはそれぞれ異なる色で強く輝いている。
「綺麗……四つ、ということはやはりこれも……?」
「はい、
『龍の頸の珠』トーナメントで見せた
当然、トーナメント決勝後は魔工技師を中心に質問攻めにあった。
「まず、それは魔石で動くものなのか……?」
「はははははい! あ、ですが! 魔力を使用者が込めても発動します。何故ならば、『静なる靴』と同じく、〔流動〕の術式により魔力変換が滑らかになっているからです。ああああ飽くまで、魔石は補助的な役割です」
ダムの質問に、マコットがたどたどしくも答える。
「四大属性が美しく使える秘密は、螺旋状の龍、だね?」
クグイが目を輝かせながら【小さな手】に質問する。
「そう、です。螺旋はそれぞれ光と闇の術式経路で作られています。そして、龍の頭を上下変えることで、メイン経路が変わります。光経路であれば水・風、闇経路であれば火・土を。そして、サブ経路になった方は、操作・調整を担います」
「なるほど! 美しい! あえて、反発する魔力で操作させるわけか。しかし、それでは、魔力が落ちるの、で、は……」
クグイが何かに気づくようにハッと口元を押さえる。
すると、ココルがずいと胸をはって前に出てくる。
「そう、ここでもカイン様が作り出した〔流動〕の術式が活躍します。直接関わりあえば大きく摩擦を生む反発属性も間に〔流動〕が入ることで必要以上の抵抗とならないのです」
「つまり、火の攻撃を行おうとした場合、紫の龍の頭を上にし攻撃する属性を合わせます。続いて、火の魔力を注ぎます。メイン経路に合わせ魔力は、先ほどの魔力増幅と同じ方法で増幅、そして、通常の魔力強化も追加されます。一方、下になった黄色の頭は、紫の頭を通る魔力をコントロールする為に追いかけます。そして、龍の口から強力な火炎が暴発することなく放たれます」
ココルの言葉を追って、マチネが説明する。
「とんでもない代物だ……本当に世界が変わってしまうぞ。これは、量産可能なのか?」
「あ、い、いえ……ほとんど偶然の産物に近いので」
「そうか……なら、よいのか……」
ルマンが頭を抱えながら尋ねてくるが、カインはそれを苦笑しながら答える。
カインはうそを吐いた。
多少の時間はかかるが不可能ではなかった。
この魔導具に必要なのは、カインの丁寧な魔字刻印、ココルの緻密で正確な術式設置、そして、マコットの魔導具に入り込む力があれば、出来る。
ただし、その話をすれば、大陸中にココルやマコットの特異な部分が知られてしまう。
それは本人たちの望むものではなかった。
それぞれがカインの言葉に複雑な表情をしていたが、大きな拍手によって、空気が変わる。
「はっはっは! なんにしても見事だ! 【小さな手】よ。ひとまずは、最後の仕上げを終わらせて、宴で話を聞こうではないか!」
ヌルド王の一言で、場にいる人間がハッと姿勢を正し、すぐに『蓬莱の珠の枝』の式が行われることになった。
「この、枝にも先ほどの螺旋、を、組み込んでいます。それを、応用し、この、ように四大属性全てが、同時に独立して、一つの魔導具で発動することが出来る、のです。これが俺達が貴女に捧げる美しき魔導具、です」
カインが四色に輝く魔導具を渡す。
ルゥナはうっとりしたような目でカインを見つめながら、受け取る。
「カイン様、女に二言はございません。わたくしは貴方のものに……!」
「ルゥナ様、ありがとうございます。ですが、貴方は夜の姫。人々にとって、空に美しく輝く月のような存在。月を独り占めすることは出来ません。ですので、私達に光をお与えくださるだけで十分なのです」
「……え?」
(よ、よ、淀みなく言えた)
カインは魔導具を作る作業よりこのセリフの練習をココル、タルト、シア、レオナにずっとやらされていた。
セリフを考えたのは、ココルとシアだ。
【小さな手】のメンバーは、ルゥナがカインを求めていることを理解していた。
しかし、コンテストに出ることはカインの望み。邪魔するわけにはいかない。
ならば、円満に断る方法を考えればいい。
そこで、生み出されたセリフがこれだった。
要は、光=金とか色々足しになるものをください、ということだ。
【小さな手】の女性陣はにんまりと笑っていた。
それを目ざとく見つけたルゥナはほっぺたをぱんぱんに膨らませながらカインを睨んだ。
カインは、ルゥナの奥で大きくほっと息を吐くルマンをちらりと見て、迫るルゥナに困りながらも笑顔を向けた。
ルゥナは観念したのかほっぺたから怒りを吐き出し、少し眉を寄せながらも微笑み口を開く。
「わたくしのことをそこまで大切に思ってくださるなんて嬉しいですわ。分かりました。今暫く、わたくしは、月となり照らしましょう。そして、今宵、あなたたちが祝福の光に包まれんことを」
ルゥナは言うと、蓬莱の珠の枝を贈るために膝をついていたカインをふわりと抱きしめる。
そして、ぎゅっと『蓬莱の珠の枝』に魔力を込め、輝きを高めた。
後頭部近くにある魔導具の輝きが増し、カインが少し後ろを向こうとするその時、ルゥナはカインの方を向き、その頬に、唇を当てた。
『蓬莱の珠の枝』の四色の強い光によって見えたものはいないだろう。
だが、そのあとの満足そうに顔を緩ませるルゥナと真っ赤になっているカインを見て、ルマンは目から血の涙を流し、【小さな手】の女性陣はあのたす孤児院の子供たちには決して聞かせてはいけないような呪いの言葉を吐き続けた。