目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

四部42話 いじわるお兄さんは仲間に恵まれましたとさ

「はあはあ……無駄に驚かせやがって、カインの癖によ……」


バリィは、息を荒くしながらカインに悪態をつく。


「けどな、そんな態度いつまで出来るかなあ」


バリィが顔を歪ませ笑い、後ろから誰かを引き摺り出す。

顔半分が火傷で爛れた少女を見て今度はカインが顔を歪める。


「その、子は……」

「この遺跡の調査をしてた女だ。魔工技師だからよ、こき使ってやろうと思ってな。ああ、動くなよ。動けば、この女を殺す。俺が命令すれば一瞬だ」


バリィが少女の髪を掴んで持ち上げると、少女の首には隷属の首輪が巻かれていた。

そして、その首輪と接している肌が赤黒く痛々しい。


「隷属の、首輪……」

「魔工技師様ならわかるよなあ。これの意味が……さあ、カイン」

「あ! あの!」


少女が声を上げると、バリィは不愉快そうに彼女を睨む。


「ああん?」

「ひいい! あ、あの、エーテの製造は、しなくていいんですか?」

「お前は、馬鹿か! 今、お前は人質なんだよ! 勝手に此処を離れるんじゃねえぞ! ったく、本当に魔工技師は使えねえ連中ばっかりだ。なあ、カイン?」

「……」

「さて、どこまで話したか……ああ、そうそう。動くなよ、カイ……ン!」


バリィはカインにおもむろに近づき前蹴りで腹を思いっきり蹴りつける。


「う……」


カインは驚き声をあげるが、ひざはつかない。


「くく……意地はるなよ、カイン。素直に膝をついて泣いていいんだぜ。まあ、今お前を殺したとしても俺の心は満たされない……もっともっと苦しめてから殺してやるからな、カイン」


バリィは、そういってカインに顔を近づけると、厭らしく笑い話しかける。


「バリィ、その人は……?」


カインは、フリーダを見ながらバリィに問いかける。

バリィは急に瞳を輝かせ、自慢げに叫ぶ。


「俺の女、フリーダだ! 調査隊の護衛をしていたんだがな、俺に惚れて、裏切った女だ。だが、コイツは最高だ。ここまで策のほとんどはフリーダの助言で完全となった。頭の切れる女だ。そして、身体も、素晴らしい……!」

「……メエナ、の事は、知ってるのか? メエナは、犯罪奴隷、として……」

「……メエナ?」


バリィが首を傾げる。

その瞳は真っ暗で何も映していないように見えた。


「無駄だよ、カイン。コイツはメエナの事なんか覚えちゃいない」


カインが声の方を向くと、暗がりからもう一人現れる

その男は、カインもよく知るあの男だった。


「え……ティナス……?」


相変わらず紙の束を見つめながらカインの元パーティーメンバーであるティナスが現れる。


「久しぶりだな、カイン」

「ティナス? だって、ティナスは……!」


ティナスは死んだはず。

ティナスは【大蛇の森】で狂ったように叫び走り出し、そして、魔物に襲われ死んだ……はずだった。


「ああ、アレも借りた身体だ。それより、バリィはメエナを覚えていない理由を教えてやろう。バリィは一部の記憶をティーナ様に捧げたんだ」

「記憶を、捧げる……?」

「偉大なるティーナ様は、別れの神。己の一部を捨てることで力をお与えくださるのだ! 分かるか、この素晴らしさが!」


ティナスがようやく紙の束から目を離し、興奮し息を切らせカインに話しかける。

その目は赤く禍々しい。


「ティナス……その目……」

「そう! 俺は、ティーナ様に魂以外のすべてを捧げた。俺はシャドウ! 魂のみで生き続けられる高位の存在!」


ティナスが叫ぶと、ゆらりとティナスの足元の影が地面を離れ靄のようになってティナスの背後に浮かび上がる。

いや、正確にはティナスだったものだろう。

靄が浮かぶことで、顔も姿かたちも変わり頬に傷を持つ長身の女性が現れる。

女性に纏わりつき浮かぶその靄は顔のようなものを作り、笑っている。

そして、その口らしき場所から声が聞こえる。


『この身体は調査隊の最も優れたステータスを持った女だった。俺が憑いたお陰でコイツはよりステータスを高めることができた。これがティーナ様のお力だ』


妙に体に響く気持ちの悪い声を浴びながらカインは顔を顰める。

靄はすっと女性の口から入り込み再びティナスの姿に変わる。


「じゃあ、バリィも?」

「バリィは、まだ身体を離す気はないようだ」

「当たり前だろ、身体を離せば女も抱けない。それに、記憶を捨てるだけで十分強くなれただろ」


ティナスが幽霊ゴーストのような存在だったことに驚きもしないバリィに悲しそうな眼を向けながらカインは懐に手を入れる。

取り出したのは、計測球だった。

その計測球をエーテキングに向ける。

エーテキングはバリィのステータスを模写したもの。

しかし、そのステータスはカインが知るバリィのステータスを遥かに超えていた。


「計測球か。そんなものを持ち出してまで……疑っていたのか? ならば、見ただろう。そのステータスを。赤鬼をも超える高さだ」

「はっはっは! わかったか、カイン! 最高の女フリーダ、俺に赤鬼を超える力を与えたティナス、そして、俺の分身であるエーテキング、俺の仲間は、最高だ。お前の弱い仲間共と違ってなあ、カイン」


最高の仲間と呼ぶ者たちに囲まれたバリィが目を向けた先には、魔法によって作られた画でレイルの街が映っていた。

そして、その画の中には、たった一人で血だらけでエーテに囲まれる赤鬼が居た。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?