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四部50話 おじーずぉさまがやってきましたとさ

(な、なにが起きた……?)


バリィは目の前に立っているヌルド達の姿が信じられず目を白黒させていた。

ヌルド達がいるはずのレイルの街から、ここ【遺物の工場】は遥かに離れている。

にも拘らず、今、ヌルド王たちは目の前に存在する。


「幻……ではなさそうね」

「ああ、空間転移の笛とは……全く忌々しいものを……!」


フリーダが顔を引き攣らせながら、ティナスが憎々しげに顔を歪めながら見つめている。


「空間転移の笛だと……! そんなものが……! いや、もうそれはいい。というか、どうでもいい。そうだ、こちらにはエーテがいる。見ればお前らは手負い。負けるはずがないんだ!」


ヌルドは先ほど穴に触れていた部分が酷く溶けている。

インフやマァマは既に息を切らし深く疲れているようだし、クグイも包帯を大量にまかれている。


「残りは、こちらを脅かすための数合わせだろう。それでも、エーテの数よりも少ない。はっはっは! まあ、カインにしては頑張ったほうだろう。……じゃあ、死ね」


バリィの一言でエーテ達、そして、フリーダ、ティナスが動き出す。


「やれやれ、では……打合せ通りに、とはいかんか。クグイ殿はあの者を」


ハニキヌがため息交じりに号令を出すと、カイン達もまた動き出す。


「よおし! いくぞお! 異能【勇気】! 空回カラマワシ!」


ヌルドがカイン、ハニキヌ、クグイ、マァマを空気の球で包み、放り投げる。

空気の球は先陣を切ったエーテの頭上を越えようとするが、エーテもまたそれを阻まんと腰を落とし飛び上がろうとする。

が、


「行かせないよ」


正面から飛び込んでくる長刀使いの少年の大ぶりの一撃に前の数体は対応を迫られる。

そして、後方のエーテが飛びあがり手を伸ばすが、


「行かせないって」


空気の球と同時に飛び込んでいた双剣使いの少女が無数に伸びる手をすべて払い落とす。

エーテ達のど真ん中に降りた少女は全方位から襲われるが流れるように躱しエーテの群れから飛び出す。

エーテを前後で挟んだ少年と少女は武器を構えながら、口を開く。


「「お前らの相手は近くにいるよ、さあ、来い」」

「ふむ、お前たちよくやった。では、我々で王の命を果たし、この逆賊の猿にも等しい愚かな者たちを倒す」

「「はい」」


ハニキヌがキルキルとミキルの囲みのちょうど中間になるよう移動し、三方からエーテを囲む形になる。


「で、わたしの相手はあんた達かい? 息切れてるけど大丈夫かい?」

ちえ~あんた位なら丁度ええ~、の略

「心配してくれていい子ね。でも、こんな事してるから、めっしなきゃね」


フリーダは並び立つマァマとインフに向かい合う形で、短剣を逆手に、もう一方の手に魔力を込めながら身構えた。


「そして、君の相手は僕だ」

「眩しい、眩しいなあ、【魔導騎士】……眩しいから消えてくれ」


ティナスが有無を言わさず猛攻を見せクグイは剣を煌めかせ捌き続ける。


「ふむ! やはり、大元は違うな! かたそうだ! さあ、やろうか!」

「ヌルド王、カイン……お前らが相手か……丁度いい。それに、いいのか王様よ、そんな低ステータス者と組んで、ソロA級と肩を並べる俺とエーテキングが相手だぞ」

「ん?」


ヌルドは大きく首を傾げたが突如として顔を輝かせ口を開く。


「ああ! 問題ない! ワシがエーテキングとやらをカインがお前をやれば万事解決だ!」

「ちい、この筋肉馬鹿と話をすると、疲れる。もういいやってやる!」

「ちょっと待て!」


バリィがエーテキングに命令しようとするとヌルド王がそれを阻む。


「なんだ、命乞いか!?」

「ああ、いやいや忘れていた。これを飲まねばハニキヌに怒られるのだ」


ヌルド王はそういうと腰巻きに手を入れ、白く輝く瓶を取り出す。

そして、その瓶の上を手刀で斬ろうとして失敗する。


「ぬははは! 流石! 硬い!」

「てめえ……何をわけわからねえことやってやがんだ! もういい待ってられるか! やれ! エーテキング!」


蓋を取るのに苦戦しているヌルド王に向かってエーテキングが駆けだす。

それを見て慌てたヌルド王は歯で噛んで蓋を外し、そのまま中身を流し込む。

すると、身体中の小さな傷は勿論、ひどく溶けていた手のひらも一瞬で回復する。


「なああ!?」

「ふむ、流石神の秘薬といったところか、な!」


ヌルドが向かってくるエーテキングに圧縮した空気の球をぶつけると、エーテキングはくの字になって後ろへと飛んでいく。

肩をかすめ飛んでいくエーテキングに驚きながら、バリィはそのエーテキングをぶっ飛ばした男の姿を見る。

怪我もなく魔力も充実しているように見えるその男を。


「な、なんだそれは!? おい! カイン、あの男に何を飲ませた!?」

「ああ、それ、は……」




時は遡る ―


エーテの自爆によって荒れ果てたレイルの街に魔雪が降り、カインが皆と対バリィの作戦会議をしていた頃、門兵が慌てた様子で走り込んできた。


「ほ、ほ、報告します! 正門に、石像が……こちらに向かって、やってきています!」

「石像?」


正門までやってきたカイン達が見たのは間違いなく石像だった。

そして、その石像は不思議なことに合羽を着ていた。


「あれ、は……」

「ほぎゃ! 魔弾く外套レジストコートで作った、カインさんの?」

「あの時の、ジーズォなのかよ……?」


異なる驚きを見せている三人にほかの面々は首を傾げる。

そこでグレンがかいつまんで話す。


【大蛇の森】で魔雪により溶けかけた石像、ジーズォ像があり、そのジーズォ像に同情したタルトの為に、カインは魔雪を弾く合羽を着せたという事があった。


「なるほど……で、なんで、そのジーズォ像が動いてるの? 魔物化した?」

「わかんねえよ、ただ……警戒するに越したことは……おい!」


グレンの視線の先で、タルトとレオナが走り出していた。


「大丈夫です! 魔物ではありません! それどころか!」

「多分あの方たち! 神の使い!」

「「「「「はあああああ!?」」」」」


慌てて出迎えたカイン達の前に、六人のジーズォ像がいた。


「優しきもの、カイン、タルト、グレンよ。我が主、ドゥソ神よりお前たちへの礼を届けに参った。あの時はありがとう」

「い、いえ……その」

「導きの神、ドゥソ神は、正しき道を歩むことを望まれている。その為に、使うがよい」


そう告げると、ジーズォ達は手に持っていたものを差し出す。

カインも最初に話しかけたジーズォから白く輝く瓶を受け取る。


「これは……」

「それは、『逆導さかしるべの水。飲めば、最も力満ちた時に戻してくれる」

「え? 戻してくれる? 若返りの薬ということですか?」

「そうであって、そうではない。今から授けるものも全て理を超え導くもの。許されるは神の瞬きの間、人の時間にして一分ほど。けれど、そうであれど、辿るもの、タルトよ。お前なら正しく使えることでしょう」

「……はい」


ジーズォの言葉に、ハッとしたタルトは神妙な面持ちで頷く。


「では、我らのおくりものを受け取り、正しき道へ」




「時を戻す神の秘薬、だと……ふざけるな! んなもん!」

「ふっはははあ! 戻った! 全盛期の全裸に戻ったぞ!」

「くっ…………そぉおおおおおおおおお!」


薬の正体を聞きバリィは思い切り地面を踏みつける。


「って、ちょっと待って、じゃあ、こっちも……?」


フリーダが慌てて振り返るが、インフ達は首を横に振る。


「ウチらはもう使用済み」

「そう、小さな桃色林檎、甘くて美味しかったわ」



『桃色林檎?』

『それ、は……』

『シア?』

『私の食べた白林檎に、似て、います……』

『白林檎は神の食べ物。あなたは選ばれたのでしょう、白き乙女よ。これは、白林檎と違い魔力を一時莫大に引き上げる禁断の果実』



「これ食べて魔力爆発させて穴広げ~って感じ」

「ほーんと大変だったわねえ」

「なんだ、じゃあ、あんたらはただの抜け殻かい」


フリーダがニヤリと笑うと、素早く二人の足元に駆け寄りながら詠唱を済ませ火魔法を放とうとする。

が、魔法は一瞬で霧散する。


「ただの抜け殻じゃねえ~っての」

「な……!」

「【先見の賢者】なんて言われてるけど、ただただ勘のいい小娘なんだよね、ウチ。でも、今日は未来じゃなくて深淵を見た。魔法の深淵。そして、見えるようになったわ。ちょっとした魔力の流れ、未来が。いや、もう! もえ~《ものすっごくウチかっこえ~》!」


見れば、フリーダの手のある場所丁度に冷気の魔力が込められていた。


(は!? ここに来るとわかって!? そんなことが……?)


慌てて下がろうとしたフリーダだが、後ろからマァマに抱きしめられる。


「この……!」

「はあ~い、よいこはねんねしましょうね~」


(なに? これ、身体が動かな……!)


「直接魔力経路に魔力を送り行動不能にする。触れてしっかり確かめなきゃいけないのが難点だけど、すごい力を手に入れたかも、うふふ」


(身体の骨とか血管ならまだしも、直では見えないはずの魔力経路が見えてピンポイントで送るなんてそんなこと……)


手足に力が入らず、フリーダは崩れ落ちる。


「さって、ほんじゃあ、ちょっと、休、憩……」

「そうね……大分身体にガタが……本当に、年かしら、いやね……」


インフ、マァマもまたゆっくりと地面に座り込み、そして、戦況を見守り始めた。

インフ達とは大きく異なり激しく戦闘を見せているのは、ハニキヌ達であった。


エーテ達10体に対し、三人の剣士が攻撃を捌き続けている。


「くっ、そお! 未熟……!」

「師匠、このままでは……」

「そうさな……そろそろいいか」


ハニキヌの声で二人が大きく距離を取る。

ハニキヌはエーテ達の正面で刀を見せる。

それは布に巻かれていた。


「このカタナはな、普段布で巻いてんだ。魔力を溜められる布でな。んで、その上に今回は、ジーズォ様から頂いた聖布、魔導具の力を異常に高めるもんを更に巻いてある。さっきカインが吹いた笛と同じようにとんでもねえ代物だ。つまりは、そういうことだ。ああ、なんで馬鹿正直に全部話してるかって? 俺の異能が【正直】だからなんだ。言葉に出すと、より力が溢れてくる。つまりは、そういうことだ」


そういいながら布を外すとハニキヌの刀はおどろおどろしく濁った藍の魔力を持っていた。


「さあて、今からお前らを真っ二つにする。全力で…青鳥心眼流、〔魔裂く刃〕」


ハニキヌがその場で刀を振り抜くと、禍々しい剣閃がエーテ達まで伸びていき、真っ二つに切り裂いてしまう。

何かを感じ取り上に跳んだエーテ達も足や手を斬られている。

そして、そんなエーテ達に二つの影が差す。


「「油断するな、傍にいる」」


キルキルとミキルが武器を構え、エーテ達に迫る。


「青鳥心眼流、〔金の刃〕」

「青鳥心眼流、〔針の刃〕」


キルキルが荒々しくエーテ達の身体を切り裂き、ミキルが核を見つけ的確に突いていく。

すると三体のエーテは空中で動きを止め、翼を失った鳥のようにそのまま地面へと落ちていく。


「「師匠!」」

「馬鹿! 油断するな! 一体やり損ねてる!」


片足を失ったエーテが突如起き上がり、全く動かない二体のエーテをぶん投げた。

咄嗟の攻撃だったが、キルキルとミキルなんの驚きもないままに、エーテを斬る。


「大丈夫です、師匠斬れます」

「見切ってます」

「ったく、心配させんな。あの損傷具合なら、お前らなら絶対に負けることはないだろう。頼んだぞ」

「「はい!」」


キルキルとミキルが駆けだすのを見届け、ハニキヌはヌルド王へと向かおうとする。


(予想した予想外は影の魔物だったが、クグイ殿なら大丈夫だろ)


ちらりと横目にクグイの方を見たがハニキヌの予想通り、あっさりと決着はついていた。


「くそ! 何を、何をした!? 愚かな神から何を貰った!?」

「うん? ああ、僕は何も貰っていないよ。いや、これだな。これは僕の神、カインから昔貰った魔導具だ!」


クグイが手に持っている『天国』の魔光球を見せつける。

強い光を放つ魔光球により、ティナスはまったく身動きがとれなくなり地面にはいつくばっている。


「カインの……くそ! そんな馬鹿な! あの低ステータス者に何が……! 認めない! 認めないぞ!」

「その異常なまでのステータスへの執着……どこかで……いや、今はいいか。さあ、おとなしくしていてくれよ、美しい結末の為に」


クグイがカイン達を見遣ると、ヌルド王が大きく腕を振りかぶっているところだった。


「ひ、卑怯だろ! 神の力を借りるなんて!」

「カインは善行により神のお力を頂いた。それに、お前がこれだけ古代文明の力を借りて卑怯もくそもあるか。さあ、行くぞ、空奪カラドリ!」


ヌルド王が目の前の空を掴み、自分の方へと引き寄せるとエーテキングが再びヌルド王の元へと引っ張り込まれる。


「やめろやめろやめろ! ソイツは俺と同じステータスなんだ! ソイツが負けるってことは!」

「お前も負ける! ふはははは! 全裸で、違う、全力で受け止めてみよ! 空拳カラコブシ!!!」


ヌルド王の大きな拳がエーテキングの左胸に直撃する。


「ぬ……! うぅううううううう!」


ヌルド王は拳を振り抜き、エーテキングは宙を舞い、バリィの目の前に地面を砕きながら落ちてくる。


「ひ、ひぃいいいい!」


バリィは、ぐしゃぐしゃにひしゃげたエーテキングに自分の未来を重ね、腰を抜かしながら必死に逃げる。


「お膳立てはここまでだ! さあ! あとは任せたぞ! カイン!」


ヌルド王に背中を叩かれ、むせながらもカインはまっすぐバリィを見据え歩き出す。


(ありがとうございます。ジーズォ様、ドゥソ神様、そして、みんな……俺のやってきたことは無駄ではなかった。絶対に)


もう、あの時のカインはいない。

自分が何をやっても無駄だと泣き喚いたあの時の、追放された弱弱しい男はいない。


「さあ、すべての決着を付けよう。バリィ」





【遺物の工場】入り口。

ウァノタスと自ら名付けたゴブリンは、吹き飛ばされ横たわっていた。

【遺物の工場】に入ろうとする鉄人形にやられたのだ。


「ウ、ウァノ、ウァノタス……!」


それは自身の名ではなく、あの男の名をゴブリンは呼んでいた。

予期せぬ来訪者にあの男の運命が変えられぬよう祈りを込めて。

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