アザンギはワゼルをたしなめた。
「そんな、訳の分からないことを言っていると、牢に入れられるぞ」友人としてアザンギはワゼルが投獄されるのを恐れた。
しかし、とワゼルは反駁した。「もはや、言葉に意味なんてないじゃないか。いや、もう意味なんてものがこの世にないじゃないか」
アザンギは冷たい態度を続ける。「観念的なことは知能に任せて、俺たち動物は即物的なことをするしかない」
「アザンギ」
「なんだ?」
「おそらくだが、カンネンテキとかソクブツテキとかいう意味を間違って使っているぞ」
アザンギは笑った。「今はそうかもな。でも、過去においては、あるいは未来においては、これは正しい使い方だ」
ワゼルは眉をひそめた。「なんだか、俺みたいなことを言う。俺のお株を奪わないでほしいものだが」
※
月日は流れた。
ワゼルはイシュヴィシュの拷問官として、アザンギは捕らえられた工作員として、再び対峙することになる。
そのことをまだ知らないワゼルは、月を見上げながら「ソウセキ・ナツメの『ヒガンスギマデ』にはたしか、世界よりも頭の中のほうが広いと書いてあったな。いや、あれは、『サンシロウ』であったか」
【つづく】