ワゼルは笑った。拷問用具が入っている箱をひっくり返し、その中から一番切れ味の鋭いナイフを取り出す。
「よく聞けよ。アザンギ。耳を落として悪かった。が、それくらいしないと嘘がバレる。お前は俺を人質にしてここを出るんだ。そして旅をしよう。いや、お前にとっては逃亡か。とにかく、もうここにはいたくないんだ」
そう言って、ワゼルはアザンギの拘束を解き、ナイフを渡した。アザンギはすぐに身を翻し、ワゼルの両手を後ろに取り、喉元にナイフを突き立てた。
アザンギはそれらの動作を一言もこぼすことなくやってのける。
ワゼルは内心ハラハラしていた。こと男はおそらくアザンギであろう。だが、その確信となるものは勘以外にない。それに、仮にアザンギだったところで、前とは性格が変わっているということもありえる。
それを踏まえた上で、ワゼルはアザンギに全てを託したのだ。ワゼルは別にアザンギに殺されてもよいと思った。自分が死ぬことが世の中に対する最大の報復であるような気がしていたからだ。
二人は、拷問室を出て、地上へ向かった。
【つづく】