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第6話 中傷が真実である証拠ばかり集まる2: 奇妙な証拠

 エリナの周囲に広がる中傷は収まるどころか、次々と具体的な「証拠」が彼女を追い詰めていた。しかも、それらの証拠品や目撃証言は、どれも整然とした形で彼女の罪を裏付けるものに見えた。エリナは、自分の無実を証明しようと奮闘するものの、目の前に積み上がる「証拠」の山が彼女の心を重く押しつぶしていた。


「まるで誰かが私を貶めるために仕組んでいるとしか思えない……。」

エリナは机に広げられた書類を見つめながら呟いた。筆跡の似た手紙や、彼女が学院で何らかの問題を引き起こしたという証言、さらには第三者から寄せられた「彼女を見た」という具体的な報告まであった。

だが、彼女自身にはそれらの記憶は一切なかった。学院にすら最近は訪れていないというのに、どうしてこんなに多くの証拠が生まれるのだろうか。



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その日の午後、カイルがエリナの屋敷を訪れた。彼は情報収集を進める中で、どうにも腑に落ちない点があると感じていた。


「エリナ、調べれば調べるほど妙なことが見えてきた。」

書類の束を持ちながらカイルは椅子に腰を下ろした。


「妙なこと……ですか?」

エリナはカイルの表情を見て、不安と期待が入り混じった気持ちで問い返した。


「この証拠、どう考えても揃いすぎているんだ。」

カイルは目の前にある書類の一部を広げ、彼女に示した。


「例えば、この学院の目撃証言だ。証言者たちは君が学院の庭で誰かを罵倒していたと言っているが、同時刻に別の場所で君と会っていたという別の証言もある。」

カイルの指摘にエリナは息を呑んだ。彼女自身、何がどうなっているのか全くわからなかった。


「でも……その目撃証言を書いた人たちは、何か理由があって嘘をついているのでしょうか?」

エリナがそう尋ねると、カイルは首を横に振った。


「証言自体が不自然だというより、それを集めた形跡のほうが不自然なんだ。」

カイルは机に証拠品を並べながら続けた。


「これを見てほしい。いくつかの目撃証言や手紙は、同じ書簡の流通網を使って送られている。それに、証言者のほとんどが特定の貴族家と繋がりがある。」


「貴族家……それって誰かが仕組んでいるってことですか?」

エリナの声は震えていた。


「可能性はある。でも、それだけじゃない。何らかの形で証拠が捏造されている可能性も否定できない。」

カイルは冷静な口調で言ったが、彼自身もその真相が掴めていない苛立ちを感じていた。



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その晩、エリナは一人自室で書類を見返していた。筆跡の似た手紙や証言の内容を何度も読み返すが、どうしても腑に落ちない点ばかりだった。


「これが全て嘘だというなら……誰がこんなことを?」

彼女は鏡越しに自分の顔を見つめながら呟いた。鏡に映る自分は疲れ果て、目の下にクマができている。


ふと、彼女は手元の書類を握りしめたまま、リリアに相談しようと思い立った。リリアなら、冷静に意見を聞かせてくれるに違いない。


「リリア、私がここまで追い詰められていることを知っても、私を信じてくれるだろうか……。」

自分の中に芽生え始めた疑念を抑えつつ、エリナは翌朝の予定を立てた。



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翌日、カイルは調査の進捗をエリナに伝えるため、再び彼女の屋敷を訪れた。


「少し進展があった。」

カイルは手にした資料を見せながら話し始めた。


「この手紙と証言がどの経路を通じて広まったのかを調べてみた。その結果、いくつかの証拠が一つの出所に繋がる可能性が出てきた。」


エリナは目を見開き、カイルの話に耳を傾けた。

「出所……それはどこですか?」


「まだ確定はしていないが、貴族院のある一人の議員と、その使用人たちが絡んでいる可能性がある。」

カイルは少し考え込むような表情を浮かべながら続けた。

「ただし、彼らが本当に君を陥れようとしているのか、あるいは別の目的があるのかまではまだわからない。」


「それでも、少しでも手がかりがあるなら……!」

エリナは自分の中に希望が湧き上がるのを感じた。カイルの言葉は、暗闇の中で一筋の光を見つけたような感覚を与えてくれた。


カイルは優しく微笑み、「安心していい。僕が全力で君を支える。君は一人じゃない。」と言った。


その言葉にエリナは目を潤ませながら、小さく頷いた。





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