エリナが自分に向けられた中傷や証拠の数々に翻弄される中、さらに追い詰めるような「決定的な目撃証言」が届いた。
「エリナ・ウィンチェスター侯爵令嬢が学院の庭で、他の生徒を罵倒し暴力を振るった」という具体的な報告だった。
エリナはその報告を手に取り、信じられない思いで文字を追った。その内容には、目撃者が証言したとされる日時や場所、さらに「その時のエリナの服装」に至るまで細かく記されていた。
「そんなこと、していない……!その日はリリアと一緒にいたはずなのに!」
エリナは記憶を必死に掘り返した。その日、確かにリリアと街の本屋を訪れ、その後ティールームでお茶を楽しんだ記憶がある。学院に行く時間などあるはずがない。
「この証言が正しいはずがない……!」
エリナは拳を震わせた。だが、証言の詳細さと具体性が、彼女の心に疑念を呼び起こした。
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エリナはリリアに連絡を取り、直接確認することにした。その日、リリアはエリナの招きに応じ、侯爵家の応接間を訪れた。
「リリア、ありがとう。急に呼び出してしまって……。」
「何を言っているの、エリナ。あなたが困っている時に駆けつけるのは当然よ。」
リリアは微笑みながら答えたが、エリナの疲れた様子に気づき、心配そうに問いかけた。
「また、何かあったの?」
エリナは深いため息をつきながら、目撃証言の内容をリリアに見せた。
「これを見て。この証言では、私が学院で他の生徒を罵倒したと言っているの。でも、その日は確かにあなたと一緒にいたわよね?」
リリアは手紙に目を通し、顔をしかめた。
「……確かに、その日は私たちがティールームで話していた日だわ。エリナが学院に行くなんて不可能よ。」
リリアの言葉にエリナは少しだけ安堵した。しかし、リリアも疑問を抱いた様子で続きを話し始めた。
「でも、エリナ。ここまで具体的に服装や行動が書かれているということは、証言者が何かを見たのかもしれないわ。誰かがあなたになりすましていた……なんて可能性はないの?」
「なりすまし……?」
エリナはその言葉に戸惑った表情を浮かべた。確かに、自分がしていないことを証言されている以上、誰かが自分の姿を真似ている可能性も考えられる。だが、それが現実的に可能なのかはわからなかった。
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その日の夜、エリナは再びカイルを訪ねた。彼女はリリアとの会話で感じた疑念を彼に打ち明けることにした。
「カイル様、この目撃証言のことなのですが……。」
エリナが証言内容を説明すると、カイルは慎重に資料に目を通した。
「確かにおかしいな。これだけ具体的な証言が出ているにもかかわらず、君がその場にいなかった証拠もある。となると、二つの可能性が考えられる。」
「二つの可能性……?」
エリナは不安げに問い返した。
「一つ目は、証言者たちが誰かの指示で嘘をついている場合。二つ目は、君になりすまして行動している誰かがいる場合だ。」
カイルの冷静な分析に、エリナは胸がざわつくのを感じた。特に、二つ目の可能性は彼女にとって信じがたいものだった。
「もし本当に、私になりすましている人がいるとしたら……どうしてそんなことを?」
エリナの問いに、カイルは答えを出すことができなかった。ただ、彼は真剣な眼差しでエリナを見つめた。
「目的はわからないが、証拠を集めれば必ず手がかりが見つかるはずだ。僕がその手伝いをする。」
カイルの言葉に、エリナはわずかに心が軽くなるのを感じた。
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その後、カイルはさらに目撃証言の詳細を調べるため、自身の情報網を使って証言者たちと接触した。彼は証言がどのように広まったのかを追跡し、いくつかの不自然な点を発見した。
「この証言、全てが同じ時期に集中的に出てきている……。」
カイルは証言が広まるタイミングの不自然さに気づいた。さらに、証言者の中には過去にエリナと接点がなかった人物も多く含まれており、彼らの証言がどのように得られたのかが不明だった。
カイルは新たな疑念を胸に、次の調査計画を立てた。そして、エリナにもその結果を報告することを約束した。
「エリナ、少しずつだが真相に近づいている。この証言の裏には、何らかの大きな意図が隠されている気がする。」
「ありがとうございます、カイル様。あなたがいなければ、私はどうなっていたかわかりません……。」
エリナは感謝の言葉を口にしながらも、まだ完全には安堵できない自分を感じていた。