エリナとカイルは、昼間の「影」との遭遇を経て、「なりすまし」の正体にさらに近づいていると感じていた。エリナの胸には、恐怖と不安が渦巻きながらも、次こそ真実を突き止めるという強い決意が芽生えていた。
カイルの協力のもと、二人はこれまでの目撃証言や不審な出来事を整理し直し、「なりすまし」がどのような目的で動いているのかを推測するため、さらなる調査を開始した。
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エリナとカイルは、侯爵家の古い記録を調べることにした。家の中で起きている奇妙な現象や、彼女の身近で発生する不審な出来事が、家の歴史に関連している可能性を考えたのだ。
「この記録は、侯爵家の初代から続くものだ。君の家系に何か特殊なことが隠されているかもしれない。」
カイルがそう言いながら、大きな本を机に広げた。
「特殊なこと……。」
エリナは記録を読み進めながら、自分の知らなかった家族の過去に驚きを隠せなかった。侯爵家には、代々受け継がれるいくつかの「伝説」があり、その中には「双子の呪い」と呼ばれるものも含まれていた。
「双子の呪い……?」
エリナはその言葉に目を留めた。
記録にはこう書かれていた。
「侯爵家の血筋を引く者が、特定の満月の夜に生まれた場合、その影がもう一人の存在として現れると言われる。影は実体を持ち、本人に取って代わることができる。」
その文章を読んだ瞬間、エリナの背筋に冷たいものが走った。まるで記録が自分の状況を示しているかのようだったからだ。
「まさか、この『影』が……私のなりすまし?」
エリナは震える声でカイルに問いかけた。
カイルも驚きつつ、記録を読み進めた。
「可能性はある。ただ、この『影』が何を目的として現れるのかは書かれていない。単なる迷信とも取れるが、状況がこれに一致している以上、無視はできないな。」
「もしこれが本当なら、私はどうすればいいの?」
エリナの瞳には、不安が滲んでいた。
カイルは彼女の手を取って優しく言った。
「まだ結論を急ぐ必要はない。まずはこの『影』の正体を突き止めることが先だ。君は一人じゃない、僕が必ず守る。」
その言葉に、エリナは少しだけ安心感を覚えた。カイルの支えがなければ、彼女はとっくに心が折れていたかもしれない。
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その夜、エリナは再び鏡の前に立った。昼間に読んだ「双子の呪い」の記録が頭を離れない。鏡に映る自分の姿をじっと見つめながら、彼女は心の中で問い続けていた。
「あなたは私なの?それとも……私を陥れようとする別の存在なの?」
鏡の中の自分は何も答えない。ただ、そこには普段と変わらない彼女自身が映っているだけだった。
だが、ふと目を凝らすと、鏡の中の自分の瞳が一瞬だけ鋭く光ったように見えた。まるで嘲笑うかのように、彼女自身の表情がわずかに歪んでいた。
「……!」
エリナは驚き、後ずさった。
その瞬間、鏡の表面がゆらゆらと揺れ動き、まるで水面のようになった。そして、そこに映るもう一人の「エリナ」が彼女に向かって微笑みを浮かべた。
「やっぱり……いるのね。」
エリナは恐怖とともに確信を得た。その存在は、自分を陥れるために現れた「影」――「なりすまし」だ。
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翌朝、エリナはカイルに昨夜の出来事を話した。彼はその話を聞き、さらに調査を進める必要性を感じた。
「鏡を通じて『影』が現れる……それが何を意味するのか、もっと詳しく調べてみる。」
カイルはそう言いながら、侯爵家の資料だけでなく、他の古い伝承にも手を伸ばす計画を立てた。
「エリナ、怖いかもしれないが、君が直接その『影』と対峙する時が来るかもしれない。その時は、僕が必ず君の傍にいる。」
エリナは彼の言葉に頷いた。
「カイル様がいれば、私もきっと……乗り越えられる気がします。」
二人はこれから起こるであろう対峙に向けて、さらに準備を進めていくことを誓った。