エリナとカイルは「なりすまし」の正体に近づいている感覚を得ていた。侯爵家に伝わる「双子の呪い」が今回の出来事に深く関与している可能性が浮かび上がる中で、エリナは次第に「影」との直接対峙を覚悟し始めていた。一方で、その正体に向き合う恐怖も、日に日に強くなっていく。
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ある夜、カイルはエリナの元を訪れた。彼は新たに手に入れた情報を彼女に伝えるためだった。彼は侯爵家の文献や、他の貴族家に伝わる同様の伝説を調査していた。
「エリナ、君に伝えたいことがある。」
応接室でエリナに向き合ったカイルは、真剣な表情で言った。
「『双子の呪い』についてさらに調べた結果、いくつかの共通点が見えてきた。この呪いは、ただの迷信や伝説ではないかもしれない。」
「どういうことですか?」
エリナは不安げに問い返した。
「記録によれば、この呪いが発現する条件の一つに、精神的な不安定さや大きなストレスが関係している可能性があるとされている。」
カイルの言葉に、エリナは息を呑んだ。確かに、彼女はここ数ヶ月間、中傷や証言による圧力で心が不安定になっていた。
「つまり、私の心の状態が……『影』を呼び起こしたということですか?」
エリナの声は震えていた。
「可能性は高い。ただ、これが自然現象なのか、何者かが意図的に仕掛けたものなのかは、まだわからない。」
カイルはそう言いながら、彼女の手を優しく握った。
「エリナ、君はこれまで十分に耐えてきた。でも、これからは君ひとりで戦う必要はない。僕が必ず傍にいる。」
その言葉に、エリナの瞳には再び涙が浮かんだ。彼の存在が、どれほど心の支えになっているかを改めて感じていた。
「カイル様……ありがとうございます。あなたがいるだけで、私ももう少し強くなれる気がします。」
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その翌日、エリナは侯爵家の敷地内を巡りながら、自分を陥れようとする「影」がどこで姿を現すのかを考えていた。これまでに「影」と思われる存在が目撃されたのは、主に家の奥まった場所や人目につきにくい廊下だった。
「ここで現れる可能性が高い……。」
エリナは、かつて「影」を目撃した廊下の角に立ち、じっと周囲を見渡した。
その時だった。不意に冷たい風が頬をかすめ、彼女は背後に何かの気配を感じた。
「誰……?」
振り返ると、そこには確かに自分と同じ背丈、同じ髪型の人物が立っていた。だが、その表情は冷たく、まるで別人のようだった。
「あなた……誰なの?」
エリナの声は震えていた。
「私はあなた。あなたは私。」
その人物――「影」は静かにそう言い放った。
エリナは恐怖と怒りを抑えながら、さらに問いかけた。
「どうして私になりすましているの?あなたの目的は何なの?」
しかし、「影」は答えなかった。ただ、薄暗い廊下の中でじっとエリナを見つめ続けていた。
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その瞬間、エリナの背後からカイルが駆けつけた。彼は状況を一瞬で理解し、エリナの前に立ちはだかった。
「エリナから離れろ!」
カイルの声に、「影」は微笑みを浮かべながら一歩後退した。
「守られるつもり?でも、この戦いはあなたたち二人の力では解決できないわ。」
「影」の言葉は挑発的で、冷たかった。だが、カイルは動じることなく答えた。
「エリナは一人じゃない。君が何者であれ、僕たちが必ず正体を暴いてみせる。」
「影」はその言葉に再び笑みを浮かべた後、薄暗い廊下の奥へと姿を消した。
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その後、エリナとカイルは応接室に戻り、今回の出来事を整理していた。
「カイル様、あれは……本当に私だったのでしょうか?」
エリナの声には、不安と疑念が入り混じっていた。
「見た目は確かに君と瓜二つだった。でも、あれは君とは別の存在だ。何らかの力が働いているのは間違いない。」
カイルはそう断言した。
「それにしても、あの冷たい目と笑み……思い出すだけで震えが止まりません。」
エリナは自分の手が震えているのを感じながら言った。
「エリナ、君はよく耐えた。これからも僕が君を支える。次に『影』が現れた時、僕たちは必ずその正体を突き止める。」
カイルの言葉に、エリナは力強く頷いた。彼と共にいる限り、自分は前に進むことができると信じることができたからだ。