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第17話 謎の人物を追い詰める1: 決定的な手がかり

 エリナとカイルは、ドッペルゲンガーの正体に近づくため、これまでの調査のすべてを整理し直していた。エリナの目撃証言や、「影」が現れるたびに残していった痕跡――特に侯爵家に伝わる「双子の呪い」に関連する記録が、真実への糸口となりそうだった。



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ある日、カイルが新たな手がかりを持ってエリナの元を訪れた。彼は手に古びた文献を抱えており、興奮した様子で話し始めた。


「エリナ、これを見てほしい。侯爵家の過去の記録に、これと似た現象があったことが分かった。」

彼はその本を広げ、一つのページを指差した。その記述にはこう書かれていた。


「影は、己を持つ者の心に巣食う不安や後悔から生まれる。影は実体を持ち、己の存在を証明するために本物と衝突することを目的とする。」


「影は……私の心が生み出したもの?」

エリナはページをじっと見つめながら、声を震わせた。


「君が悪いわけじゃない。これは呪いとも言える力だ。誰にでも起こるものではないが、特定の条件が揃えば現れる。君のような立場にある人間にとって、この現象は珍しくないのかもしれない。」

カイルの声は冷静で、エリナを安心させようとしていた。


エリナは深呼吸をしながら、頭の中でこれまでの出来事を整理した。

「でも、この『影』を止めるにはどうすればいいの?ただ逃げ続けるだけでは、きっと……。」


カイルは頷きながら言った。

「影は君と対立するために存在する。つまり、君自身が影と向き合わなければならない。その時が来たら、僕も傍にいる。だから、心配しなくていい。」



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その後、カイルはさらに影の動きを調査するため、自分の情報網を駆使した。そして数日後、ついに「影」が出没する可能性の高い場所を特定した。それは侯爵家の庭にある古い温室だった。温室は長年使われておらず、ほとんど忘れられていた場所だった。


「ここが……影が現れる場所なのですね。」

エリナは温室の前に立ちながら、胸の奥に広がる恐怖と闘っていた。


「間違いない。影はこの場所で君を待っているはずだ。」

カイルは静かに頷いた。


エリナは一瞬目を閉じ、深く息を吸い込んだ。そして目を開けると、決意を宿した瞳でカイルを見つめた。

「行きましょう。私、自分自身と向き合います。」



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温室の中は薄暗く、古びた植物の枯れ枝や埃が舞っていた。二人が足を踏み入れると、奥から微かに人の気配が漂ってきた。


「待っていたわ、エリナ。」

その声は、確かにエリナ自身の声だった。だが、どこか冷たく、嘲笑を含んでいた。


薄暗い奥から姿を現したのは、エリナと瓜二つの「影」だった。彼女は冷ややかな笑みを浮かべながら、じっとエリナを見つめていた。


「あなたは……私なの?」

エリナは震える声で問いかけた。


「そうよ。私はあなた。そして、あなたの弱さそのもの。」

「影」はそう言い放った。


「弱さ……?」

エリナの声は驚きに揺れていた。


「そう。あなたが自分を信じられなくなった瞬間から、私は生まれた。あなたが自分自身を疑い、周囲の中傷に負けたからこそ、私がここにいるの。」

「影」の言葉は冷たく、エリナの心を刺した。


エリナは拳を握り締め、冷静さを保とうとした。

「でも、私はあなたに負けない。私は私自身を取り戻す。」


「取り戻す?それは無理な話ね。私はあなたを完全に乗っ取るためにここにいるのだから。」

「影」は冷笑を浮かべ、エリナに一歩近づいた。


その時、カイルが間に割って入った。

「エリナは君に負けない。僕が彼女を守る!」


カイルの言葉に「影」は目を細め、不機嫌そうに言い放った。

「あなたが彼女を守る?愚かね。彼女自身が私を受け入れない限り、この戦いは終わらない。」



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エリナはその言葉に深く息を吸い込んだ。そして、カイルの後ろに立ちながら強く言った。

「あなたの言う通り、私は弱かった。自分を信じられず、疑い続けた。でも、私はもう迷わない。私は私――それが真実よ。」


その瞬間、「影」の表情が僅かに歪んだ。

「ほう……自分を信じると?」


「そうよ。あなたが何者であれ、私は負けない。」


エリナの言葉に、「影」は笑みを消し、エリナに向かって手を伸ばした。その瞬間、カイルが「影」を押し戻し、激しいもみ合いが始まった。


エリナはその場で必死に冷静さを保ちながら、カイルの背中に向かって叫んだ。

「カイル様、気をつけて!」


しかし、もみ合いの末、「影」は不意にバランスを崩し、足元のガラス片に躓いて後方に倒れ込んだ。そして、その体は消えるように霧散した。



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エリナはその場に崩れ落ち、カイルがそっと彼女を支えた。彼は優しく言った。

「エリナ、君は君だ。それが全てだよ。」


その言葉に、エリナは涙を流しながら頷いた。彼女の中に少しずつ平穏が戻っていくのを感じていた。







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