目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第18話 謎の人物を追い詰める2: 運命の対峙

 エリナとカイルが温室で「影」との対峙を果たしたその後、緊張の糸が切れたように、エリナはその場に座り込んでしまった。カイルは彼女の肩に手を置き、そっと支える。


「エリナ、大丈夫か?」

「ええ……ただ、頭の中がぐちゃぐちゃで……。」

エリナは自分の手を見つめながら呟いた。自分の中にある不安、そして「影」の言葉――それが胸に深く突き刺さっていた。



---


その日の夕方、エリナは自室に戻り、ベッドの上でじっと天井を見つめていた。カイルの「君は君だ」という言葉が耳に残っているものの、心はまだ揺れ動いていた。


(私は本当に「本物」なの?それとも……。)

「影」が放った言葉が頭から離れない。


「私はあなた。そして、あなたの弱さそのもの。」


「私は……弱いの?」

エリナは小さな声で呟いた。


その時、ふと窓の外からカイルの声が聞こえた。彼が庭で使用人たちと話している声が風に乗って届く。その穏やかな声を聞いて、エリナは少しだけ安心感を覚えた。


(カイル様が私を信じてくれている。それだけでも……。)

そう思いながらも、完全に不安が拭い去られることはなかった。



---


その夜、カイルはエリナに「もう少し話をしよう」と声をかけた。二人は応接室に腰を下ろし、ランプの暖かな光に包まれながら向き合った。


「エリナ、君がまだ動揺しているのは分かる。でも、焦らなくていい。」

カイルは優しい声でそう言いながら、エリナの目をじっと見つめた。


「焦らない……。」

エリナは小さく呟いた。その言葉には、どこか諦めにも似た響きがあった。


「影が君に言ったことを気にしているのか?」

カイルが尋ねると、エリナは静かに頷いた。


「ええ……あの言葉が、どうしても頭から離れないの。『私はあなた。そして、あなたの弱さそのもの』……それが本当だったら、私が影を生み出したんじゃないかと思うと……。」


カイルはしばらく黙ったまま考え込んでいたが、やがて口を開いた。

「エリナ、誰だって弱さは持っている。それを否定する必要はないし、受け入れることもまた、君の強さだ。」


「でも……その弱さが原因で、こんなことが起きてしまったのなら……?」


「たとえそうだとしても、君がその弱さをどう乗り越えるかで、本当の君自身が形作られるんだ。」

カイルの言葉は穏やかで、それでいて力強かった。


「僕は君が本物だと信じているし、それ以上に、君自身がそう信じなければならない。影はただ君を惑わせるために現れたに過ぎない。君が自分自身を信じていれば、影はもう現れない。」


エリナはカイルの言葉を胸に刻むようにじっと聞いていた。そして、小さく頷いた。

「……ありがとうございます。少しだけ、心が軽くなった気がします。」



---


翌日、エリナは庭園を散歩していた。少しずつ平静を取り戻しつつある自分を感じながら、彼女はこれまでの出来事を振り返っていた。


「私は、私。」

エリナは自分にそう言い聞かせた。カイルの言葉が、彼女にとって大きな支えとなっていたのだ。


庭の片隅で、彼女は古い花壇の前に立ち止まった。そこは長い間放置されていたが、よく見ると小さな芽がいくつか顔を出している。


「ここにも新しい命が芽吹いている……。」

エリナはその光景に心を奪われ、ふと微笑んだ。


「私も、もう一度やり直せるのかもしれない。」

その言葉を口にした時、彼女は自分が少しだけ前を向けるようになったことに気づいた。



---


エリナが庭から戻ると、カイルが待っていた。彼はエリナの様子を見て微笑みを浮かべた。

「少し元気を取り戻したみたいだな。」


「ええ……少しだけですけど。」

エリナは小さく笑いながら答えた。


「それで十分だ。君が自分を信じられるようになるまで、僕はずっとそばにいる。」

カイルの言葉に、エリナの目には再び涙が浮かんだ。それは悲しみの涙ではなく、感謝と安堵の涙だった。


「ありがとうございます、カイル様。私、もう少し頑張ってみます。」


カイルは彼女の手をそっと取り、静かに言った。

「一緒に頑張ろう。君がどんな選択をしても、僕はそれを信じるから。」


エリナはその言葉に深く頷き、心の中に新たな決意を抱いた。彼女は、自分の弱さを受け入れながらも、それを乗り越えるために進み始めたのだった。




この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?