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第6話 疑念の種2: 夫の秘密

 レアリナの心に芽生えた疑念は、日が経つごとに強まっていった。召使いたちの噂話や執事の不自然な態度が、彼女をカイゼルの秘密に近づけるための手がかりとなった。そして彼女は、夫が頻繁に外出している「秘密の社交場」という言葉にたどり着いた。


 ある夜、レアリナは執事を通じてカイゼルの外出時間を確認した。執事は最初、曖昧な言葉で返事を濁していたが、彼女の鋭い視線に気圧されたのか、最終的に「旦那様は今夜も遅くまでお戻りにはならないでしょう」と答えた。それは暗に、カイゼルがまた「秘密の社交場」に行くことを意味していた。


 それを聞いたレアリナは、決意を固めた。夫が隠している秘密を自ら暴くため、彼の後を追うことを。



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 その夜、カイゼルが屋敷を出る姿を、レアリナは自室の窓から見届けた。カイゼルは、いつも以上に慎重な様子だった。彼は馬車を使用せず、徒歩で屋敷を出て行った。彼がどこへ向かうのかは分からないが、レアリナはこれを絶好の機会だと考えた。


 彼女は外出用の黒いマントを羽織り、屋敷を抜け出すと、カイゼルの後を追った。夜の街は静かで、灯りのついた店もほとんどない。カイゼルは人目を避けるように、裏通りを進んでいく。その後ろ姿を見失わないように距離を保ちながら、レアリナも慎重に足を進めた。


 途中、何度か振り返るカイゼルの動きに緊張しながらも、彼女はなんとか気づかれずについていくことができた。そして、彼が立ち止まったのは、人通りの少ない小道にある大きな建物の前だった。その建物には華やかな装飾が施されており、どこか異様な雰囲気を醸し出していた。


 カイゼルは門番に何かを囁き、扉の中へと消えていった。その瞬間、レアリナの胸に疑念と不安が押し寄せる。「ここが、秘密の社交場……?」と。



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 その建物の外観は豪華だったが、何かしらの暗い目的を隠しているように見えた。レアリナは入り口から少し離れた場所で様子をうかがった。中に入ることはできないが、次々と訪れる貴族らしき男女の姿を目にして、その場所が普通の社交場ではないことを確信した。


 そこで働く使用人たちは一様に無表情で、誰が来ても特に驚くことはない。ただ、門番に対して何か合言葉のようなものを伝えなければ入れない仕組みになっているようだった。


 その場ではこれ以上の情報を得られないと判断したレアリナは、屋敷に戻ることを決めた。だが、帰路の途中、彼女の心は疑念と恐怖でいっぱいだった。

「夫がこのような場所に通う理由は何なの……?」

 その問いが頭から離れない。



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 翌朝、レアリナは屋敷での生活を装いつつ、再びカイゼルの行動を調べる手段を考え始めた。彼女一人では限界があると感じたため、彼に近い召使いの協力を仰ぐことにした。


 そこで目を付けたのが、カイゼルの専属馬車係であるフレデリックだった。彼は慎重で口が堅いが、長年カイゼルに仕えているため、彼の行動をよく知っているはずだ。


 ある昼下がり、レアリナはフレデリックに紅茶を振る舞いながら、自然な形で会話を始めた。彼は最初、彼女の質問に警戒していたが、次第に気を許し始めた。

「フレデリック、カイゼル様は最近、どこに行かれているのかしら?夜遅くまでお帰りにならないのが気になって……。」

 彼女はあくまで心配する妻を装った。


 フレデリックは困惑したように眉をひそめたが、やがて小声で答えた。

「奥様、私は何も知らない方がいいと思います。しかし……旦那様が頻繁に訪れている場所は、普通の社交場ではありません。」

「どういうこと?」

 レアリナは声を抑えながら問い詰めた。


 フレデリックは苦しげに言葉を続けた。

「そこでは……ええ、貴族たちの間で秘密裏に行われる取引が行われています。私も詳しいことは知りませんが、旦那様がその中心にいるという話を耳にしました。」


 その言葉を聞いた瞬間、レアリナの中で恐怖と怒りが交錯した。秘密の取引――それが違法なものであれば、家名に傷がつくことは避けられない。そして、それが事実ならば、彼女自身もその泥に巻き込まれることになる。


「フレデリック、その情報を誰にも話さないでちょうだい。」

「もちろんです、奥様。」

 フレデリックは深々と頭を下げた。



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 レアリナは部屋に戻ると、これまでの情報を整理した。カイゼルが頻繁に通っている場所は、表向きは社交場だが、その裏では秘密裏に取引が行われている。そして、彼がその中心人物である可能性が高い。


 「夫は私に何も話さないだけでなく、家名を危険に晒している……。」

 その現実を目の当たりにしたレアリナは、言い知れぬ絶望感に包まれた。しかし、それと同時に、真実を暴くという決意が一層強くなるのを感じた。彼女はただ従順な妻ではない。この状況を放置するわけにはいかないのだ。


 ――夫の秘密を暴く。その先に待つものがどれほど困難であろうとも。



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