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第11話 魔族の少女と一件落着…?

 サファイアドラゴンが文字通り崩れ落ちる瞬間を、アルト達は信じ難いものをみるように見つめていた。先程、アルトが言っていたように、サファイアドラゴンはSSランククラスの冒険者が大規模なパーティを組んでようやく討伐出来るほどの強力なモンスターである。この世界に数人しかいない、人類の頂点到達者と目されるSSSランク冒険者なら、単独の討伐は可能かもしれないが、彼らの存在は夢物語のようなものだ。実際に会った人間は聞いた事がないし、むしろサファイアドラゴンを探した方がまだ出会える可能性は高いと思われる。


 つまり、目の前のこの男は、そんなレベルの人間だという事になる。歴史に名を残す瞬間と言っても過言ではないのだが、それを現実のものとして受け入れるには、アルト達に余裕はなかった。


 時間にして数分にも満たない時が経つと、やがて周囲の光景は一変し、ここまで進んできたのと同じ形のダンジョンへと落ち着いた。ただ一つ違う点があるとすれば、いつの間にか近くの壁には、F6の案内板ガイドが岩壁に張り付いていた事だけだ。


「五階層をクリアした……という事か?しかし、俺達は」


 アルトがそう呟いた時、無明は静かに歩を進めて案内板ガイドの前に立った。さっきまでのにこやかな雰囲気とは打って変わって、無明からは強いプレッシャーが感じられる。彼は何かに怒っている、そんな印象だ。


「ここか……てぇいっ!」


 おもむろに案内板ガイドの前に立った無明は、居合切りのように素早く忍者刀を振るった。すると、岩壁に大きな亀裂が走り、そのままビシビシと音を立てて空間そのものが崩れていく。あっという間にそれは周辺全体へ波及して、気付けば辺りは真っ白で整然とした部屋に変わっていた。


「な、なんだ?ここは。こんな場所があるなん、て……?!っあれは、ダンジョンコア!?」


 アルトの視線の先、部屋の中央には、台座に置かれ鈍く光る丸い石のようなものがあった。ぱっと見は石のように見えたが、明らかにそれは普通の石ではない。何故ならその石の表面は光を放ちつつも、生物のように蠢いていたからだ。あれこそまさにダンジョンの心臓であり脳である、ダンジョンコアに違いないだろう。


「ほう、あれが。しかし、。もう一人、そこにいるでござろう?観念して姿を見せるでござる」


「え?」


 無明の言葉に答えるものは誰もいなかった。しかし、彼は間違いなく何らかの確信をもって喋っているようだ。何も動きがないとみるや、更に憤怒の気配を纏って、無明は言葉を紡ぐ。


「三つ数えるまで待ってやろう。それまでに出てこなければ、容赦なく斬るでござる。では、いくでござるよ。……ひとぉつ」


「何を言っているんだ……?誰かいる?こんな所に……?」


「ふたぁつ」


 アルト達には何もいないとしか思えないが、カウントが進む度に無明から発せられる圧が強くなっていく。その背中からは、悪魔のような恐ろしい気配が感じられた。きっと正面から今の無明を見ていたら、アルト達は気絶してしまっていただろう。それだけ、無明は怒っていた。


「みっ……」


「ま、待て!?待て待て!出る、出るからっ!」


「っ!?」


 無明の圧が最高潮に高まった瞬間、やや甲高い慌てたような声がして、何もない空間から急に一人の少女が飛び出してきた。ツインテールの金髪と手足の伸びきっていない背格好からすると、まだ歳の頃は十代前半と思しき見た目だが、その見た目に似つかわしくないものが見えている。背中に生えた蝙蝠のような翼と、二つの小さな角……それはまごう事無き魔族の少女だった。


「あれは、魔族っ……!?」


「ふむ。隠れておったのはお主か」


「な、なんで私が隠れてるって解ったのだ?!私の隠蔽スキルは完璧のはず……」


「その程度で完璧な隠形とは笑わせるでござるな。我が祖父、才蔵の隠れ身の術に比べれば、その程度、児戯に等しい。しかし、お主はそれなりに力があるようだ」


 期せずして無明の祖父の名が明かされたものの、その正体を知る者がいないこの世界では誰もピンと来ていない様子である。だが、そんな事はお構いなしに、無明は更に圧を強めた。


「言っておくが、女童の姿をして拙者を油断させようなどと思っておるなら無駄でござるぞ。拙者は忍び、敵であれば例えそれが赤子であろうとも容赦はせぬ。その首と胴が別れるような事になりたくなければ、神妙にしておることだ」


「ぴゃああああああっ!?な、なんなのだ?コイツ!?上級魔族だってこんな怖くないのだっ!赤ちゃん殺すとかこのオーガ!デーモン!人でなし!」


 無明を恐いと言いながらも罵る辺り、本当に怖がっているのかは微妙な所だが、魔族の少女は涙目になっているのでやはり本当に恐いのだろう。あれは彼女なりの強がりなのかもしれない。


「ふふ、知らなかったでござるか?忍びとは、まともな人間ではいられぬものでござる。そんなことよりも……あの大トカゲをけしかけてきたのはお主でござるな?」


「えっ!?あ、いや……そ、そうなのだ…です」


「拙者が聞いた所によると、この試練のダンジョンとやらは、挑戦者の力量を見極めて化生けしょうを用意するものらしいが……何ゆえあのような大トカゲを寄越したのだ?拙者はともかく、こちらの……いん、いんふぃにて……なんちゃら達には、荷が勝ちすぎていたと思うが?」


「インフィニティ・レゾナンスだ!……忘れるなよ」


「そ、それは、その……」


「ロイド殿は、それらは契約……つまり約定によるものだと言っておられた。ということは、お主らは約を破ったということになる。要は、裏切りだ。拙者、裏切りだけは許す事が出来ぬ性質でな。……改めて問うが、お主らは何ゆえ、あのようなものをけしかけたのだ?」


「あ、あばばば…ち、ちが、違うのだ……!その、お、おまえが入ってきたから!お前みたいなバケモノ人間が入って来たから、サファイアドラゴンくらいじゃないと太刀打ちできないと思ったのだ!」


「ほう?拙者のせいだと?」


「ぴっ!?……しょ、しょんなことは……言ってない…のだ……でしゅ……」


「ふむ。まぁ、拙者のせいだと言うならそれでも構わんでござる。だが、ならばそこにいる、いんふぃにて何某なにがし達は合格扱いにしてやってくれるな?彼らは十分その力を示したはずでござる」


「へ?……え?そ、それでいいの?お前の合格は?」


「拙者は失格扱いでも構わんでござる。むしろ、彼らの邪魔になってしまったのだからそうするべきでござろう。拙者は他人を蹴落としてでも冒険者になろうとは思っておらぬゆえな。………………なんなら今度こそ切腹でも構わんでござるし」


 最後にボソッと呟いた言葉は誰にも聞こえていなかったようだが、画面を通して見ていたジークリンデは唇の動きで察したようだ。呆然としていたのも忘れて、再び青筋を立てている。これはお説教が長くなるなぁと、エスメラルダは一人、違う意味で冷や汗を流すのだった。


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