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第3話 1-3:意地悪な義理の妹

ティアラがハロルド公爵家での生活を始めて数日が経った。彼女は毎日新しい環境に慣れる努力を続けていたが、公爵家の冷たい雰囲気と、ほとんど言葉を交わさない婚約者レオンの存在に心を擦り減らされていた。


そんなある朝、ティアラは広々としたダイニングで朝食をとる準備をしていた。彼女が椅子に座ろうとした瞬間、軽やかな足音とともに、若い女性の声が響いた。


「あら、これが新しい伯爵家の娘? ずいぶんと小さくて地味ね」


声の主はクラリス・ハロルド。レオンの義理の妹であり、公爵家の養女だった。金色の髪を完璧に結い上げ、豪華なドレスに身を包んだクラリスは、一目で美しいとわかる女性だった。しかし、その美しい顔には侮蔑的な笑みが浮かんでいた。


ティアラはクラリスの言葉に一瞬戸惑ったが、すぐに柔らかい笑顔を浮かべて応じた。

「初めまして。ティアラ・クレメンティスです。よろしくお願いします、クラリス様」


その礼儀正しい挨拶に、クラリスはわざとらしく笑みを深めた。

「よろしく? ふふ、そうね。まあ、せいぜいお兄様に迷惑をかけないように頑張ってちょうだい。あなたがここにいるのも、家同士の都合でしょ?」


ティアラは胸の奥がチクリと痛むのを感じた。クラリスの言葉は鋭く、彼女の不安や無力感を見透かしたかのようだった。それでもティアラは動じないように努めた。


「おっしゃる通りです。私はただ、家のためにできることをするだけです」

淡々とした口調でそう答えたティアラを、クラリスは不満げな目で睨んだ。彼女が期待していたのは、もっと悲しそうな顔や動揺だったのだろう。


「まあ、せいぜい公爵家の名に恥じないように振る舞ってね。私たちの家の評判を落とさないでくれると助かるわ」

クラリスは冷笑を浮かべながら言い放ち、優雅にその場を後にした。



---


クラリスとの初めてのやりとりを経て、ティアラは彼女が敵意を抱いていることを痛感した。しかし、なぜクラリスがそこまで冷たい態度を取るのか、その理由までは分からなかった。彼女に対して特別な期待を抱いていたわけではなかったが、この家での生活がより厳しいものになる予感がした。


その予感は数日後、現実のものとなった。ティアラが午前中のティータイムを楽しもうと庭に出たときのことだった。


庭園には色とりどりの花が咲き誇り、爽やかな風が吹いていた。そんな美しい景色に囲まれながらも、ティアラの胸中は穏やかではなかった。クラリスが自分にどのような態度で接してくるのか、気を抜けない状況が続いていたからだ。


ティアラが花壇のそばで立ち止まり、香りを楽しんでいると、背後からクラリスの声が聞こえた。

「あら、そんな安物のドレスを着ているのね。伯爵家の娘なら、もっと華やかな服を着るべきじゃない?」


ティアラは振り返ると、クラリスが意地の悪そうな笑顔を浮かべて立っていた。彼女の後ろには侍女たちが控えており、彼女たちもまた、ティアラを値踏みするような視線を向けていた。


「このドレスは私にとって大切なものです。父から贈られたものですので」

ティアラは落ち着いた口調で答えたが、その答えにクラリスは鼻で笑った。


「ふふ、まあいいわ。でも、公爵家にいる以上、それ相応の格好をしないと笑われるわよ?」


その言葉には明らかに挑発的な意図が込められていた。しかし、ティアラは冷静さを保ち、クラリスの言葉に対して余計な反応を見せなかった。


「ご忠告、ありがとうございます」


その一言を最後に、ティアラはクラリスに背を向け、再び庭の花々に目を向けた。クラリスは何か言い返そうとしたが、ティアラの毅然とした態度に気後れしたのか、結局何も言わずにその場を立ち去った。



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その日の夜、ティアラは自室で静かに考え込んでいた。クラリスがなぜ自分に意地悪をするのか、その理由が未だに分からない。しかし、彼女は決意していた。どんなに冷たい態度を取られようとも、自分を貶めようとする行動があろうとも、この家での生活を諦めるつもりはなかった。


「私は、この家での役割を果たさなくてはならない。それがどんなに厳しいものでも……」


小さく呟いたティアラの瞳には、決意の光が宿っていた。






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