目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第7話 2-3:義妹の失敗

ティアラがハロルド公爵家に来てから約2週間が経過した。彼女は少しずつこの家の生活に慣れつつあったが、それでも孤独を感じる日々は続いていた。特に義妹クラリスの存在が、彼女にとって最大の試練だった。クラリスは日々、ティアラを侮辱し、あらゆる場面で彼女を試すような態度を取っていた。


しかし、ティアラは耐えていた。伯爵家の娘としての誇りと、公爵家の一員としての役割を果たすために。冷たく突き放すようなレオンの態度も、クラリスの意地悪も、彼女は笑顔の仮面でやり過ごしていた。


だが、ある日、その均衡が崩れる出来事が起きた。



---


その日、ティアラは執事長グレゴリーから「庭でお茶会を開いてほしい」と依頼を受けた。公爵家の慣例行事の一環で、近隣の貴族たちを招いて交流を深めるための催しだった。ティアラは一瞬戸惑ったが、これが公爵家のためになるならばと承諾した。


「準備は完璧に進めますので、どうぞご安心くださいませ」

グレゴリーはそう言って彼女を励ましたが、ティアラは不安を隠せなかった。この家でまだ信用を得られていない彼女が主催するお茶会。それが失敗に終われば、ますます居場所を失うことになるだろう。


「私はやるしかないわ……」

彼女は自らに言い聞かせ、準備に取り掛かった。



---


お茶会当日、庭園には色とりどりの花が咲き誇り、装飾品やテーブルセッティングも完璧に整えられていた。招かれた貴族たちも上品な笑みを浮かべ、談笑しながら優雅な時間を過ごしている。


ティアラはそんな様子を眺めながら、ほっと胸をなでおろしていた。これならば何とか無事に終えられるかもしれない。彼女がそう思い始めた矢先、クラリスが現れた。


「まあまあ、ティアラ。よくこんなに立派なお茶会を開けたものね」

彼女の声には明らかな皮肉が込められていた。ティアラは微笑みを浮かべたまま答えた。

「ありがとうございます、クラリス様。皆様に楽しんでいただければ、それで十分です」


「楽しんでいただければ、ね……」

クラリスは目を細めながら、不敵な笑みを浮かべた。そして、そっと近づき、低い声で囁いた。

「まあ、これからどうなるか見ものだわ」


その言葉に嫌な予感を覚えたティアラだったが、何が起きるのかまでは分からなかった。クラリスはそのまま貴族たちの輪の中に入り込み、しばらくの間、楽しそうに談笑していた。


しかし、その後すぐに異変が起きた。



---


テーブルに並べられた紅茶を口にしたある貴婦人が、突然顔をしかめた。

「あら、これは……何か味が変ですわね」


その声に続き、他の貴族たちも次々と口を押さえ、不快そうな表情を浮かべた。

「この紅茶、どういうことなの?」

「なんて酷い味……!」


庭はたちまちざわめきに包まれた。ティアラは慌てて紅茶を確認しようとしたが、その前にクラリスの大声が響いた。


「まあ! ティアラが主催したお茶会なのに、こんな粗末な紅茶を出すなんて!」

クラリスはわざとらしく驚いた表情を浮かべ、周囲の注目を集めた。その目には勝ち誇ったような輝きが宿っている。


「クラリス様……」

ティアラはその場で冷静さを保とうとしたが、貴族たちの批判的な視線が自分に向けられているのを感じ、胸が締め付けられるようだった。


「一体どういうことなのかしら? これでは公爵家の恥さらしよ!」

クラリスの追い打ちの言葉に、ティアラは何とか反論しようと口を開いた。


しかし、その瞬間、執事長グレゴリーが毅然とした態度で庭に現れた。

「少々失礼いたします」

彼の声が響くと、周囲は静まり返った。



---


「クラリス様」

グレゴリーは冷たい目でクラリスを見据えた。その目は明らかに怒りを含んでおり、クラリスは思わず顔を引きつらせた。


「この紅茶に細工をされたのは、あなたではありませんか?」

その言葉に、クラリスの顔色が一瞬で青ざめた。


「そ、そんなことあるわけないでしょう!」

彼女は取り繕おうと必死に声を張り上げたが、グレゴリーは動じなかった。


「厨房の者から報告を受けています。クラリス様がこの紅茶の壺に何かを加えるところを目撃したと」

グレゴリーの言葉が続くと、貴族たちの視線が一斉にクラリスに向けられた。その視線には疑念と軽蔑が混じっている。


「これは……」

言葉を失ったクラリスは、その場から逃げるように走り去った。



---


その後、グレゴリーは貴族たちに丁寧に謝罪し、新たな紅茶を用意して場を収めた。ティアラはその間、静かに立っていた。クラリスの仕業だと知った時の驚きよりも、彼女の行動がどれほどこの家の評判を傷つけるかを考えると、悲しい気持ちの方が大きかった。


「お嬢様、ご心配なさらないでください」

グレゴリーがティアラにそっと声をかけた。その言葉に、彼女はほんの少しだけ救われたように感じた。


「ありがとうございます、執事長」

ティアラはそう答えながら、心に決めた。クラリスに何をされても、自分はこの家を守る存在であり続けようと。



---





この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?