目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第10話 3-2:新たな疑念

エリスが去った翌日、ティアラの胸には新たな不安と疑念が渦巻いていた。彼女の言葉には、ただの挑発以上の何かが隠されているように感じられたからだ。「あなたの隣にふさわしいのは私」という言葉。あれは単なる未練ではなく、もっと深い意図が込められているように思えた。


朝食の席でも、ティアラの頭はそのことでいっぱいだった。だが、レオンはその話題には一切触れず、彼の態度はいつも通り冷淡で感情を見せない。


「公爵様……」

ティアラは勇気を振り絞って声をかけた。レオンが顔を上げると、その灰色の瞳が彼女を見つめる。


「昨日のことなのですが……エリス様が何を目的にここに来られたのか、詳しくお聞きしてもよろしいでしょうか?」

彼女の声は慎重だった。怒らせるつもりはないが、この疑念を放置するわけにもいかなかった。


レオンはしばらく無言だった。彼の目が鋭くなるのを感じたティアラは、喉が乾くような緊張感を覚えた。だが、やがて彼は静かに口を開いた。


「エリスが何を考えているのかはわからない。ただ、彼女がこの家に戻ることは二度とない」

その言葉は断固としていて、彼の決意がにじみ出ていた。


「ですが……」

ティアラが続けようとすると、レオンが手を軽く上げて制した。


「エリスのことは忘れろ。お前が気にすることではない」

彼の冷たい言葉に、ティアラはそれ以上追及できなかった。しかし、レオンがエリスについて語りたがらない理由に、彼女の中でますます疑念が深まっていった。



---


朝食後、ティアラは庭園に向かった。気分を落ち着けるために花を眺めることが、彼女の日課になりつつあった。だが、今日の庭はどこか違った雰囲気を漂わせていた。執事長のグレゴリーが庭師たちに何か指示を出しているのが見えた。


「グレゴリー様、何かあったのですか?」

ティアラが近づいて尋ねると、グレゴリーは少しだけため息をついて答えた。


「昨夜、庭の一部が荒らされていたのです。誰かが侵入した可能性があります」


その言葉に、ティアラの胸がざわめいた。

「侵入……ですか? それは一体……」


「まだ確かなことは分かりません。ただ、通常ならば外部の者がこの館に入り込むのは不可能なはずです」

グレゴリーの声には困惑が混じっていた。ハロルド公爵家は鉄壁の守りで知られ、外部の侵入者が簡単に足を踏み入れることなどありえなかった。


「昨夜、何か変わったことはありませんでしたか?」

グレゴリーの質問に、ティアラはエリスの訪問を思い出した。だが、それを直接結びつける確証はない。


「いいえ……特には。ただ……」

ティアラは一瞬言葉を詰まらせた後、エリスが昨日訪問したことを伝えた。グレゴリーは静かに頷き、考え込むように眉をひそめた。


「エリス様が……そうですか。念のため、調査を進めておきます」

そう言い残して、グレゴリーは再び庭師たちの方へ向かった。



---


その日の午後、ティアラは図書室で過ごしていた。館の歴史や地域の伝説についての本を読み、少しでも自分の立場や状況を理解しようとしていたのだ。


「……この館は、古代の戦いの舞台だった……?」

ある本に書かれていた内容に、彼女は驚きを隠せなかった。そこには、かつてこの地で強大な魔物が封じられたという記述があり、その封印がハロルド公爵家によって守られてきたと書かれていた。


「封印……」

ティアラの手が無意識に胸元のペンダントに触れる。父から贈られたこのペンダントが、何か特別な意味を持つのではないかという不安が再び湧き上がった。


その時、図書室の扉がノックされ、レオンが入ってきた。彼の表情は相変わらず冷たいが、その瞳にはどこか探るような光が宿っていた。


「ここにいたのか」

レオンはそう言いながら彼女の近くに歩み寄った。ティアラは驚きつつも、彼の来訪が珍しいことに気づいた。


「何かご用でしょうか、公爵様」

ティアラは立ち上がり、彼を見つめた。


「お前がこの家でどんなことを学んでいるのか、少し気になっただけだ」

レオンはちらりと彼女が読んでいた本に目をやった。そして、その内容に気づいたのか、眉をひそめた。


「その本は……」

彼の声が一瞬途切れる。ティアラはその反応に驚きつつも、問いかけた。


「この館の過去についての本です。古代の封印や、魔物に関する記述がありました。この家はそれらを守る役割を担ってきたと……」


レオンはしばらく沈黙した後、小さくため息をついた。

「その話は、忘れたほうがいい」


「でも、公爵様……」

ティアラが何かを言おうとした時、レオンは静かに首を振った。


「お前にはまだ、知る必要のないことだ」


その言葉に、ティアラはそれ以上何も言えなかった。ただ、レオンの表情には普段見られない苦悩の色が浮かんでいた。



---


レオンが去った後、ティアラは再び胸のざわめきを感じた。エリスの訪問、庭園での異変、そして館の封印に関する記述。全てが一つの謎として彼女の心を乱していた。


「この館には、何かが隠されている……」

彼女はそう確信し、真実を明らかにするために自分ができることを模索し始めた。



---




この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?