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第11話 3-3:封印の真実

ティアラの胸の中に、ハロルド公爵家に隠された謎への疑念が日ごとに膨らんでいった。エリスの訪問や庭園での異変、そして図書室で読んだ封印に関する記述――それらすべてが彼女に、何か重大な秘密がこの家に隠されているという確信を与えていた。


その夜、ティアラは寝室の窓から庭園を眺めていた。満月の光が広がり、庭の花々を照らしている。冷たい夜風が彼女の頬を撫でたが、心の中に渦巻く不安を和らげることはできなかった。


「この館に隠されているものは、一体……?」

彼女は呟きながら、胸元のペンダントに触れた。このペンダントが何か特別な役割を持っているのではないかという思いが、彼女を落ち着かなくさせていた。


ペンダントがわずかに温かさを帯びると、ティアラは自然とそれを握りしめた。そして、意を決して寝室を出た。彼女はこの夜、館の秘密に近づくための一歩を踏み出す決意をしていた。



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廊下は静寂に包まれていた。ティアラは足音をできるだけ立てないように歩き、館の奥へと進んでいった。彼女が目指していたのは、先日庭園で見つけた「封じられた扉」。そこには紋様が刻まれ、不思議な力を感じさせる異様な雰囲気が漂っていた。


扉の前に立ったティアラは、ペンダントを握りしめながら深呼吸をした。この扉の向こうに、何が隠されているのか――その真実を知る勇気が、彼女の中に湧き上がっていた。


「これが……封印……」

彼女は呟きながら扉に手を伸ばした。その瞬間、ペンダントが強い光を放ち始めた。光は扉の紋様に吸い込まれるように広がり、複雑な模様が淡く輝き出した。


「これは……どういうこと?」

ティアラが戸惑っていると、不意に低い声が響いた。


「お前は、選ばれし者……」

その声はどこからともなく聞こえ、彼女の胸に直接語りかけているようだった。


「選ばれし者……?」

ティアラは震える声で問い返したが、声はそれ以上何も語らなかった。ただ、扉がゆっくりと音を立てて開いていった。



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扉の向こうには、巨大な空間が広がっていた。天井は高く、壁には古代の文字や絵が描かれている。部屋の中央には円形の祭壇があり、その上には何かが封じられているように見えた。


ティアラが慎重に祭壇に近づくと、その表面には複雑な紋様が刻まれ、中央にはペンダントと同じ形の窪みがあった。彼女は無意識のうちにペンダントを取り外し、窪みに近づけた。


「これが……鍵……?」

ペンダントが窪みに触れた瞬間、祭壇が強い光を放ち始めた。同時に、ティアラの頭の中に過去の映像が流れ込んできた。


それは、この地でかつて繰り広げられた戦いの記憶だった。強大な魔物が現れ、この地を荒廃させた過去。ハロルド公爵家の祖先たちはその魔物を封じ込めるために命を懸け、封印を完成させた。そして、その鍵として作られたのが、ティアラが持つペンダントだった。


「私が……封印の鍵を持っている?」

映像が消えると、ティアラは膝をつき、深く息をついた。彼女の中には、この家に嫁いだ理由が単なる政略結婚ではないという確信が生まれていた。



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その時、不意に足音が近づいてきた。振り返ると、そこにはレオンが立っていた。彼の顔には驚きと困惑が混じっていた。


「お前……ここで何をしている?」

彼の声は冷静を装っていたが、その瞳には焦りの色が見えた。


「公爵様……私はただ、この扉の向こうに何があるのか知りたくて……」

ティアラは正直に答えた。その言葉に、レオンはしばらく沈黙した後、ため息をついた。


「そうか……もう気づいてしまったのなら仕方がない」

彼は祭壇に近づき、冷静な口調で話し始めた。


「ここはハロルド家の秘密が眠る場所だ。この地に封じられた魔物を鎮めるため、我々は代々この封印を守り続けてきた。そして、その鍵となるのが、お前が持つペンダントだ」


ティアラは驚きに目を見開いた。彼がこんなにも素直に秘密を語るとは思っていなかった。


「では、私がこの家に来たのは、この封印を守るためだったのですか?」

彼女の問いに、レオンは静かに頷いた。


「そうだ。だがそれは、お前に伝えるつもりはなかった。お前がその使命を背負う必要がないようにするのが、俺の役目だからだ」


その言葉に、ティアラは胸が締め付けられるような思いがした。彼の冷たい態度の裏には、彼なりの優しさと責任感が隠されていたのだ。



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「でも、公爵様……私は、この役割を果たしたいのです。この家の一員として、私にできることを全力でやりたい」

ティアラの決意に満ちた言葉に、レオンは一瞬だけ驚いたように目を見開いた。しかし、すぐに表情を引き締め、静かに頷いた。


「ならば、お前の覚悟を見せてもらう」

彼の言葉には、これまでとは違う信頼の色が感じられた。


ティアラはペンダントを握りしめながら、再び祭壇を見つめた。この家に隠された秘密と向き合い、レオンと共にその重荷を背負う覚悟を固めたのだった。



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