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第12話 3-4:絆の兆し

封印の真実を知ったティアラは、その重い事実に戸惑いながらも、公爵家の一員としての自覚を強く持つようになった。自身の役割を果たす覚悟を決めた彼女だったが、その道のりが険しいことも理解していた。公爵家を守る責務を背負いながらも、冷たい態度を崩さないレオンとの距離は依然として遠く感じられた。


その夜、ティアラは図書室で過ごしていた。古い記録や文献を読み漁り、封印やハロルド家の歴史についての知識を深めようとしていた。だが、古代の文字や専門的な記述に、理解が追いつかない部分が多い。


「どうして、こんなにも難しいのかしら……」

彼女は大きくため息をつき、本を閉じた。ペンダントを握りしめながら、視線を遠くに向ける。その時、図書室の扉が静かに開いた。


「こんな時間に何をしている?」

低く冷たい声に驚き、ティアラは振り返った。そこにはレオンが立っていた。いつものように冷徹な表情だが、その目にはわずかな興味が宿っている。


「公爵様……少しでも封印やこの家について理解を深めようと思いまして」

ティアラはそう答えながら立ち上がった。彼の前ではどんなに緊張していても、毅然とした態度を崩さないと決めていた。


レオンは彼女が読んでいた本に目をやり、無言で手を伸ばした。そして、その本を手に取り、簡単にページをめくりながら静かに言った。

「この本は初心者には難しい。だが、ここに書かれていることを理解しなければ、封印について深く知ることはできない」


彼の冷静な声に、ティアラは頷きつつも、少しだけ口を開いた。

「公爵様は、この封印についてすべてをご存知なのでしょうか?」


その質問に、レオンは一瞬だけ目を伏せた。そして、静かに息をついて答えた。

「すべてを知っているわけではない。封印についての全貌を理解している者は、もうこの世にいない。だが、守るべきものがあるという事実だけは揺るがない」


ティアラはその言葉に重みを感じた。彼がどれだけの重圧を抱えながら公爵家を守っているのか、その一端を垣間見た気がした。


「……私も、その守るべきものの一端を担いたいと思っています。この家の一員として、少しでもお力になれればと」

彼女の言葉は真剣そのものだった。その目には揺るぎない決意が宿っていた。



---


レオンはしばらく彼女を見つめた後、本を静かに閉じた。

「ならば、お前が何をどれだけ理解しているのか、試してやろう」


彼の言葉にティアラは一瞬戸惑ったが、すぐに頷いた。

「はい、お願いします」


レオンは隣の椅子に腰を下ろし、封印や魔物に関するいくつかの質問を投げかけた。ティアラは必死に記憶をたどり、答えようとしたが、その大半は曖昧な回答に終わった。


「まだまだだな」

レオンの冷たい評価に、ティアラは肩を落としそうになったが、彼の次の言葉に驚いた。


「だが、努力は認める。自ら学ぼうとする姿勢は悪くない」

その言葉には、わずかながらも彼女を評価する意図が込められていた。それを感じ取ったティアラは、心の中で小さな喜びを覚えた。


「ありがとうございます、公爵様。これからも努力を続けます」

彼女はそう言って微笑んだ。その笑顔に、レオンは一瞬だけ視線を逸らしたが、すぐに元の冷静な態度を取り戻した。


「お前がどれだけ成長するか、見せてもらおう」

そう言い残し、レオンは立ち上がって図書室を後にした。その背中は相変わらず冷たく遠いものに見えたが、ティアラは彼との間に小さな絆が芽生え始めていることを感じていた。



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その夜、ティアラは自室でペンダントを握りしめながら、これからの道のりを考えていた。レオンとの距離はまだ遠い。だが、彼の信頼を得るために、自分がすべきことは見えてきた。


「私は、この家を守るために全力を尽くします。そして……公爵様の力になります」

ティアラの声には決意が込められていた。月明かりが差し込む寝室で、彼女の瞳には未来への希望が宿っていた。






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