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第14話 4-2:忍び寄る影

隣国の特使たちがハロルド公爵家を訪れた数日後、館の中にはどこか不穏な空気が漂い始めた。表面上は何事もないように見えたが、使用人たちの間でもささやかれる不安や、レオンの様子の変化がティアラをますます警戒させていた。


ある日、ティアラは庭園でクラリスに出くわした。義妹である彼女の態度は相変わらず冷たかったが、この日はいつもと違う表情を浮かべていた。


「ティアラ姉さま、何だか最近落ち着きがないわね。この家に何かあるの?」

クラリスの問いは、まるで探りを入れるような響きを持っていた。彼女が何を知っているのか、ティアラには分からなかったが、軽々しく答えるわけにはいかない。


「特に変わったことはありません。ただ、少し忙しいだけですわ」

ティアラは穏やかな笑顔でそう返した。クラリスはじっと彼女を見つめたが、ふっと笑みを浮かべてその場を立ち去った。


「クラリス様も、何かを感じ取っているのかもしれない……」

ティアラはそう思いつつも、クラリスが不用意に何かを知ってしまうことを恐れていた。封印の真実が公になることで、この家にさらなる混乱が訪れることを避けたかったのだ。



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その日の夕方、ティアラは執事長グレゴリーに呼び止められた。彼はどこか険しい表情で、ティアラに耳打ちした。


「ティアラ様、このところ館の周囲で見慣れない者たちの姿が確認されています。おそらく隣国の者かと思われますが、まだ確証はありません」


「隣国の者が……?」

ティアラの胸は嫌な予感でざわついた。特使たちが去った後も、彼らが館の動向を探るために何かしらの手を打っている可能性は十分に考えられる。


「公爵様にはお伝えしましたか?」

ティアラが尋ねると、グレゴリーは深く頷いた。

「はい。ただ、公爵様は慌てる必要はないとおっしゃっています。しかし、私としては何かが起こる前に手を打つべきかと考えております」


ティアラは彼の意見に同意した。これ以上事態が悪化しないようにするためには、先手を打つ必要がある。彼女は決意を込めてグレゴリーに言った。

「私もできる限り協力します。何か手伝えることがあればお知らせください」



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その夜、ティアラは寝室の窓辺に立ち、月明かりに照らされた庭園を見下ろしていた。静寂の中で、彼女の胸には数々の不安が押し寄せていた。隣国が何を企んでいるのか、この封印にどれほど深い興味を持っているのか、彼女にはまだ分からない。


「何が起きても、この家を守らなくては……」

ティアラは自分に言い聞かせた。その時、背後から声が聞こえた。


「何を考えている?」

振り返ると、そこにはレオンが立っていた。彼の表情は相変わらず冷静だったが、その目にはわずかな疲労の色が見える。


「公爵様……隣国の者たちがまだこの家を狙っているのではないかと思うと、落ち着かなくて」

ティアラは正直に答えた。彼の前では偽りなく自分の思いを伝えたかった。


レオンは彼女の言葉を聞き、窓辺に近づいた。そして、庭園を見下ろしながら静かに言った。

「隣国が何を企んでいようと、我々が守り続けるべきものは変わらない。だが、お前がそのことで眠れないほど不安を感じているなら、何か手を打つ必要があるかもしれないな」


その言葉に、ティアラは彼が自分を気遣っているのだと感じた。冷たい態度の裏に隠された彼の優しさが、彼女の胸に温かさをもたらした。


「ありがとうございます、公爵様。私は、この家を守るためにできる限りのことをしたいと思っています」

ティアラの言葉に、レオンは静かに頷いた。


「お前がその覚悟を持っていることは分かっている。だが、お前一人にすべてを背負わせるつもりはない」

彼の言葉には、これまで以上に強い信頼の響きが感じられた。



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翌日、ティアラはグレゴリーと共に、館の周囲を警備する計画を立てた。見張りを強化し、隣国の者たちの動きを監視するための体制を整えることが決定された。さらに、館の使用人たちにも情報が漏れないよう、厳重な注意が促された。


ティアラはその間、できる限りの協力を申し出た。彼女の行動は周囲の使用人たちにも伝わり、彼女への信頼をさらに深めていった。


「ティアラ様、本当にありがとうございます」

グレゴリーが頭を下げたとき、ティアラは静かに微笑んだ。

「これも私の役目ですから。ハロルド家を守るために、皆で力を合わせましょう」


その言葉には、彼女の強い意志と覚悟が込められていた。そして、この家を守り抜くために、ティアラとレオンは少しずつ力を合わせ始めていた。






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