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第4話 1-4:家族の反応と新たな決意

リーネが家族に婚約破棄の話を告げたのは、翌朝のことだった。緊張で胸が張り裂けそうな思いで、彼女はセレーネ侯爵家の応接室に向かっていた。そこには、父である侯爵ダリウス・セレーネと母イリーナが待っていた。


「リーネ、お前が話したいという内容は何だ?」

ダリウスは穏やかながらも厳格な口調で問いかける。その視線には、侯爵としての責任感と娘への期待が込められていた。


「父様、母様……アルトゥール様が婚約を破棄するとおっしゃいました。」

リーネは震える声でそう告げた。その瞬間、室内の空気が張り詰めた。


「なんだと?」

ダリウスの声が低く響く。その言葉には、驚きと怒りが混ざっていた。


「詳しく話しなさい。アルトゥールが何を言ったのか。」

イリーナが冷静な声で促す。彼女の目は鋭く、真実を見極めようとしていた。


リーネは、アルトゥールがクラリッサという女性を愛していること、彼女との未来を選びたいと言ったことを、できるだけ感情を抑えて説明した。話し終えると、ダリウスは深いため息をつき、椅子の背もたれに体を預けた。



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「公爵家は我々を軽んじたということか。」

ダリウスの声には怒りが滲んでいた。婚約は両家の政治的な結びつきを強めるためのものだ。それを一方的に破棄するなど、セレーネ家の名誉を傷つける行為である。


「父様、私は……」

リーネが言葉を紡ごうとすると、ダリウスは手を上げて制した。


「いや、リーネ。お前が何か悪いことをしたわけではない。アルトゥールが愚かだったのだ。」


イリーナも頷きながら言葉を続けた。

「セレーネ家の娘が不当に扱われることなど許されません。この件、我々が責任を持って対応します。」


両親の言葉にリーネは安堵した。自分が責められることを覚悟していたが、そうではなかった。しかし同時に、両親に全てを委ねるだけではいけないという思いが胸に湧き上がった。



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「父様、母様。」

リーネはゆっくりと立ち上がり、二人に向き直った。


「確かに、アルトゥール様の行為は許されないものです。でも、このままでは私がただの被害者で終わってしまいます。それは嫌です。」


ダリウスは少し驚いた表情を見せたが、黙って彼女の言葉を待った。


「私は……私自身の力で、セレーネ家の名誉を取り戻したいと思います。婚約破棄が私の人生の終わりではなく、新たな始まりであると証明したいのです。」


イリーナが微笑みを浮かべた。

「あなたらしいわね、リーネ。」


「だが、どうするつもりだ?」

ダリウスの問いに、リーネは真剣な表情で答えた。


「まだ具体的な計画はありません。でも、私にはこの手があります。この手で、未来を切り開いてみせます。」


その言葉には、これまでのリーネにはなかった強い意志が感じられた。ダリウスはしばらく彼女を見つめていたが、やがて静かに頷いた。


「いいだろう。お前の決意を信じる。しかし、何かあればすぐに我々を頼れ。」


「ありがとうございます、父様。」



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その日の午後、リーネは執務室で自分の未来を見つめ直していた。机の上にはこれまでの社交界での交友記録や手紙が並べられている。それらを見つめながら、彼女は自分の資産を活用して、独立した力を持つことを決意した。


「これからは誰かに守られるのではなく、私自身が道を切り開くの。」


その時、扉がノックされ、侍女のマリアが顔を覗かせた。


「リーネ様、ルーカス・エヴァンス様がいらっしゃっています。」


「ルーカス様が?」

突然の訪問に驚きながらも、リーネはマリアに案内を頼んだ。


ルーカス・エヴァンス――商業ギルドの若き会長であり、夜会でリーネを気遣ってくれた人物だ。彼は堂々とした態度で執務室に入り、穏やかな笑みを浮かべた。


「リーネ様、その後お変わりはありませんか?」


「お気遣いありがとうございます、ルーカス様。」

リーネは礼儀正しく応じたが、彼の訪問理由が気になっていた。


「今日は少しお話ししたいことがありまして。」

ルーカスは椅子に腰掛けながら、彼女の目をじっと見つめた。


「リーネ様は、セレーネ家の名誉を取り戻す方法をお考えだと伺いました。そのお手伝いができればと思い、参りました。」


「……私のために?」

リーネは驚きの表情を浮かべた。


「もちろんです。」

ルーカスは微笑んだ。

「リーネ様は、ただの被害者で終わるようなお方ではない。それを証明するために、私の持つ力をお貸ししたいのです。」


彼の言葉にリーネの胸が熱くなった。これまで孤独だと思っていたが、自分を支えてくれる存在がいることを実感したのだ。


「ありがとうございます、ルーカス様。ぜひお力をお貸しください。」


こうして、リーネは新たな未来へと動き出す第一歩を踏み出したのだった――。



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