俺の名前は
トラックに轢かれて死んだ、どこにでもいる日本人だ。
「いらっしゃいませ。ようこそ異世界へ」
って。
まるでギルド受付嬢の如くカウンター席の向こう側にいる綺麗なお姉さん。
見回しても受付っぽい横長の机と椅子、お姉さんの後ろにある壁のような本棚以外は何も無い。
白い霧のようなものが漂う空間に俺は来ていた。
「立ち話も何ですから、お座り下さい」
「はい」
カウンターの向こう側からニッコリ笑顔で言われた。
とりあえず座っとこう。
俺は対面の席についた。
「私は転生を担当する女神リインです。星野昴流さんは私が受付する777番目の異世界転生者になります」
「お~、いい数字」
お姉さんは女神様らしい。
そうか、トラックに轢かれると異世界転生するっていうのは本当だったんだな。
7ゾロとはなかなか縁起が良いじゃん。
俺は特に驚きも嘆きもせず、冷静に相槌を打った。
「最初に注目するの、そこですか」
ちょっと苦笑気味に女神様のツッコミが入ってしまった。
普通はもっと違うところに気持ちがいくのだろうか?
「死んじゃったのなら、転生に期待するのみなので」
「なかなか度胸が据わってらっしゃいますね。未練などは無いのですか?」
俺は変に落ち着いちゃってるせいか、女神様に聞かれた。
未練かぁ……うーん。
「そうですね~敢えて言うなら、もうゲームできないのが残念です」
多分異世界には俺が好んでプレイしたRPGや格闘ゲームは無いだろう。
よくて【ゲーム世界に転生】くらいかな?
俺は専門学校の生徒で、就活の真っ最中だった。
学校は卒業確定で、自由登校期間に入っている。
就職先が決まらないのが悩みの種。
専門学校なら手に職がつくから就職しやすいって言ったの誰だ?
就職希望先、応募多数で落ちまくりだったけど?
それでストレス解消のため、俺は暇さえあればゲームに没頭した。
ゲームに夢中になると72時間くらい起きっぱなしでも眠くならない。
生前の一番の楽しみはゲームだった。
「なるほど。それなら、せめて転生先の情報をゲームで表現してお伝えしましょうか」
「え?」
想定外の女神様の提案に、俺は驚いた。
ゲーム世界に転生ではないけど、これから行く世界をゲームで体験させてくれるらしい。
「昴流さんが好んで遊んだゲーム機は、こんな感じでしょうか」
「おおっ! まるでSE●Aサ●ーン!」
なんと女神様、俺の愛機そっくりなゲーム機を出してきたぞ。
今はもうアキバのジャンク屋でしか手に入らないであろうレア品だ。
「ではこのゲームであなたが転生する少年の生誕から6歳までを
「分かりました」
スタートしたゲームの世界は、よくある西洋ファンタジー系だ。
剣と魔法の世界で、冒険者が活躍する。
主人公は孤児院の前に棄てられていた赤ん坊。
アルキオネと名付けられ、銀髪で濃い青色の瞳の美少年に育つ。
学校に通うお金の無い孤児たちは、冒険者学園なら学費が無料なので学ぶことができた。
アルキオネもそれに倣い、学園に入学して冒険者を目指す。
しかし学園内には差別があり、親のいる子供たちが孤児たちをイジメている。
アルキオネも入学したその日から3人組の少年たちから嫌がらせを受けるようになった。
シナリオが1本道なのは、既に起きたことをゲーム化しているからだろうか。
手に馴染むコントローラーを握り、俺はアルキオネの6年間を体験した。
「OK、世界観と
「では、転生前に加護と祝福を付与しておきますね。ステータスを確認して下さい」
「それってステータスオープンとか言わないと見れないやつですか?」
「言わなくても見たいと思えば見られます」
説明されて確認したステータスは、空中に半透明のパネルで表示された。
元のアルキオネの能力に転生者補正がかかったチートなものになっている。
元のステータスはとても質素なもので、筋力・敏捷・知力・器用などの能力値はかなり低い気がする。
攻撃力や防御力も低いから、ケンカは弱そうだ。
アルキオネがイジメっ子に勝てなかったのは、そういう理由なんだろう。
ただし、魔力が飛び抜けている。
∞って、これ多分魔力切れとかないやつ?
「魔力がやけに高いような?」
「それが、アルキオネが
「魔法は1つもないけど、これから覚えるんですか?」
「これから習得するのですよ。転生したら図書館へ行ってみて下さい」
女神様が嬉しい情報をくれた。
学園の図書館へ行けば魔法書があり、それを読むことで基本の魔法は習得できるらしい。
「上位の魔法書はダンジョンの宝箱から手に入ります」
ゲーマーには嬉しいダンジョン情報も。
よし、アルキオネを鍛えてダンジョンに挑もう。
「元のアルキオネは魔法文字を読めなかったので覚えられませんでしたが、あなたには転生者特典の言語理解があるので読めるでしょう」
アルキオネは魔力の持ち腐れの子だったようだ。
俺が宿ることで、その魔力が役立つだろう。
「ではそろそろ転生させますよ。さっきのゲームのラストシーンからです」
「はい」
いよいよ、転生だ。
アルキオネが呪いの魔法陣の上に倒れたところから。
魔法陣が白く強い光を放っている。
俺は女神リイン様の777番目の転生者として、アルキオネの中に入っていった。